軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

08-18 これから

戻るつもりはないか、と聞いたラインハルトに対してエルザは、

「うん。ごめんなさい」

そう言って頭を下げた。ラインハルトは寂しそうな、本当に寂しそうな顔をしたが、

「まあ、お前が考えて決めたんならいいだろう。というか僕がいいとか悪いとか言うのも変だけどな」

そう言って仁に向き直り、

「ジン、こんな至らない従妹だが、よろしく頼む」

と頭を下げた。

仁も当分は面倒見なきゃいけないだろうなと思っていたので肯いておく。

「ふつつかものですが」

とエルザまでそんな台詞を口にする。わかって言ってるとは思えないが『面倒見る』が別の意味になりそうだ。

「……しかし、本当にジンがこの世界の生まれではなかったなんてなあ」

かつて、崑崙島の温泉でラインハルトが何気なく口にした台詞であった。

「うん、まあ、なあ」

「世界の常識に疎いのも当然だな」

「でも、納得」

ラインハルトとエルザはそれぞれに仁という存在の理不尽さを納得したようである。

そんな雰囲気の中、仁は、

「あとは、これからどうするかなんだ」

とラインハルトを呼んだもう一つの目的を口にする。

「これから?」

「ああ。俺は 統一党(ユニファイラー) に最後通牒を突きつけてきた。それでもおそらくあいつらは止まらないだろう」

腕組みをした仁は難しそうな顔でそう言った。

「奴らは『魔導大戦前の』とか謳い文句にしているが、その実、権力が欲しいだけだと思う。とにかくやり方が気にくわない。だけど俺は戦術は組めても戦略は考えられないからなあ」

仁がそう言うとラインハルトは肯き、

「なるほど、言いたい事はわかった。大局を見据えられるような人材が欲しいのか」

「まあな。もっと正確に言えば、そういう人の知識が欲しい。『 知識転写(トランスインフォ) 』で転写させて貰うから」

そう仁が言えばラインハルトは苦笑して、

「そうだな、ジンにはその手があるんだな」

と言った。

「いや、先代の頃には普通の技術だったらしいぞ? まあ欠点もあって、本人が頑強に抵抗すると転写失敗するし、ゴーレムや『 自動人形(オートマタ) 』への転写はできても、人間には出来ないんだ。それに適性がないと使えないし」

「ん? ジンがアドリアナ……先代から知識を受け継いだ時はできたんじゃないのか?」

「ああ、それだ。本人と同じ魔力パターンを持っていないと同調できないから不可能なんだよ。それで礼子も俺を捜すのに1000年もかかったというわけなんだ」

それを聞いたラインハルトは落胆する。

「……そうか。それは残念だ」

「『 知識転写(トランスインフォ) 』はライ兄には覚えられないの?」

そこへエルザが思いついた事を口にする。

「確かに、ラインハルトが 知識転写(トランスインフォ) を使えればいいんだが、かなり適性を必要とするらしいぞ」

それでもとりあえず試してみようというので、礼子に手伝って貰って、 魔結晶(マギクリスタル) から 魔結晶(マギクリスタル) へ転写出来るかどうかで判断する事にした。

話の途中でこういう事をやり始めるあたり、仁もラインハルトも似たもの同士である。

「いいか、『 魔導式(マギフォーミュラ) 』はこうで、『 魔鍵語(キーワード) 』はこうなる」

「ふんふん。やはり難しそうだな」

「まあ、適性を見るだけだから、一回で成功させなくてもいいんだ」

「わかった。やってみよう。『 知識転写(トランスインフォ) 』」

一瞬 魔結晶(マギクリスタル) が淡く光ったように見えた。礼子はずっと 追跡(トレース) で魔力の流れを追っていたが、

「残念ですが適性は低そうです。でも訓練次第ではレベル2くらいまでは使えるようになるでしょう」

と結論を下した。

「レベル2? それはどのくらいなんだい?」

「そうですね……」

言語知識がレベル1、行動・動作パターンが2、一般知識が3から5、専門知識が3から7、潜在意識が6から8くらいである、と礼子は説明した。知識の複雑性が関係し、レベルの重複がある。

