作品タイトル不明
35-29 ついた決着
司令室の大型 魔導投影窓(マジックスクリーン) には、3機の円盤から数本の矢が次々に放たれている様子が映っていた。
『 覗き見望遠鏡(ピーパー) 』からの映像らしい。こういう時には、客観的な視点から見られるので有益である。
『打ってくるのは短めの矢ですね。ですがその飛距離は相当なものです』
『コンロン2』はヘリウムガスを気嚢に詰めて浮かんでいる。穴を開けられれば浮いていられなくなり、最悪の場合墜落する。
とはいえ、『 力場発生器(フォースジェネレーター) 』を持っているので、実際はそう簡単に墜落はしないし、『 地底蜘蛛樹脂(GSP) 』製の気嚢は通常の矢くらいでは穴は開かない。
「だが、高をくくって居られないからな」
その時、シオンとマリッカ、それにエルザも司令室にやってきた。
「ジン!」
「ジン様!」
「ジン兄」
3人は老君から簡単な状況説明を聞いた後、画面を注視する。
「攻撃してきたの?」
と、シオン。エルザは冷静に状況分析をする。
「しびれを切らした……? だとすると相手は魔導頭脳じゃないのかも」
「うん、それよりもこの状況をどうするかだ」
『コンロン2』は、エドガーの操縦により、相手から繰り出される矢をかわし続けている。
宙返り、インメルマン・ターン、逆宙返り、スプリットS。
『 力場発生器(フォースジェネレーター) 』を併用しての機動は、3機の円盤を相手に、一歩も引かない。
「エドガー、頑張って」
エルザが応援した。
が、円盤が散開し、3方から攻撃を仕掛けてきたため、状況は変わる。さすがにかわしきれず、『コンロン2』は何本か矢を受けてしまった。
「『 地底蜘蛛樹脂(GSP) 』製の気嚢は破れないようだな」
が、安心はできない。仁は決断した。
「エドガー、『 力場発生器(フォースジェネレーター) 』をメインに使え!」
この指示により、『コンロン2』の運動性能は円盤を大きく上回った。
「いいぞ、エドガー。極端な性能差を見せつけるのはまずいが、奴らに目にもの見せてやれ。『 魔力砲(マギカノン) 』最低出力で発射だ。弾丸は鉛玉」
『わかりました』
了解の返事が入り『コンロン2』は、宙返りをして円盤をやり過ごした後、『 魔力砲(マギカノン) 』を2発発射した。
最低出力なので弾丸の速度はギリギリ音速程度。
だが、それでも十分だった。
砲弾は1機の円盤に見事命中。鉛なので撃墜には至らなかったが、明らかに機動性を落とすことができた。
そして別の円盤目掛け、もう2発。
僚機がやられたことで警戒したのか、今度はかわされた。そして反撃をしてくる。『コンロン2』は急降下してそれをかわした。
機体そのものの運動性は円盤の方が上。2機も急降下して『コンロン2』を追う。
エドガーは、『コンロン2』をいきなり引き起こし、急上昇させた。
円盤は一瞬も躊躇わず、それに追随してきた。
「あの運動性能といい、反応速度といい、馬鹿にはできないな」
おそらく相手の持つ戦力のうちでも低いものなのだろうと思うが、それでもこのアルスで使われている技術よりも高いのは間違いない。
「よし、今度は『 魔力砲(マギカノン) 』の出力をもう少し上げて撃ってみろ」
『はい』
音速を少し下回る速度での砲弾はかわされたが、マッハ2程の速度で打ち出された鉛の砲弾は、円盤1機を戦線離脱させるだけの威力を発揮した。
が、残った1機はなかなか手強く、戦況は膠着状態。
緯度は0度前後、つまり赤道上を東へと移動しつつ攻防を繰り広げる2機はかなり東までやって来た。
経度は20度くらい、蓬莱島からは至近距離といってもいいほどだ。
「こちらから何か援護できないかな?」
仁は考える。
「少なくとも、1機確保してみたいな」
『 御主人様(マイロード) 、その場合でも蓬莱島ではなく崑崙島に運ぶべきですね』
