作品タイトル不明
07-18 ギガース
「『ギガース』?」
聞き慣れない単語に仁もラインハルトもアンに聞き返した。
話が長くなりそうだと察した礼子は、再びアンに寄り添って魔力同期を行い、アンの代わりに説明をし出した。
「ギガースというのは、対魔族戦争において……対魔族戦争というのは魔導大戦のことらしいです……対魔族戦争において、最終局面で開発された兵器です」
当時の者達は対魔族戦争と呼んでいたようである。
「ですが、ギガースは不完全でした。製作者の言うことを全く聞かなかったのです」
「で、そのギガースというのはどんな兵器なんだ?」
何となく嫌な予感がして仁は先を促した。
「ギガースというのは全高10メートルの巨大な人型兵器です」
それを聞いて仁さえも驚いた。そんな物の存在は知らない。先代没後、魔導大戦までの間に開発された兵器だからだ。
「ゴーレムなのか?」
「いえ。ギガースはギガースです」
「詳しく特徴を教えてくれ」
ラインハルトも顔を青くしてそう言った。
「ギガースの形は人間に似ていますが肩幅が広く、足が短く、腕が太く長いです。大きさは約10メートル、重さは約30トン」
「巨大ゴーレムだな」
ぽつりとラインハルトがそう言うが、礼子つまりアンは否定する。
「いいえ、違います。ギガースは単なる岩屑の集まりですから」
「岩屑の集まり……」
仁は想像してみる。むしろ前の世界で言うゴーレムはそういう物だったような気がする。孤児院に一台だけ有ったTVゲーム機でやったゲームにそんなモンスターがいた。
「そんなもの、あそこにあったのか?」
仁達がアンを見つけた遺跡内部にそんな巨体を見た憶えはなかった。
「いえ、ギガースは『 魔力核(コア) 』の状態で封印されていたはずです」
「『 魔力核(コア) 』? 『 制御核(コントロールコア) 』でなく?」
聞き違いかと仁は思った。 魔力核(コア) は魔物が持つ核である。
「 魔力核(コア) です。ギガースは『人工魔物』ですから」
「『人工魔物』?」
また聞いたことのない単語が出て来た。
「はい。魔族に対抗するために作られた人工魔物です」
「目には目を、というわけか」
仁は腕を組み、考え込む。
今、礼子が読み取ったところからすると、 自動人形(オートマタ) のアンは記憶を消去されたわけではなさそうだ、と判断する。おそらく、礼子と同様、 制御核(コントロールコア) が耐用年数を迎え、情報の読み取りが不安定になっているのだろう。今無理をさせると、せっかく手に入れた『失われた情報』を手放すことになりかねない。そう仁は結論した。
といっても、今ここでアンをきちんと修理することは出来ない。
仁は 自動人形(オートマタ) のアンを大急ぎで調べ始める。ラインハルトにも手伝ってもらいながら。
エルザは切羽詰まったような仁の表情を見、邪魔をしないよう黙っていた。
鋼鉄の骨格は錆が発生して関節は所々動かなくなっており、何かわからないが魔物の革を使った筋肉組織は何箇所も千切れている。
被覆の 魔法外皮(マジカルスキン) は合成物だがこれもぼろぼろであった。
仁は、彼女が作られてから大体350年近く経っているようだと判断した。魔導大戦が300年前として、それよりも古い。
礼子よりも全体に素材の品質が劣っていたので350年で限界が来たのだろう。とりあえず、発声装置である 魔結晶(マギクリスタル) の振動板を応急修理しておく。
とはいえ『 融合(フュージョン) 』でヒビの入った 魔結晶(マギクリスタル) をくっつけただけなので、寿命の来ている発声装置は遠からず壊れてしまうだろう。
「アン、君を作ったのはどんな人だったんだ?」
仁はそう聞いてみることにした。
「はい、わたしめは量産工場で作られましたので特定の創造者はいません」
大分話し方が改善され、礼子の助けを借りることはなくなった。
「量産工場、そんなものがあったのか」
「はい、わたしめのような秘書用 自動人形(オートマタ) や、戦闘ゴーレムなどは工場で作られていました」
その設計基盤がおそらく先代のものをベースにした物だったのだろう、と仁は推測した。
「いやあ、ジン、このアンはすごい構造だな、勉強になったよ!」
ラインハルトもアンの構造を見て驚いたようだ。
だが今は緊急の問題がある。
「それじゃあ、ギガースについて、知っていることを教えてくれ」
「はい。ギガースは、 魔力核(コア) に蓄えた魔力を使い、周りの岩屑を纏って身体を作り上げます。 魔力核(コア) と魔力がある限り何度でも再生します」
