軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

06-17 美少女と野獣

仁が 互助会(ギルド) に登録した翌日、ブルウ公爵邸においてゴーレム 園遊会(パーティー) 参加予定の貴族とゴーレム、そして 魔法工作士(マギクラフトマン) の顔合わせが行われた。

「ブルーランド東部地区長官、クズマ」

「ブルーランド西部地区長官、ガラナ」

2人の伯爵が名乗りを上げ、続いてゴーレムとその製作者である 魔法工作士(マギクラフトマン) が紹介される。

「クズマ伯爵のゴーレム、『ロッテ』。 魔法工作士(マギクラフトマン) 、ジン」

その紹介の声にロッテと仁は一歩進み出、一礼をする。

「ガラナ伯爵のゴーレム、『オウル』。 魔法工作士(マギクラフトマン) 、ボーテス」

ガラナ伯爵の『オウル』は全身金色のゴーレムであった。体形はグラマラスな女性型、ロッテより大柄である。

(くあー、趣味わりぃ)

同じ金色でも、蓬莱島で仁が作った礼子の助手ゴーレムのソレイユはつや消しの金色、対して『オウル』は金ぴかである。ロッテはつや消しの 銅(あかがね) 色。

(成金趣味、だな)

心の中で仁はそう断じた。作ったボーテスという 魔法工作士(マギクラフトマン) も服のあちらこちらに金の飾り糸を縫い付けており、趣味がわかろうというもの。

ガラナ伯爵はと言えば茶色の髪、茶色の目をした中年太りのおっさんにしか見えない。

続いて、

「ショウロ皇国外交官、ラインハルト・ランドルのゴーレム、『 黒騎士(シュバルツリッター) 』。 魔法工作士(マギクラフトマン) は同じくラインハルト・ランドル」

ゲストとして参加するラインハルトの 黒騎士(シュバルツリッター) が紹介される。

「ほほう、皆、素晴らしい出来であるな」

そう評したのはブルーランド領主、ブルウ公爵。彼はエゲレア国王の従兄である。

歳は50前後か。白いものが混じった金髪に、青い眼、がっしりした体格。短い口ひげを生やし、なかなか威厳がある。

「それでは儂のゴーレムも見てもらおう。『タウロス』!」

その声に応じて姿を現したのは、身長2メートルを超える頑丈そうな鎧姿のゴーレムである。一目で戦闘力が高そうだと見て取れる。背中にはこれまた巨大な剣を背負っていた。

「儂の『タウロス』である。 魔法工作士(マギクラフトマン) はジェード・ネフロイだ」

紹介されたジェード・ネフロイはひょろっとした壮年の男であった。だがその灰色の目は鋭く、仁とロッテを探るように見つめていた。

「お客人であるラインハルト殿の 黒騎士(シュバルツリッター) を初めとして、これならばエゲレア国王の前に出しても恥ずかしくない出来、重畳重畳」

ブルウ公爵はご機嫌である。

「今日は顔合わせであるからして、この後は参加する者達の交流の場としようではないか」

その言葉通りにその後は参加者同士の交流を図る場としてのお茶会となり、軽食とハーブ茶が出された。

「やあ、君がクズマ伯爵の 魔法工作士(マギクラフトマン) だね?」

そう言いながら仁の所にやって来たのはジェード・ネフロイ。

「ええ、まあ。ですが俺は依頼を受けただけで、お抱えというわけではありません」

そう仁が返すと、ジェードは驚いた顔で、

「そうすると、フリーということかい? それは珍しい。あれだけのゴーレムを作れる 魔法工作士(マギクラフトマン) がフリーだとはね。まだまだ世には埋もれた名工がいるということか」

