作品タイトル不明
35-30 新装置
《ふむ、撃退されたか》
《はい。2機は半壊、1機は通信が途絶えましたから破壊されたと思われます》
《予想どおりといえば予想どおりだな。で、向こうの力は?》
《はい。実弾兵器のようです。その速度はおよそマッハ2、鉛の砲弾を撃ち出します》
《ふうむ、興味深い。どうやって撃ち出しているのか?》
《それは今のところ不明です。ただ、砲弾の原型は球形でした》
《球形? なるほど。旧式の砲弾か》
《もう1つ。飛行船はその見かけによらず、なかなかの機動性を持っています。円盤とほぼ互角でした》
《うむ》
《最後に、気嚢の材質はなかなか優秀です。こちらの円盤が放った矢を弾き返しました》
《ほう》
《以上のことを考え合わせ、彼等の最大戦力を算定できるかと考えます》
《だが、実力を出し切っていない可能性は?》
《もちろん考慮しています。算定結果の5割増しでよろしいかと》
《倍だ》
《は?》
《算定結果の倍を想定しておけ》
《わかりました》
* * *
「うーん、やっぱりこいつにはエネルギー転送のヒントはないか……」
仁は残念そうに呟いた。
「受け入れ側にヒントがなくても不思議はないしな……とはいえ、使われているのが『転送機』のような一方通行式だとわかっただけでもましか」
転移門(ワープゲート) 式であれば、受け入れ側にもそれなりの装置があるはずだが、転送機式なら送り出し側が全て。そういうことである。
「組み立て精度は高いな。やっぱりこいつは、わざと低級に見せかけているようだ」
さらに64軽銀以外の素材も調べていく仁。
「やっぱりな。この部分に使われているミスリル銀なんて、有り得ないくらい純度が高い。こういう所をみると、偽装の詰めが甘いな。……それは俺もか」
『コンロン2』は、浮揚方式こそヘリウムガスだが、それ以外には仁の最新技術を詰め込んである。
仮に捕獲され、解析されたら仁の技術力がわかるであろう。
「気を付けないとな……」
今、仁が持つ最大のアドバンテージは、その技術力の全容はまだ知られていないということである。
「まあ、こんなところか」
得るものはあったとはいえ、やはりまだ相手の全容は見えてこなかった。
「『コンロン2』とエドガーは?」
『はい、蓬莱島に戻って来ました。『コンロン2』は 職人(スミス) に整備させます。エドガーはエルザさまが労っております』
「それならよし」
仁は、あとの分析は 職人(スミス) に任せ、蓬莱島に戻った。
工房へ行くと、エルザがエドガーを助手に、何やら実験をしていた。
「エルザ、何かできたのか? エドガー、長いことご苦労だったな」
「ん、ちょっと面白いものが」
「え?」
エルザの言葉に、仁は『それ』を見つめた。
魔導投影窓(マジックスクリーン) に何かがくっついたような形。
「『 魔力素探査機(エーテルレーダー) 』……じゃないよな?」
『 魔力素探査機(エーテルレーダー) 』は、対象空間の 自由魔力素(エーテル) 分布を調べる 魔導機(マギマシン) だ。
自由魔力素(エーテル) の分布を3次元的に捉えられる。
「で?」
「ん……『 自由魔力素(エーテル) の転送』を検討するために、 自由魔力素(エーテル) の『動き』を捉える 魔導機(マギマシン) 」
「なるほど……」
『 魔力素探査機(エーテルレーダー) 』は、 自由魔力素(エーテル) の分布を知ることができるが、エルザの作ったこの装置は、 自由魔力素(エーテル) の動きまで捉えられるという。
「これは試作だから小さい、けど」
仁はこの『 魔力流分析機(エーテルアナライザー) 』とでも言うべき装置を見つめた。
「うーん、凄いな、エルザ。よく作ったよ」
「……そうでもない」
仁に褒められ、エルザの頬が少し赤くなった。
「エネルギー転送の時、 自由魔力素(エーテル) がどういう動きをしているか、を知ることができたら、何か掴めるかも、と思った」
「うーん、なるほどな。その発想はなかった。エルザ、成長したな」
仁は、魔法工学の弟子としてのエルザの成長ぶりが素直に嬉しかった。
早速試してみることにした。
「ふんふん、濃度分布はそのまま表示の濃さで表すのか」
画面内には、部屋の中の 自由魔力素(エーテル) 分布が示されている。
仁とエルザ、礼子と思しきあたりの濃度がやや低いのは、 魔力素(マナ) 生成のために 自由魔力素(エーテル) を消費しているからだろう。
「礼子、……そうだな、『 明かり(ライト) 』を使ってみてくれ」
「はい、お父さま」
礼子の掌に光が灯った。
「お、変化あり、だな」
それと同時に、『 魔力流分析機(エーテルアナライザー) 』の画面にも変化が生じる。
「ゆっくりと 自由魔力素(エーテル) が礼子に向かって動いているのか」
濃度があまり変わらないため見づらいが、そのように見える。
「……やっぱり、まだ改良の余地がある」
少し残念そうにエルザが呟く。
「いや、それは仕方ないだろう。何せ新しいものを開発したんだから。これを元に、これからもっと性能のいいものを作ればいいんだ」
そんなエルザを仁は励ました
「……ん」
「うーん、『レンジ』を変えられるようにすればいいのかな?」
「『レンジ』? 調理道具?」
「ああ、『レンジ』というのはそうじゃなくて……『範囲』の意味、かな?」
「……あ、わかった」
エルザも知識としては知っているはずだが、調理道具としてのレンジの方が馴染み深かった故の疑問であろう。
この場合の『レンジ』は、測定範囲、くらいの意味である。
『10から15に変化』を表示するにあたり、『0から100のレンジ』と『0から20のレンジ』とでは、その見やすさが全然違う。
「改良点その、1」
エルザが頷いた。
「あとは……測定範囲を可変にすることかな?」
「ん。改良点、2」
探知範囲を10メートル、100メートル、1キロ、10キロなどと段階的に変えられると、測定に役立つというわけだ。
「あと、方向も決められると、いいかも」
「そうだな」
360度、全周でなく、任意の方向の 自由魔力素(エーテル) を測定できる機能。
「改良点、3」
そして仁としては、
「できるだけ遠距離……宇宙規模の距離と、このアルスくらいの範囲、それに国、くらいに対応したものがあるといいな」
「わかる。それぞれ、精度を出すための大きさが、違うから」
「そうそう。そのとおり」
『 覗き見望遠鏡(ピーパー) 』の前例があったので、エルザもすぐに理解した。
「さっそく、取りかかる。ジン兄、手伝ってくれる?」
「もちろんさ。でも、主導はエルザだぞ?」
「え?」
「だって、これを開発したのはエルザだからな。俺は助手を務めるよ」
そう言って笑った仁を見てエルザは、
「……何か、変。照れくさい」
と微笑んだのであった。