軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

08-19 1つの大団円

「さて、最後になったが、エルザに聞きたい事がある」

「何?」

「ミーネの事なんだが」

仁がそう言うと、エルザは勢いよく身を乗り出して、

「ミーネ! もう元気になったの!?」

と急き込んで尋ねた。仁はその勢いに驚きつつも、

「ああ。もう意識も回復しているよ」

そう教えるとエルザはすとん、と腰を落とし、

「よかった……」

とぽつりと一言。

「エルザ、ミーネはお前を唆して危険な目に遭わせたとも言えるんだぞ。それでも心配なのか?」

とはラインハルトの言葉。少し怒りが感じられるのは気のせいではないだろう。

「ん。でも、ミーネは私が危ない時に身をもって庇ってくれた。やっぱり心配」

そうエルザが答えるとラインハルトは溜め息を吐いて、

「はあ、やっぱりな。それも血というものなのかな」

と諦めたように呟く。それを聞きとがめたエルザが、

「ライ兄、どういう意味?」

と尋ねる。ラインハルトは真剣な顔になって、

「ミーネはお前の実の母親だと思う」

そう告げたのである。エルザは座布団を蹴飛ばして立ち上がる。

「ライ兄! それ、ほんと?」

「ああ。本人もそう言っていた」

今度は仁がそう答える。

再びエルザは座ろうとしたが座布団が跳んでいってしまっていたのでそのまま床に腰を落とし……後ろにひっくり返った。

「あぅ」

「だ、大丈夫か?」

仁とラインハルトが心配して駆け寄った。正座が苦手なエルザとラインハルトのため、座布団を5枚重ねにしていたからその段差は大きかった。

「……お尻痛い……でも大丈夫」

そう言ってエルザはお尻をさすりながら立ち上がり、座布団を引き寄せてそこに腰掛けた。目に涙が溜まっていたのは尻餅の痛さか、はたまた実の母親がわかった嬉しさか。

「ミーネに会いたい」

エルザは仁の顔を見てそう言った。仁はそれを受けて考え込む。そして1つの結論を出した。

「よしわかった。エルザ、ミーネと一緒に崑崙島に住むといい。あそこなら安全だし、 転移門(ワープゲート) で簡単に行き来出来る」

それには礼子も賛成する。

「そうですね、この島ですといろいろ問題がありますが、元々崑崙島は蓬莱島のダミーでしたからね。いいと思います」

「あそこなら環境もいいしな。そうしてやってくれれば僕も安心だ。もうミーネを雇い直すわけにも行かないからね」

ラインハルトも賛成したので、後ほど崑崙島に呼び寄せる事とした。

「それじゃあ、僕は一旦テルルスに帰るよ」

「うん、後の事はよろしく頼む。馬車だけはこっちで引き取るから、俺が途中で旅から抜ける事は上手く言っておいてくれ」

「もちろんさ。セルロア王国特別警戒域に入りたくないから回り道をして合流するとかなんとか言っておくよ」

それで仁はラインハルトに 魔素通信機(マナカム) を渡した。

最近、魔力周波数の調節と同調に成功し、1000チャンネルくらいは混信せずに通話できるようになったのである。電波に比べたら全然大したチャンネル数ではないが、蓬莱島全メンバーをカバーできるという事は大きな意味がある。