「それはそうだな」
崑崙島は『崑崙君』ジン・ニドーの拠点として知られているので、こうした用途に使うべきだ、と老君は言った。
『そして、捕獲するなら機能停止させないと、こちらの情報を送られてしまう可能性が増します』
「だなあ。……具体的には……どうする?」
『『 不可視化(インビジブル) 』を使った『ファルコン』などで接近し、『 魔法障壁(マジックバリア) 』を張ります。これで魔力通信ができなくなります。その上で転送装置を使って共に短距離転移をし、視覚的にも追跡を振り切ってから『 魔力素除去器(エーテルエリミネイタ) 』で無力化すればよろしいかと』
老君の提案を、ちょっと考えた後仁は承認した。
「よし、それでいこう」
『わかりました』
その指示はすぐさま『コンロン2』を操縦しているエドガーへと飛び、同時に『ファルコン1』が蓬莱島から飛び立った。
『ファルコン1』は転送機により『コンロン2』の近傍へ移動する。『 不可視化(インビジブル) 』を作動させているので光学的に見つかる気づかいはない。
そして『ファルコン1』は残っている円盤に接近、『 魔法障壁(マジックバリア) 』を張ると同時に『 魔力素除去器(エーテルエリミネイタ) 』を作動させ、共に転送装置で崑崙島上空へと転移した。
『成功しました。これより円盤を確保、強制着陸させます』
待ち構えていたのは『コンドル1』。輸送用の大型飛行機である。
『 不可視化(インビジブル) 』、『 魔法障壁(マジックバリア) 』を張り、円盤を確保、そのまま崑崙島に着陸した。
下には『 職人(スミス) 』部隊が待機しており、すぐさま円盤に取り付き、分解・解析を始めたのである。
『通信関連の装置は無力化しました』
『動力切り離し完了』
老君からの報告が入る。
「やったか。ご苦労」
『続いて分解、解析に取りかかります』
「分解が終わったら俺も行くから」
『わかりました』
「やったわね、ジン!」
「ジン兄、これでまた少し、相手の情報がわかる?」
固唾を呑んで『コンロン2』と円盤のドッグファイトを見つめていたシオンとエルザからも言葉がこぼれた。
「そうだな。もしかしたら向こうは、ばれても構わない程度の低級機だと思っているかもしれないが、それでも得るものはたくさんあるんだぞ」
「例えば?」
「部品の加工精度や組み立ての精度を見れば、相手の工作技術もかなり見当が付く」
「……なるほど」
「素材の純度を知れば。製錬技術の程度がわかる」
「……確かに」
「分析っていうのはそういうものさ」
そこにシオンが感心した声を上げる。
「さすが『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』ねえ……」
「……ちょっとしたことからだっていろいろな情報は読み取れるものさ」
シオンの言葉にちょっと照れながら仁が言った。
そんな彼等が見つめる画面には、あっという間にばらばらにされた円盤が映っていた。
『 御主人様(マイロード) 、主な構造材は64軽銀です。そしてエネルギー供給系は 魔素変換器(エーテルコンバーター) と 魔力炉(マナドライバー) を使っています』
「ほう」
魔力反応炉(マギリアクター) ではないのは、技術レベル偽装のためだろう、と仁は思った。
『情報を送信していたのは 魔素通信機(マナカム) に似た装置です』
「……もう危険はなさそうだな?」
『はい。自爆装置のようなものがあるかと細心の注意を払いましたが、それはないようです』
「よし、これから崑崙島へ行く。エルザ、あとを頼む」
仁は蓬莱島の司令室を出、 転移門(ワープゲート) 室へ向かう。お伴は礼子のみ。
「ジン兄、行ってらっしゃい」
「いってらっしゃい、ジン」
エルザとシオンはそんな仁の背中を見送ったのであった。