軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

07-05 孤独

デリード町ではそこそこの高級宿に泊まった。石造りのがっしりした3階建ての建物で、屋上もあるような造り。

夜、何となく眠れなくて部屋を出た仁は、階段を上がって屋上に出てみた。小さな明かりが灯っていてなんとか足元が見える。

春の夜空には星が瞬いていた。

「あー、綺麗な夜空だな。こっちの星座とか知らないけど」

星空を見上げた仁は柄にもなくセンチな気分になる。それで、

「礼子、いるんだろ?」

「はい、お父さま」

いつも仁を守っている忠実な 自動人形(オートマタ) 、礼子が『 消身(ステルス) 』の魔法を解いて姿を現した。

「こっちへおいで」

「はい」

何となく心寂しくなっていた仁は礼子を傍に呼び、頭を撫でる。

「お父さま?」

いつもと少し違う仁の様子に、礼子が怪訝そうな声を上げた。

「ん、ああ。お前はいつも俺の傍にいてくれているからな」

「はい、それが私の存在理由ですから」

「ふふ、お前はいつもそう言うな。まあいいさ、ずっと傍にいてくれよ」

「はい、もちろんです」

暗くて仁にはよく見えないが、その時礼子はとびきりの笑顔を浮かべていた。

「・・・・・・」

突然仁の口から歌が零れ出す。今までなぜかずっと忘れていた歌。

お経を探しに西へ行く一行の物語、そのエンディングテーマ。これは院長先生のコレクションの中でもカセットテープではなくビデオテープで聞いた曲だ。

「お父さま……」

礼子は仁の手を握る。それで少しでも寂しさが紛れることを願って。

「・・・・・・・・・」

仁が歌い終わった、その時。

背後で足音がした。礼子は素早く振り向き、戦闘態勢を取る……、が。

「ジン、くん?」

それはエルザだった。エルザの部屋は3階であり、仁の声が聞こえたので上がってきたらしい。

「エルザ? どうした?」

仁がそう聞くと、

「それはこっちの台詞。ジン君こそどうしたの?」

「どうした、って聞かれてもな。何となく、眠れないから出て来てみた」

そう答えるとエルザは探るような顔をした後、

「ふうん」

と一応納得したかのような反応をした。

「で、いまの歌は?」

「なんとなく」

その返事に納得できないらしく、エルザはじっと考え込むような素振りを見せていたが、

「ジン君、さびしいの?」

とずばり仁の胸中を言い当てたではないか。

「え?」

暗いので焦った顔を見られないで済んだようだが、仁は明らかに狼狽していた。まさかエルザに言われるとは思っていなかったこともある。

「な、何で?」

多少上ずった声でそう問い返すと、

「私がそうだったから」

エルザがそんなことを口にした。

「父さまは軍人だからめったに家にいない。母さまは体が弱くて部屋からあまり出ない。兄さまたちとは歳が離れているのであまり話が合わない」

以前聞いたエルザの家族構成、あらためて聞くとやはり同情したくもなる。

「ライ兄もそういつも遊んでくれるわけでもない。特に外交官になってからはなかなか会えなかった」

同い年の友人もあまりいなかったに違いない。会話があまり得意でないというのもその辺に原因があるんだろう、と仁は思った。

「さびしいとき、かえって一人になりたくなることもある。そして楽しかったころのことを思い出したりする」

「エルザの楽しかった頃、というのは……」

「小さかった頃。兄さまたちやライ兄といっしょに遊んだ、ううん、遊んでもらった頃」

やはり幼い頃の思い出というのは、皆、特別なものらしいと仁はあらためてそう思う。何も知らずにただ遊んで過ごせた幼い日。

仁の場合はごくごく短い間であったが、確かにそれはあった。

「ジン君はすごい 魔法工作士(マギクラフトマン) 。だけど、だからこそ孤独」

今夜のエルザはやけに鋭い。

「……と、ライ兄が言っていた」

でも実はラインハルトの受け売りだったようだ。

「ライ兄が言っていた。孤独を埋められるのは同じ思いを分かつことの出来る者だけだって」

「……エルザ」

仁は、エルザの口からそうした言葉が出てきたことに驚く。が、

「……って、どういう意味?」

やっぱりエルザはエルザのようだ。

なんとなく深刻な気持ちがどこかに行ってしまった仁。もう一度夜空を見上げ、そしてエルザを見る。

「寒くないか?」

暗闇の中、良く見ればエルザは寝間着姿であった。

「ん。だいじょうぶ」

それでも仁は着ていた上着を脱いでエルザに羽織らせた。

「ありがとう。ジン君はいつもやさしい」

エルザは礼を言って上着の前を合わせる。そんなエルザに仁は、

「なあ、昼間、『庶民派』と『選民派』の話をしたけど、対立って酷いのか?」

「そんなことはない。うちの国は庶民派が多い。選民派は一部の貴族だけ」

エルザの説明によると、 魔法技術士(マギエンジニア) = 魔法工作士(マギクラフトマン) を抱える一部の貴族が技術を独占しようとしているらしい。

「単に優越感に浸りたいだけ」

と切り捨てるエルザ。

「でも、ジン君はそんな事、嫌い、のはず」

「ああ。好きなものを作るのもいいけど、やっぱり人に喜んで貰えるというのは嬉しいからな。作った甲斐があったと思えるのはそういう時だよ」

「ライ兄も似たようなこと言ってた」

そしてエルザは言葉を切り、俯いて何か言いたそうにもじもじしていたが、やがて意を決したように顔を上げ、

「ライ兄は言うな、って言ってたけど」

そう前置いて、

「私はジン君にショウロ皇国に来てほしい。そして好きな物、役に立つ物をいっぱい作ってほしい」

そして少しだけ顔を赤らめ、

「……作っている時のジン君の顔、私はすき」

そう言うとくるりと振り向き、

「おやすみなさい」

そう言い残して屋上から消えていった。

「好きな物、役に立つ物、か」

一人になった仁は独り言を呟いた。何故か礼子の姿は見えない。

「孤独でなくなる、ということは定住する、ということだよな」

今の仁は一人だ。どこの国にも所属していない。

「まあ、いずれどっかの国に住むつもりではいたけど」

元々この旅で各国を見て回り、結論を出すつもりだった。

「ショウロ皇国、か」

* * *

その頃、姿を消した礼子はというと。

「お姉さま、こんな男がいました」

『蓬莱島 隠密機動部隊(SP) 』、別名『忍者部隊』からの報告を受けていた。

「毎晩毎晩うるさいですね。お父さまにわざわざお知らせするのもご迷惑でしょうから、あなたたちで処分しておいて下さい」

「はい、わかりました」