「これで蓬莱島の老子に連絡できる。老子は俺に回す事が出来るし、俺がいない場合は老子に伝言をしておいてもらえばいい」

「なあるほど、これはいい。そうだな、定期的に連絡を入れる事にするよ。夜がいいかな」

さすがラインハルト、密に連絡を取り合っていれば合流するのも楽だろう。

「それじゃあ、俺もミーネを迎えに行くから一緒にテルルスへ行こう」

「ジン兄、ミーネをお願い」

そういうわけで、仁とラインハルトそれに礼子は、エルザに見送られてテルルスへ跳んだ。

* * *

「僕はミーネに会わない方がいいだろう。よろしくと伝えておいてくれ」

「わかった」

ラインハルトは宿へ戻り、仁はサリィ・ミレスハンの治癒院へと向かった。

「こんにちは」

治癒院には今回、患者がいなかった。

「おお、君か。患者は大分良くなったよ。君の回復薬は凄いな」

そう言ってサリィは仁を出迎えた。

「そうですか。それじゃあ退院させても大丈夫ですか?」

「うん? それはまあ大丈夫だろう。しかし無理はいかんぞ?」

「ええ、大丈夫ですよ。受け入れ先で養生させるつもりですから」

仁がそう言うとサリィも安心したようで。

「そうか。それなら安心だな。あと2日もおとなしくしていれば元通りに治るだろう」

と言った。それで仁は病室へ向かう。

「あ、ジン様」

上体を起こそうをするミーネを仁は押し止めて、

「ミーネ、もう大分いいのかな?」

と聞いた。ミーネは笑みを浮かべ、

「ええ、おかげさまでもう痛みはなくなりました。まだちょっと身体に力が入らないだけで、もう大丈夫ですよ」

と言う。だが仁は、

「いや、治りかけが一番大事なんだ。今回は、寝床を移ってもらおうと思ってね」

「ここでなく、どこへ? ……もしかして?」

ミーネの顔が期待に輝く。

「ああ、薄々わかっているのかな? エルザのいる所へさ」

「ああ、エルザ! ……で、でも、エルザは私を許してくれるでしょうか?」

そう言って不安そうに俯くミーネ。まったく、これがあのミーネかと思う程の変わりようである。憑き物が落ちた、というのはこういう事なのかもしれない、と仁は思った。

「大丈夫さ。そして、エルザはミーネの事を実の母親だと知っているよ」

そう仁が言ったら、ミーネは目を丸くした。

「さあ、母娘の名乗りをあげるといい。だから、行こう」

「は、はい」

こうしてミーネは退院した。まだ足元がおぼつかないので、 隠密機動部隊(SP) のエルムとアッシュを呼び出し、運ばせる事にした。

「先生、お世話になりました」

仁は去り際にサリィに向かって頭を下げた。

「なんの、こちらもいろいろと助かったよ。回復薬、私も研究してみる。まずは自分の血で試してみる事にするよ」

「頑張って下さい」

そのまま馬車の置いてある所まで行き、あたりに人がいないことを確認後乗り込む。

馬車の 転移門(ワープゲート) をくぐる際だけ仁がサポートし、ミーネと仁は一旦蓬莱島へと跳んだ。エルムとアッシュは馬車の警備だ。

礼子も 隠密機動部隊(SP) と共に今しばらく残り、馬車を 統一党(ユニファイラー) の砦跡へ回し、そこに前進基地を作る準備を整えてから戻る手筈になっている。

「さあ、お父さまのためにも早く済ませてしまいましょう」

礼子は連れてきたゴーレム馬を馬車に繋ぐとすぐに御者台に座り、馬車を猛スピードでスタートさせた。 隠密機動部隊(SP) は姿を消したままそれに付いていく。

「お、おい、なんだ、ありゃ?」

「馬車……か? それにしちゃ速えな」

目撃した何人かは驚いたり訝しんだりしたが、それ以上の事は何も無く、礼子は2時間で砦跡まで馬車を回したのである。

* * *

仁はミーネを連れて蓬莱島に戻る。ミーネは初めて経験する 転移門(ワープゲート) に目を白黒させて驚いていた。

研究所から外へ出て、館に。もう外は薄暗かった。

と、館の前に人影が1つ。もちろんエルザである。

それに気付いたミーネはびくっと身体を震わせ、そこに立ちすくんだまま声も出ないようだ。

エルザもミーネを見つめたまま立ち尽くしている。

仁はそっとその場を離れた。

「かあ……さま」

最初に動いたのはエルザだった。

一歩、また一歩、ゆっくりと歩み、ミーネへと近づいていく。

一方ミーネは少し狼狽し、後じさりまでしかかっている。

「母さま!」

ついにエルザは駆け出した。そして勢いよくミーネに飛び付き、抱きしめる。

初めのうちこそどうしていいかわからないように両腕を宙にさまよわせていたミーネであったが、やがてその両腕はエルザをしっかりと抱きしめる。

「エルザ!」

「母……さま」

2人とも泣いていた。

「……こんな身近に本当の母さまがいたなんて。私は独りじゃなかった」

「ごめんなさい、悪い母親で……謝って許して貰えるとは思わないけど」

「ううん、ううん……もう、いいの」

2人はあたりが真っ暗になるまでそこでそうしていたが、病み上がりのミーネを心配した仁がついに声を掛け、やっと2人は離れたのである。

* * *

この後2人はもう一度 転移門(ワープゲート) をくぐって崑崙島の館へ。

ここでは5色メイドゴーレムのアメズ、アクア、トパズ、ペリド、ルビーのそれぞれ100番たちに世話を任せる。

エルザは前に来て知っているが、ミーネは多少、いやかなり引き攣った顔をしていた。

「それじゃあ、何かあったら 魔素通信機(マナカム) で連絡をくれ。お母さんを大事にな」

「ん、いろいろありがとう」

「ジン様、何から何までありがとうございました」

「ミーネ、早く身体を治しなよ」

そして仁は蓬莱島へと戻ることにする。

「母親、か。エルザ、よかったな」

ふと独り言がこぼれる。

転移門(ワープゲート) に向かう途中、ふと空を見上げると満天の星空であった。

そして蓬莱島に戻った仁はいよいよ本格的に動き出すことになる。