作品タイトル不明
35-27 行き止まりと別の道
「さて、と……」
外は既に真っ暗、時刻はもう午後9時を回っていた。
「ああ、なんとなく疲れた……」
『 御主人様(マイロード) 、あとはお任せください』
「ああ、老君、頼む」
仁は背伸びを一つすると、エルザと共に『家』へ向かった。一風呂浴びて眠るつもりなのだ。
腹に据えかねてはいるが、だからといって無闇矢鱈と攻撃するほど考えなしではない。
仁が風呂から上がると、寝間着を持ったエルザが待っていた。
「ありがとう」
エルザに差し出された寝間着を着る仁。
「ジン兄、今回は頭にきていると言いながら、ちょっとのんびりしている気がするのは、私の気のせい?」
仁に寝間着を着せかけながらエルザが尋ねた。
「いや。今回は相手の出方がどうにも読めなくてさ。こっちを挑発してきているようにも思えるし」
「確かに」
「それで、奴らの思いどおりになるのはもっと癪だなって思ってさ」
「ん、わかる」
「いっそ、奴らがしびれを切らすようにしてやろうかと思って」
「面白い」
仁の言葉にエルザは忍び笑いを漏らした。
* * *
11月2日。
『コンロン2』と3機の円盤は、赤道上を周回し続けていた。
『 御主人様(マイロード) 、円盤についてかなりのことがわかってきました』
老君からの報告が入る。
「うん、聞かせてくれ」
朝食を食べながら仁が答えた。
『はい。機体の材質はおそらく64軽銀です。浮いているのは、ご想像通り風属性魔法を使い、下から吹き上げています。推進も風属性魔法です』
「やっぱりな」
漬け物を齧りながら仁は独りごちた。老君は報告を続ける。
『 自由魔力素(エーテル) が少ない地域では、やはりエネルギーが転送されてくるようです』
「そうか」
それも想像どおりである。
お茶を飲みながら、仁はその方法を考えていた。
『今のところはそこまでです。エネルギー転送の方法については今のところ、まだ不鮮明です』
「わかった。ありがとう、十分だ。そのまま続けてくれ」
『はい』
「……さて」
仁は、昨日確保した『魔導無効化結界発生機』について考えていた。
「お父さま、何か気になることでも?」
「ああ、そうなんだ。原理としては、想像していたように『 魔力素除去器(エーテルエリミネイタ) 』と『 魔法無効器(マジックキャンセラー) 』、『エーテルジャマー』を併せたものなんだが、組み合わさって別の効果も発生してる気がするんだよな」
「何か根拠でも?」
「うん。……ほら、『 魔力貯蔵庫(マナタンク) 』方式のゴーレムが、 魔力素(マナ) の再充填をしなくても再起動したろう?」
その指摘で、礼子にも仁が言わんとすることがわかったようだ。
「これは完全に想像だが、 魔力素(マナ) や 自由魔力素(エーテル) を奪うんじゃなく、エネルギーに変換できないようにしているんじゃないかな?」
その仮説なら今回の現象を説明できる。
「『 魔素暴走(エーテル・スタンピード) 』の逆か……」
『 魔素凍結(エーテル・フリージング) 』とでもいうべき現象。
また1つ、明らかにするべき問題が増えた、と仁は思った。
「まずは一つ一つ、だ」
仁は、エネルギー転送について、考えていたことを検証してみようと立ち上がった。
「悪い、エルザ、工房に行ってる」
「ん、じゃあ、片付けてから行く」
後片付けをしてくれているエルザに一声かけ、仁は礼子と共に研究所内の工房へ向かった。
工房で実験の準備をしていると、エルザがやって来た。
「間に合った?」
「ああ、ちょうど始めるところだ」
工房には、2基の小型 転移門(ワープゲート) が置かれていた。電子レンジくらいの大きさである。
「まず考え方を説明しよう」
「ん、お願い」
こうして誰かに説明することは考えをまとめることになり、あやふやな点を洗い出すこともできるのだ。
「 転移門(ワープゲート) は、離れた2点間をトンネルで繋ぐものだと俺は考えている」
「ん」
「その動作は連続的じゃない。送り出し側に対象が入ると作動し、受け入れ側に現れる」
そうでないと、例えば差し込んだ腕だけが転送される、という事故が起きる可能性がある。が、この種の事故は起きたことはない。
「これは、対象を自動的に認識しているということなのか、それとも……」
「『トンネル』とはそういうもの、だから?」
「俺はそう思ってる」
『トンネル』である以上、通過する物は基本的に『一続き』である。
「複数、ということはあっても、半分だけ、ということはありえない」
「確かに」
「仮説として、 転移門(ワープゲート) の送り出し側と受け入れ側には、『空間の勾配』があるんだと思う」
「……つまり……例えるなら、高い所と低い所を繋いでいる、ということ?」
「そういうことだな。そういう意味では、横穴というより縦穴かも」
この例えはわかりやすかったようで、エルザも納得した顔をしている。
転移門(ワープゲート) の効果範囲に、半分以上物体が入れば、『重さ』でそのまま引きずり込まれるようにして転移するだろう、と補足する仁。
「もちろん、受け入れ側から飛び出したりするわけじゃないから、あくまでもイメージでな」
「ん、わかってる」
「で、ここからがポイントだ。……物体というか固体は今言ったとおりだが、液体は? 気体は?」
前回の実験では、受け入れ側からも吸い出すようにすれば煙……つまり気体も転送できることがわかり、『 自由魔力素(エーテル) 転送』をかろうじて実用化した。
だがまだまだ効率が悪く、艦艇くらいの消費量ならともかく、宇宙船レベルの消費には追いつかないのが現状である。
『コンロン2』と追いかけっこをしている3機の円盤には、そういった高効率の『 自由魔力素(エーテル) 転送』が実用化されているのではないかと、仁は考えていた。
ならば自分にもできるはずだ、と考えるのが『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』である。
仁はもう一度思考をリセットして考え直してみることにした。
「さっき、『トンネル』を例えに出した」
「ん」
「そのトンネルが縦穴だとすると、『普通』なら空気は落ちず、水は落ちる。それは充満している空気より重いものが落ちる、ということだろう」
「確かに」
「だが、このトンネルは『普通』じゃない。空気や液体は落ちないんだろうな。そういう特性なんだろうと思う」
だから、受け入れ側から吸い出すような強引な手を使うことで気体も転送できるようになったんだろう、と仁はこれまで確認した事実をまとめた。
「つまり、トンネルを通るための条件があるはずなんだ」
「それがわかれば、一歩前進?」
「そう。一歩も二歩も前進できる」
仁はそう言って実験に使った小型 転移門(ワープゲート) を見つめた。
「『 始祖(オリジン) 』なら、エネルギーを転送する技術を持っていてもおかしくない。その直系がオノゴロ島なら、彼等だって持っているんだろうな」
「ジン兄……」
エルザは、少し弱気な仁の言葉に、辛そうな顔をした。