軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

07-06 閑話5 久しぶりのカイナ村

仁は今、1人カイナ村に来ていた。

あれから、なんとなく思い出し、なんとなく来てみたくなったのである。

馬車の 転移門(ワープゲート) で一旦蓬莱島へ行き、そこからカイナ村外れのシェルターに設置した 転移門(ワープゲート) へ。

カイナ村も夜であった。

デリード町は晴れていたが、こちらは薄曇り。なんとなく生ぬるい空気が、春の夜らしかった。

「もうみんな寝ているよな……」

娯楽らしい娯楽もないし、農作業中心のカイナ村の夜は早い。日が暮れれば大概の家では寝てしまう。

雲間越しの月明かりでなんとか道は見えている。仁は一人、懐かしい道を歩き出した。

「マーサさん、ハンナ……元気かなあ」

そっと、垣根越しにマーサの家を覗く。仁が取り付けた雲母の窓越しにハンナの部屋が見える。

覗いてみたかったが、さすがにそれは変質者のすることだと危うい所で思い直した仁は、未練げに家の周りを一周してから先へ進む。

そこはポンプのある場所。仁が初めて工学魔法で役に立つ道具を作り設置した場所である。

「ちゃんと働いてくれているな」

そっとポンプの取っ手を動かしてみる仁。『 硬化(ハードニング) 』で耐久性を上げてあるポンプはほとんど消耗していなかった。仁は満足して取っ手から手を放す。

次に向かったのは温泉だった。

掛け流しの温泉は夜中でもお湯の音がしていた。

掘っ立て小屋だった屋根はきれいな板葺きとなり、全体にしっかりとした作りになっていた。それだけ村人たちがこの施設を大事にしてくれているのだろう。

中を覗いた仁は、掘り抜いた穴に若干湯の花が付着していたのでそれを工学魔法で除去しておいた。

汚れたお湯や水を沈殿させる沈殿槽にも泥が溜まっていたので『 分解(デコンポジション) 』と『 浄化(クリーンアップ) 』で綺麗にしておいた。

また仁は歩いて村を巡る。広場に出ると、暗い月明かりにもかかわらず、薄紅色の花が咲き誇っていた。

「クェリーの花、か。本当に桜そっくりだなあ」

日本にいた時、一番好きだった花。仁はしばらくそのまま、満開のクェリーを見上げていた。

「御主人様」

そんな仁に気が付いて声を掛けたものがいる。振り向いた仁の目の前にいたのは、

「ゲン」

ゴーレムのゲンだった。夜中の警備中だったようだ。

「今夜はどうされたのですか?」

「うん、クェリーの花が見たくて」

別に隠す必要もない相手なのに、なんとなく気恥ずかしくてそう答えてしまう仁であった。

そして唐突に思い至ったこと。

「ゲン、ゴンはどうしてる?」

「はい、同じように村の警備で巡回中かと」

それを聞いた仁は、

「よし、それじゃあ順番だ。まずゲン、付いて来い」

「はい」

仁が思いついたことというのは、ゴンとゲンにはまだ『隷属書き換え魔法』への対策を施していなかったと言うことである。同時にゴーレム馬たちにも。

そこで仁は取り急ぎ、カイナ村に残したゴーレム達に対策を施すつもりであった。

* * *

「老子、『隷属書き換え魔法』対策用の部材は揃っているな?」

「はい、 御主人様(マイロード) 。蓬莱島の全ゴーレムに対策済ですし、予備・交換用として100セット用意してあります」

「よし、今からこの『ゲン』にも同じ対策をする。その後は『ゴン』、そして5体のゴーレム馬にだ」

「了解しました」

そして仁は老子のサポートでゲンに隷属書き換え魔法対策を施す。同時に 魔導装置(マギデバイス) の調整と最適化を行い、全体のメンテナンスも行った。

これによってゲンの出力が8パーセントほど向上。総合的に見ると礼子の30パーセントくらいまで出せる状態だ。

更に 消身(ステルス) 機能も追加し、秘密裏に村を守護できるように改良した。

「よしゲン、村に戻ってゴンをこちらに来るように伝えろ」

「はい、御主人様」

そしてゴンにも同様の処置。続いてゴーレム馬のアイン、ツバイ、ドライ、カトル、サンク、そしてハンナのミントにも施してほっとする仁。

「万が一カイナ村が襲われでもしたら大変だからな」

因みに馬たちには 消身(ステルス) は付けていない。

全部の改良が終わると仁はもう一度カイナ村へと転移した。

転移門(ワープゲート) のあるシェルターは村の外れにあり、そこからはエルメ川も近い。

今度仁はエルメ川へ行ってみることにした。

河原はようやく春の草が萌え出始めたばかり。河原の砂利を踏みながら仁は懐かしさに顔を綻ばせる。

「あの淵で水中鬼ごっこしたっけなあ。確かあの時か、砂に混じった 魔石(マギストーン) を見つけたのは」

仁はそれを利用してコンロを作り、商人のローランドに売ったのだった。

「なんだか遠い昔の事みたいだけど、まだ3ヵ月くらいしか経っていないのか」

いろいろなことがありすぎた気もする、と仁はカイナ村を離れてからの事を思い起こす。

「ブルーランドでビーナと会って、ポップコーン作って、冷蔵庫作って、クズマ伯爵と出会って、礼子が大立ち回りやらかして」

思い出すと懐かしい。

「ポトロックでゴーレム船作って、 凶魔海蛇(デス・シーサーペント) とやりあって、ラインハルトたちと旅を始めて」

つい昨日のことのようでもあり、遠い昔のことのようでもある。

「凧作ったり盗賊を捕まえたり、崑崙島整備したりロッテ作ったり、そうそう、ゴーレム騒動もあったんだっけ」

『何もかも……皆懐かしい』という、アニメの名台詞を呟きたくなる心境の仁であった。

そうこうしていると東の空が薄明るくなってくる。

カイナ村は、今仁達が旅をして泊まっているデリード町よりもずっと東にあるので朝が早い。

「そろそろ早い家は起き出す頃だな」

そう呟いた仁は 転移門(ワープゲート) のあるシェルターに向かって歩き出す。

「また来るからな」

そう一声、誰にともなく声を掛けた仁はシェルターに潜り、内部に設置した 転移門(ワープゲート) で蓬莱島へと跳んだのである。

* * *

デリード町はまだ夜であった。

蓬莱島経由で戻ってきた仁は、そっと宿屋の部屋に戻り、ベッドにもぐり込む。

そして朝までの短い眠りに就いたのであった。

そんな仁の後を忠実無比の 自動人形(オートマタ) 、礼子がずっと付いて来ていた事を仁は知らなかった。

「お父さま……満足されたでしょうか」

礼子は、眠る仁の満足そうな顔を見てそう呟く。

朝にはまだ時間があり、デリード町の上には星が瞬いていた。