「レベル2ということは言葉と行動・動作パターンか……」

がっかりするラインハルト。だが、

「それでも今よりずっと進んだゴーレムが作れるということだものな!」

立ち直りも早い。

「やっぱりライ兄は工作バカ」

隣でエルザがぼそっと呟いた。

「……エルザもやってみるか?」

仁は気軽にエルザに声を掛けた。

「うん、やらせて」

それでエルザにも同じ事をやらせてみる。

「『 知識転写(トランスインフォ) 』……どう?」

「レベル3くらいまで使えるようになりそうです」

「なにい! 羨ましいぞエルザ!」

大声を上げるラインハルト。それを見たエルザはくすっ、と小さく笑った。

* * *

「とにかく、それほど高度でなくてもいいから、戦略を練れるような人物は身近にいないかな?」

「いない事もないが」

ラインハルトは難しい顔。

「……さま」

「え?」

エルザが誰かの名前を口にした。よく聞き取れなかったので聞き返す仁。

「……モーリッツ兄さま」

「モーリッツ?」

「エルザの上の兄上だよ」

「エルザの兄さん?」

「ああ。モーリッツ殿は体は弱いが、知略では誰も敵わないくらいと言われている」

弟のフリッツが脳筋で、兄が虚弱な知性派。どうも両極端な家系である。まあ兄弟が協力し合えばいいのだろうが、エルザたちの父親、ゲオルグ・ランドル・フォン・アンバーはラインハルトの父、ヴォルフガング・ランドル・フォン・モルガンと仲が悪い。兄弟必ずしも仲良くはないのである。

「そこまで優秀でなくてもいいけどな」

老子の演算能力はおそらくだが人間の数万倍、基礎知識さえ与えられれば、自分でシミュレートし、すぐに熟練してしまうだろう。

「いや」

仁はそこでふと思いついた事が。

「軍師とか参謀も作ればいいのか」

「ジン?」

考え込んだ仁を怪訝そうに見るラインハルト。仁は慌てて、

「あ、すまん。ちょっと考え込んでしまった」

と謝る。そして、

「まあ、すぐにというわけじゃないからな。後は、全身鎧って手に入らないかな?」

「全身鎧?」

「うん」

仁は説明する。アンの知識の中に、『強化鎧』というものがあった事を。

「強化鎧か! それは僕も興味ある。セルロア王国内で調達は難しいかもしれないが、なんとかしてみよう」

ラインハルトも興味を持ち、入手方法を考えてくれる事になった。

「最後に、俺はどうしようかということなんだが」

仁がそう言うと、ラインハルトは寂しそうな顔をした。

「そう、か。これでもう、ジンとの旅も終わりなんだな」

「え?」

「ん? そういう話じゃないのかい?」

仁はそれを否定する。

「違う違う。俺は旅にも興味あるさ。まだこの世界には俺も知らないようなものがたくさんあるだろうし、ショウロ皇国にも興味あるし、な」

「本当かい?」

仁は笑って肯く。

「ああ。こんな事で嘘を付くものか。ただ、数日はここで装備を充実させたいと思ってさ」

と説明する。

「明日だろ? トーレス川渡る日って」

ラインハルトは肯く。

「そうだ。人間はいいとして、馬車を乗せて貰える船がなかなか空かないんでね。明日を逃すとまたいつになるか」

うーんと仁は考え込む。

「後から合流するってのは出来るかな?」

その問いにラインハルトは、

「難しいが出来るだろう。川を渡ると関所があって、王都の特別警戒域に入る人員が確認される。出る時に照合され、増えていたり減っていたりすると面倒事が起きるんだ」

「つまり、特別警戒域を通過する間こっちにいればいいわけか」

「まあそうだな。およそ5日から10日ってところか」

仁は再び考え込む。5日あればかなりの装備が用意できるだろう。問題は馬車だ。仁も礼子もいないし、まともに動かせる者がいないことになる。

「お父さま、あの砦跡あたりに 転移門(ワープゲート) を設置してしまったらいかがですか?」

礼子が提案してきた。

「そうか……セルロア王国はきな臭いしな。前進基地を作っておくか」

「ええ?」

よくわかっていないラインハルトにあらためて説明した仁であった。