むしろ仁がやったことのあるゲームでのゴーレムに近い。
「それじゃあ、アンがいた部屋にそのギガースの核があったのか?」
「それはわかりません。わたしめにはそこまでの情報は与えられていませんでしたから」
そこまでの情報を元に、ラインハルトが推測をまとめる。
「とにかく、遺跡のどこかにギガースの 魔力核(コア) があり、なんらかの要因でそれが起動し、動き出した。そして傍にあったルコールの小屋を踏み潰した」
だいたいそう言うことだろうと思われる。今重要なのは、原因を突き止めることよりもギガースの行方である。ルコールも気になるが。
今更ながら、遺跡を塞いでおかなかった迂闊さが悔やまれる。もうろくな物は無いと油断したというのもあるが。
「うーん、不完全で製作者の言うことを聞かない、と言ったな? どういう状態になるんだ?」
ただ言うことを聞かないならいいのだが、そう期待をこめて尋ねてみるが、それは叶わない。
「はい、一旦動き出すと、敵味方の区別無く襲いかかるのです」
最悪である。ラインハルトの背中に冷たい汗が流れた。
「それで使い方としては敵のまっただ中に 魔力核(コア) を放り込むという使い方をしていました」
周りに味方がいない状態でならまあ使えるわけである。
「進み方というか、暴れる、もしくは襲う法則みたいなものはあるのか?」
ふと思いついて仁はそう言う質問を投げかけてみた。
「はい、何故か高い場所を目指します」
仁は『馬鹿と煙と山羊は高い所へ登る』という言葉をなんとなく思い出した。ギガースは煙でも山羊でもないからきっと……。
「そうすると、ルコールの小屋を潰した後、山を登っていったということだな」
ラインハルトが腕を組んで考え込む。
「どうするか、だ。放置するか、我々でなんとかするか。またはしかるべき場所に知らせるか」
「そいつを外に出したのは俺たちの責任だ。なんとか出来るものならなんとかしたい」
仁の意見は自分たちで退治することだ。まあ、礼子もいるし、そう大変な事ではないだろうと、ラインハルトも賛成した。
「時間をおけば被害が増えるかもしれないからな」
そこで、ギガースを追いかけるメンバーの話になると、エルザが自分も行くと言いだした。
「遺跡に連れて行って貰えなかったんだから私も行く」
「いや、遊びに行くんじゃないし、危険だから」
ラインハルトがそう宥めても言うことを聞きそうもない。
「エルザ、俺もラインハルトも君を危険にさらしたくない。だからおとなしくここで待っていてくれ。頼む」
顔の前で手をぱん、と打ち合わせて拝むようにする仁。拝む、という仕草は知らないエルザだが、仁の気持ちだけは伝わってきた。
「……わかった。今日が誕生日のジン君の言うこと、きく」
「ありがとう、エルザ」
ようやく納得してくれたエルザ。だいたい、今のエルザの格好はスカートである。山登りには向いていない。
仁とラインハルトは仕度を調える。と言っても、水を持ち、山登り用に杖とロープを用意しただけだ。
杖は木で作った。2人ともそういう工作は得意だ。
「それじゃあ、行ってくる」
「気をつけて。2人とも」
「ラインハルト様、ジン殿、お気を付けて。けっして無理はなさらないように」
執事のクロード、それにエルザに見送られて、仁達は山へと向かった。同行するのは礼子。今回は『桃花』を持っている。
アンはエルザたちと共に留守番だ。今のアンは登山などしたらばらばらになってしまいそうである。
礼子が先に立ち、歩きやすそうな箇所を探しながら仁達を導いていく。
「ふう、はあ」
「ぜい、ぜい」
仁もラインハルトも登山は苦手である。礼子は当然ながら涼しい顔でひょいひょいと岩から岩へ飛び移るようにして登り、また降りてきては、
「お父さま、右手の方が登りやすそうです」
とか、
「そこは岩が脆いので気をつけて下さい」
といったアドバイスをしていた。
かれこれ30分程登った所が少し平らになったテラス状なので、一息入れることにする。持ってきた水を飲み、深呼吸する2人。
「はあ、わかっていたけどきついな」
「ああ、僕も、国元で少しは山に登ったことはあったが、こんな岩山は初めてだ」
そんな会話をしていたが、いつまでも休んではいられないとまた2人は登りだした。
登れないような1枚岩にぶつかった時は、礼子が手にした桃花で岩を切り裂き、足場を作ってくれる。おかげで1時間もすると山頂が見えてきた。
「おお、あそこが山頂だ」
その時、山頂近くまで登っていた礼子が合図をしてきた。
「お父さま、ここに大きな足跡があります。目指す相手は近いかもしれません」