作品タイトル不明
35-28 事態、変化
仁は心配げなエルザに明るい声で告げる。
「エルザ、今の確認実験は、従来のやり方を延長しても効率のいいエネルギー転送はできないと証明しただけだ。なら、俺は俺のやり方をすればいいだけさ」
「え?」
「やり方は幾つかある。エーテノールの入った瓶を転移させてもいいし、 魔力貯蔵器(マナボンベ) を送ったっていい」
「確かに」
「今までは、そうしたやり方がスマートじゃないと変に拘っていたわけだ。だけど、これからは違う」
進んでいる道が行き止まりだとはっきり分かったのなら、別の道を行くだけである、と仁は言う。
「それは、わかる」
「ということで考えてみよう。どうやったら効率がいいかなあ」
「私も、考える」
なんとなく楽しげに見える仁に、エルザも一緒になって考えることにしたのであった。「今思いつくのは……まずはバケツリレーかなあ」
「?」
その単語を聞いたエルザは頭に疑問符を浮かべる。
「バケツリレーっていうのは……」
仁はエルザに説明する。
「火を消すため、などの目的で、数人がバケツに水を汲んで手渡しで送っていくんだよ。詳細は……俺もよく知らない」
イメージで『バケツリレー』と言ってしまったが、仁もやったことはないのである。
そもそも、今問題にしているのは、エネルギー転送の話である。
「つまり、『容器』に濃縮した 自由魔力素(エーテル) を入れ、それを、例えばゴーレムを使って 転移門(ワープゲート) で順次送り出す。受け入れ側でもゴーレムが受け取り、 自由魔力素(エーテル) をタンクなどに移し替える……という流れさ」
「それが、さっきの『エーテノールや 魔力貯蔵器(マナボンベ) を使ってもいい』という言葉の理由?」
「もちろん。そういう『順次送り込み方式』なら可能かな、と思ったんだ」
エルザは頷いた。
「確かに、可能。それをどうやったら効率よくできるか検討すれば……」
だがそんなエルザを仁は遮った。
「待て待て。まだ終わりじゃないんだ。もう1つあるんだよ」
「聞かせて」
「もちろんだ。もう1つは『転送機』を使う方法さ」
『受け入れ側のいらない 転移門(ワープゲート) 』というコンセプトで開発された転送機。
送り先の座標を決めるのに時間と労力が掛かるが、『マーカー』という目標があればその問題は解決する。
「それなら、できそう」
「だけど、やっぱり『 自由魔力素(エーテル) 』は送れないようなんだよな」
「物体に限る、ということ?」
「そうなんだ」
転移門(ワープゲート) の派生技術であるから当然と言えば当然なのであるが。
「なら、どうして物体しか送れないか……は、やっぱり駄目?」
「ああ。結局 転移門(ワープゲート) と同じだからな……」
「難しい」
仁とエルザは2人して考え込んだのである。
「ね、ジン兄」
何か思いついたらしいエルザが口を開いた。
「送りたいエネルギーって、 自由魔力素(エーテル) 、でいい?」
「まあそうなるな。 自由魔力素(エーテル) が無理なら 魔力素(マナ) ということになるが……」
が、エルザは首を振った。
「ううん、そういう意味じゃなくて。 自由魔力素(エーテル) の方が都合がいい、と思う」
「……うん」
珍しく仁は、エルザの言いたいことがまだ見当が付かないでいた。
「 自由魔力素(エーテル) を自由に操る技術から進めていってみたらどう?」
「え……ああ、そうか」
「例えば、 自由魔力素(エーテル) の塊を狙った場所に送り込む、とか」
今のところ 自由魔力素(エーテル) に関する技術としては、『 自由魔力素凝縮器(エーテルコンデンサ) 』や『 魔力素除去器(エーテルエリミネイタ) 』などがある。
「そうしたら、 自由魔力素(エーテル) を送り出す方法を思いつく、かも」
『順次送り込み方式』なら擬似的にできるが、そちらからのアプローチでは行き詰まりを感じていたのも事実。
「そうだな、やってみるか」
「ん」
自由魔力素(エーテル) を扱うには『精神触媒』が必要になる。
人体に使えるような高品質の物はもうほとんど残っていないが、地底の『 巨大百足(ギガントピーダー) 牧場』で発見されたものがかなりの量手元にあった。
* * *
「少し落ちついたところで、今回の事件について、陛下に報告しないとな……」
『 御主人様(マイロード) 、『デウス・エクス・マキナ』を用いて、簡単に報告させましょうか?』
「そうだな……そうしてもらおうか」
仁と共にマキナが解決に動いたという線で、女皇帝に報告をすることに決める。
マキナは老君が動かし、ショウロ皇国へと送り込むことになった。
一方で、シオンとマリッカをそうそうほったらかしにはできない。
方針が決まったところで、仁は礼子を連れカイナ村へと移動した。エルザは蓬莱島でもう少し検討するという。
シオンは二堂城の図書室で本を読みあさっているところだった。
「あ、ジン、何か久しぶりね」
「久しぶりって……まあいいか」
シオンに久しぶりと言われてしまった。最後に会ったのが10月30日、今は11月2日なので2日ぶりである。
「で、オノゴロ島のほうはどう?」
「うーん、芳しくないな」
仁は、3機の円盤と『コンロン2』が追いかけっこをしていると説明した。
「……ジンも悠長なことやってるのね……」
少し呆れ気味のシオンである。
「そうは言ってもな、相手の出方が問題だし、それでこの星に何かあったら大変だしな」
「うーん、それもそうね」
『オノゴロ島』の向こうにいるかもしれない存在との戦争になれば、このアルスがどうなるかわかったものではない、と仁は思っている。
だからこそ、情報収集と防衛力の向上を急いでいるのだ。
「あたしにも何か手伝えるといいんだけど」
シオンはそう言って俯いた。
* * *
《うむう、あの飛行船はただ逃げているだけのようだな》
《御意。遊んでいるのでしょうか?》
《いや、こちらが向こうの情報を知ろうとしているように、向こうもこちらの情報を探ろうとしているのかもしれぬ》
《では、どういたしますか?》
《ふん、どうせあの3機は所詮『玩具』だ。破壊されようと捕獲されようと困らぬ》
《ではありましょうが、やはり……》
《不満か?》
《はい》
《ふふふ、人間のようなことを言うではないか》
《私は……》
《まあよい。好きにせよ。……もう飽きた》
《では、私に任せていただけますので?》
《そう言った》
《ありがとうございます》
* * *
『 御主人様(マイロード) 、事態が動きました』
二堂城の図書室にいた仁の下に、老君から連絡が入った。
「そうか!」
図書室のある3階には非常用の 転移門(ワープゲート) がある。
仁は席を立った。
「あ、ジン、あたしも行っていい?」
シオンが慌てて仁の背中に声を掛ける。
「うん、いいけどマリッカが心配しそうだな」
「あ、そっか……じゃ、じゃあ、マリッカに声を掛けてから行くわ!」
『仁ファミリー』の一員となったシオンとマリッカには、 転移門(ワープゲート) の場所を教えてあるし、『仲間の腕輪』も渡してあるので使用も問題ない。
因みに、シオンの腕輪は銀と水色のマーブル模様、マリッカは銀と黄色のマーブル模様だ。蛇足ながら髪と瞳の色に合わせたのである。
「老君、何があった?」
仁と礼子は蓬莱島司令室に駆け込んだ。
『はい、 御主人様(マイロード) 。3機が攻撃を加えてきました』