作品タイトル不明
過去篇 伍 アドリアナの流離い篇 0008 西進
ミツホに腰を落ち着けたアドリアナは、ここでも精力的に活動していた。
が、その内容は教育ではなく、己の作りたいものを作ることに偏っていたといっていい。
これは、ミツホには魔導士が少なく、魔法工学を広めるには不適であったことが大きいようだ。
そんな中、アドリアナは、まだ見ぬ西の地に思いを馳せていた。
「西にはまだまだ陸地が続いているようだけど、何があるのかしら」
2390年、50歳になったアドリアナは、未知への興味を失ってはいなかった。
とはいえ、生身でできることの限界もわきまえており、己の出来る事を最大限生かしての調査行を目論んだのである。
「M−030、F−030、頼んだわよ」
「ハイ、アドリアナサマ」
アドリアナは、2体のゴーレムを己の代わりに西へと向かわせたのである。
ゴーレムの移動速度は平均時速10キロ。軽い調査をしながらなのでこの速度になる。
岩場、荒れ地、森林、川、湿地。それらを越えて2体は進む。
おおよそ1日で200キロを進み、進んだ先に『 転移門(ワープゲート) 』を設置した。
その 転移門(ワープゲート) を使い、アドリアナの下へと戻ってきて報告。
そして新しい 転移門(ワープゲート) の部品を持って戻り、翌日も西へ進む。
つまり200キロごとに 転移門(ワープゲート) を設置しつつ、2体のゴーレムは西へ西へと進んでいったのである。
「へえ、あそこが地峡ね」
およそ距離にしてミツホから1600キロ、道のりでは1800キロ。
アドリアナの目の前にはローレン大陸の西端があった。そんな彼女の横には、F−030。
「でも、確かに 自由魔力素(エーテル) が少ない感じがするわ」
ミツホの中心、ミヤコの町と比べると、このあたりの 自由魔力素(エーテル) 濃度は3割くらい少ない感じがする、とアドリアナは感じた。
「南へ行くと 自由魔力素(エーテル) が減るのかしらね」
北にある魔族領では 自由魔力素(エーテル) が濃く、魔法の効きがよかったことを思い出す。
「北は濃くて南は薄い。地磁気の影響かしら?」
アドリアナの問いに、答えは返ってこなかった。
* * *
「へえ、先代様はそうやって西へ行ったのね」
シオンが感銘を受けた、という顔をした。
「しっかし、 転移門(ワープゲート) を設置しつつ先へ、ね……。探検って何だっけ、って言いたくなっちゃうわ」
「まあその気持ちはわかる」
「ジンにだけは言われたくないわ」
「何でだよ」
「何でって……ねえ?」
シオンはマリッカの顔を見て言った。
「ふえ!? え、ええと……」
いきなり話を振られて面食らうマリッカ。
「ああ、もういいよ。続きを話すぞ」
* * *
アドリアナは、この探検行が半ば反則であることを自覚していたがために、途中の地に名前を付けることはしなかった。
故に現在の地名と対比することが若干困難であるが、彼女が辿り着いた西の地は、今で言う『ラシール大陸』。その南回帰線上のどこかであると考えられた。
「うーん、本当に人は住んでいないみたいね。やっぱり 自由魔力素(エーテル) が少ないせいかしら?」
西の大陸では人間をまったく見かけなかったのである。
「人がいないんじゃ、参考になるものはないわねえ……せいぜい珍しい素材がないかくらい……! 何、この感覚!」
ゆっくりと歩いていたアドリアナは、これまで感じたことのない感覚に身を震わせた。
「あれ? ……今のは錯覚? ううん、まさか。と、すると、場所かしら?」
アドリアナは一歩後退してみる。すると。
「う、うわあ……なに、この感覚。 自由魔力素(エーテル) の滝の中にいるみたい。……まずいわ!」
一跳び、アドリアナはその場所を離れた。
「……もう何も感じない……あの狭い場所だけ、 自由魔力素(エーテル) がおかしい?」
念のため、そっと進んでみると、 自由魔力素(エーテル) の濃度が異常に高くなる。
どうやら、直径1メートルほどの地面と、その上方に、そういった異常が生じているようだ。
「不思議なこともあるものね。……ひょっとして、このせいで南は 自由魔力素(エーテル) 濃度が低いのかしら?」
1人呟くアドリアナ。
「調べてみたいけど……なんとなくここは危険な気がするわ。十分な準備をしてからでないと痛い目を見る、そんな予感がする」
アドリアナは己の直感を信じ、一旦その場所を後にした。
もちろん、もう一度訪れることができるよう、 転移門(ワープゲート) を設置して。
だが、その後、その 転移門(ワープゲート) は何らかの理由で失われたとみえ、アドリアナ・バルボラ・ツェツィは二度と再び、その地を訪れることはなかったのだった。
* * *
「うーん、怪しいわね、そこ」
「先代の日記を読んだとき、俺もそう思った」
だが、場所も不明、しかも1000年前のことであり、検証は不可能に近い。
それでそのままにしていたのだが。
「今にして思えば、『オノゴロ島』か、その手掛かりじゃないか、って思う」
「あたしもそんな気がするわ」
シオンも仁の考えに同意した。
「で、だな」
仁は説明を再開する。
「今で言う『ラシール大陸』、そこに設置した 転移門(ワープゲート) なんだが、どういうわけか、使えなくなっていたんだそうだ」
* * *
「うーん……絶対何かあるわ」
アドリアナ・バルボラ・ツェツィは腕を組み、難しい顔をした。
「こっちの大陸に設置した 転移門(ワープゲート) はなんともなくて、向こうの大陸に設置したものが全滅。これは人為のにおいがするわね……」
だが、検証するには、自分はまだ未熟だと認識しているアドリアナ。
「武器……私は、武器は作りたくない」
それは、女性であるアドリアナの本能からくる気持ちなのか、それともモノ作りに携わるものとして、破壊するための武器は作りたくないという想いからなのか。
アドリアナ本人にもそれはわからなかった。
そして結局、この謎をアドリアナが解くことはなかったのである。
* * *
「我々からすれば、おそらく『オノゴロ島』に関係する何者かが 転移門(ワープゲート) を排除したんじゃないかと思うね」
「うん、あたしもそう思うわ」
「間違いないと、思います」
仁の意見に、シオンとマリッカも賛成してくれた。
「そして先代は、その後は西進はせず、北の地を探検したそうだ。その後はまたミツホに戻って、魔導具の開発やゴーレムの研究に没頭していたらしい」