作品タイトル不明
35-31 エーテルの流れ
「しかし、エルザは凄いな」
「え?」
「『 魔力流分析機(エーテルアナライザー) 』を開発したじゃないか」
「そんなことない。ジン兄はもっともっと、凄い」
「うーん、そうかなあ……」
仁は、自分自身は研究者でも発明家でもなく、技術者だと思っている。
今の自分があるのは、先代から受け継いだ知識と、現代日本で習い憶えた科学知識のおかげであって、これまで作り上げてきたものはそれらの組み合わせによるものがほとんどだ。
自らの閃きで作った物は、というと、咄嗟には思い付けない。
「そうかもしれない。でも、みんなそうじゃないかな、と思う」
仁の考えをエルザは肯定しつつも批判した。
「無から有を作り出せる人なんていない。みんな何かを参考にして、誰かから教わって、いろいろなものを組合わせて、ものを作っている、と思う。そこにほんの少し、その人の工夫が入るくらいで」
「そういうものかな」
「私は、そう思う。でも、ジン兄が、そうやって驕らないのは偉い、と思う」
その言葉に、仁は照れながら苦笑した。
「ありがとう。でもおだてないでくれよ」
そんな会話を交わしながら、仁とエルザは新たな『 魔力流分析機(エーテルアナライザー) 』を作っていった。
まずは試作2号機として、蓬莱島全域をカバーできるくらいのもの。
これが成功すれば、アルス上をカバーできるくらいのものを作る予定だ。
* * *
「うーん、これならよくわかるな」
「ん」
試作2号機の画面を見ながら話し合う仁とエルザ。
蓬莱島内における 自由魔力素(エーテル) の流れが画面上で可視化されている。
もちろん同一平面内での動きであるが、
『 御主人様(マイロード) 、私でしたら3次元データも扱えそうです』
と老君が言うように、3次元の『 魔力流分析機(エーテルアナライザー) 』を老君に任せることも視野に入れておきたい、と仁は考えた。
「しかし、本当にこの蓬莱島は特異点なんだな」
画面内では、蓬莱山の山頂付近から 自由魔力素(エーテル) が湧き出しているように見える。
また、蓬莱島の地面からも少量ではあるが 自由魔力素(エーテル) が湧いている。
「だからこその 地底蜘蛛(グランドスパイダー) であり、 地底芋虫(グランドキャタピラー) なんだなあ」
この2種類の魔物は 自由魔力素(エーテル) のみで生きている。性質は穏和で、吐いた糸は蓬莱島ならではのレア素材となっていた。
「地下資源が豊富なのも、多分」
「だな」
そして、この成功を踏まえ、いよいよ大型の『 魔力流分析機(エーテルアナライザー) 』を作ることにした仁たちであった。
* * *
11月4日、丸1日掛かりで蓬莱島地下に設置された大型の『 魔力流分析機(エーテルアナライザー) 』をテストする日。
『この大きさですと、アルス全土と 月(ユニー) くらいまでの把握ができるかと思います』
「よし」
今知りたいのはそれだ。
アルスとその周囲で 自由魔力素(エーテル) 分布がどうなっているか。
これは、『オノゴロ島』が何をやっているかを調べることにもなる。
「ジン兄、こっちの回線はチェック終了」
「お父さま、 魔力反応炉(マギリアクター) 起動しました」
『 御主人様(マイロード) 、接続、問題なし。『 魔力流分析機(エーテルアナライザー) 』、始動します』
「よし、アルス周辺の走査開始」
そして1分。
『測定完了。以降、リアルタイムで表示できます』
今回のものは走査結果を、老君の制御で擬似的に立体表示できるようにし、仁たちにもわかりやすくしたものだ。
仁、エルザ、礼子の前に、アルスとその周辺の空間の 自由魔力素(エーテル) の動きが表示された。
「なるほどな……」
アルスとその周囲から、『オノゴロ島』の真上に向かって 自由魔力素(エーテル) が 収斂(しゅうれん) し、流れ込む様子がわかる。
「こういう風に流れているのか。確かに地表では 自由魔力素(エーテル) が少なくなるわけだ」
イメージ的には高気圧と低気圧であろうか。それに雨雲や降水量画像を重ね合わせた、といえば少しは近いだろう。
『オノゴロ島』が超巨大な高気圧であることがわかる。そして、同じように超巨大な高気圧があと2つあった。
あるいは、可視化された地磁気の方が近いであろうか。
「これで 自由魔力素(エーテル) を集めている施設がどこにあるかわかるな」
『オノゴロ島』の『ヘレンテ』は隠していたが、これを見れば一目瞭然だ。
しかし、それ以上に気になる流れがあった。
「なんだ? これ……」
何もないはずの南極に、僅かな揺らぎがあるのだ。
「『ヘレンテ』は何もないと言っていたが、それが真実とは限らない、か」
アルスの北極・南極には大陸はなく、どちらも海である。
その南極海の海面下深く、何かがあるのではないか、と思わせる 自由魔力素(エーテル) の揺らぎが見て取れたのである。
「だが、マーメイド部隊の調査によると、海底には何もなかったはずだ」
『 御主人様(マイロード) 、この流れからしますと、海面下には違いないですが海底ではないようです』
「ふうむ……」
『もう1つの可能性として、水中における『 不可視化(インビジブル) 』のようなものを備えている可能性もあります』
「そうか……!」
あの時調査させたのは海底であった。極点の海上は観測衛星『ウォッチャー』からは視認しづらい位置であるから、海面下数十メートルくらいに何かがあれば、見落とす可能性もあるだろう、と老君は推測した。
「確かにな」
仁もその推測に賛成である。
「不安定で不確実な場所には設置しない、と言っていたが……」
『ブラフ(はったり)だったのかもしれません』
そこにエルザも推測を口にした。
最近、測定装置を蓬莱島地下に設置していることからの推測であった。
「ジン兄、あるいは海底じゃなく、海底のさらに地下だったら……」
「そうか! それなら辻褄も合うな」
『エルザ様の仰るとおりかもしれません』
老君もエルザの推測を支持した。
「調べればすぐにわかるな」
『はい』
自由魔力素(エーテル) は通常の物体に影響を受けない。岩程度、何もなきがごとく透過してしまうのだ。
『……南極海底、その地下50メートルくらいのところに 自由魔力素(エーテル) の集中が認められます』
「やっぱりそうか。エルザ、凄いぞ!」
「……偶然」
仁に褒められ、照れたエルザは頬を染めて俯いた。
「しかし、そうなると……たしか南極の水深は2000メートルくらいあったな?」
『はい、 御主人様(マイロード) 』
「そうすると潜水艦『シャチ』を使うことになるだろうが、それでも海底のさらに地中に潜るというわけにはいかないか……」
考え込む仁に、エルザが問いかけた。
「ジン兄、出入り口がどこかにある可能性は?」
「そうだなあ……むしろ、転移で出入りする可能性もあるな……。最悪、設置した後は放置だとするとどうにもならない」
『 御主人様(マイロード) 、無理に調査する必要はないのでは?』
「そうだなあ……確かにな」
老君からの助言を検討して見る仁。
確かに、南極にある装置の所に行っても、何をするというわけではない。
「壊すわけでもないしな……」
その時、エルザが画面を見ながら小さく叫んだ。
「ジン兄、これを見て」