「あのゴーレムのすごさがわかるのかい?」

ラインハルトがそばにやってきてジェードに尋ねた。

「これはこれはラインハルト殿。あなたの 黒騎士(シュバルツリッター) 、素晴らしい出来ですな。特に動きが滑らかで自然だ」

「いやいや、貴公のタウロスこそ素晴らしい! さぞや強いのでしょうね?」

ラインハルトがそう水を向けると、

「はは、どうでしょうか。でもタウロスの動作制御に協力してくれたのは公爵の配下で最も強いと言われる騎士、ロバート殿ですがね」

一般的に、ゴーレムの動作制御のモデルには、その道のベテランの協力を仰ぐことがほとんどである。ゆえに仁のロッテは侍女頭のマルームがモデルとなっている。

「ブルーランド最強騎士がモデルですか、それは強そうだ」

「いえいえ、聞き及んでおりますよ、 黒騎士(シュバルツリッター) の強さは。何でも先の模擬戦闘では単独で20機を撃破したとか」

「いや、あれはかなり条件を限定した上での模擬戦で……」

ジェードとラインハルトが話し込みだしたので仁はこれ幸いとそっとその場を離れる。

だがそんな仁に、今度はガラナ伯爵お抱えの 魔法工作士(マギクラフトマン) 、ボーテスが近づいて来た。

「ふん、君がクズマ伯爵のところの 魔法工作士(マギクラフトマン) 、ジンといったかな?」

仁は諦めて応対することにした。

「ええ、まあ。ですが俺は依頼を受けただけで、お抱えというわけではありません」

さっきと同じ返答をする。

「ふん、やはりな。あのように地味なゴーレムを作るのはやはり地味な 魔法工作士(マギクラフトマン) ということだな」

そう言ってボーテスはふんぞり返り、

「どうだ、今からでもガラナ伯爵お抱えにならないか? そうすればいろいろ教えてやるぞ」

などと言い出す始末。仁はまともに相手する気が無くなり、

「今度のゴーレム 園遊会(パーティー) が終わったら考えますよ」

と返事しておく。それを肯定の言葉とでも受け取ったのか、

「はは、そうさ、ガラナ伯爵お抱えになれば、いい金になるからな、断る手はないよな」

そう言いながら立ち去っていった。

その後ろ姿を見送りながら、仁は 魔法工作士(マギクラフトマン) にもいろいろいるな、と思ったのである。

「なんだ、ジン、こんなところで」

ラインハルトがそんな仁を見つけ、声をかけてきた。先ほどのジェードも一緒だ。

だが、仁が何か言う前に、

「これはこれはラインハルト殿。今日はエルザ嬢はご一緒ではなかったのですかな」

と言葉を発した者がいる。当然ガラナ伯爵である。

「ガラナ伯爵、今日はゴーレムの顔合わせですからね、エルザは来ませんよ」

あくまでもにこやかに対応するラインハルト。

「ははは、まあその通りですな。しかし貴殿の従妹でしたか、エルザ嬢は? 魔法の才能といい、容姿といい、第2夫人に迎えたいものですよ」

エルザは子爵家、第2とは言え伯爵家の夫人となるなら玉の輿と言えなくもない。前回は妾と言っていたので少しはましになったわけだが。

「いえいえ、まだ世間知らずのねんねでしてね、その意味でも私の旅に同行させて少しでも学ぶものがあればなどと思っている次第でして」

「なんの、あの初々しさがまたたまらなく魅力的なのです。お帰りになりましたらよろしくお伝えください」

酒の入らないこの場でこれ以上の申し入れはさすがに場違いだと思ったのだろう、ガラナ伯爵はブルウ公爵の方へと歩いて行った。

「聞いていたかい、ジン?」

ラインハルトが仁にそう尋ねると、

「ああ。あれじゃあエルザが嫌がるのも無理はないな」

まだ世間をあまり知らないエルザと、脂ぎった中年太りの伯爵。それこそ美女、いや『美少女と野獣』である。しかもこの『野獣』は、『美少女』が愛してくれたとしても王子様になることは無い。

「あんな奴にエルザを嫁がせるものか」

珍しく嫌悪感を顔に出し、ラインハルトがそう呟いた。

* * *

「あーあ、ジンもラインハルト様も公爵邸かあ」

取り残されたビーナはクズマ伯爵邸中庭にある工房前で1人ぼやいていた。それを、庭に出て散歩していたエルザが聞きつけ、

「仕方ない。私はガラナ伯爵に会わずに済むからむしろほっとしてる」

「え? エルザ様、ガラナ伯爵を知ってらっしゃるんですか?」

ビーナが驚いてエルザに尋ねると、

「エルザ」

「は?」

「エルザでいい。私もビーナと呼ぶ」

と返事が返ってきた。

「は、はい。……で、エル……ザ、ガラナ伯爵を知ってるんで……るの?」

わけのわからない言葉づかいになってしまっているが、エルザはちゃんとわかったらしく、

「ん。前に会った時に妾になれとか言われた」

「妾ですか……」

ビーナは自分の場合を振り返る。

病気の弟妹を脅しに使われて、あやうく手込めにされそうになったのだ。

そして仁の頼みでやってきたクズマ伯爵に危ういところで救われたのだった……。

「あたしも、ガラナ伯爵に乱暴されそうになったことがあるんですよ」

ビーナがそう言うと、

「乱暴? あの人は女の子に暴力ふるうの?」

と、『乱暴』の意味がわかっていない様子なので、

「えーと、『乱暴』っていうのは……」

どう説明しようかとビーナが頭を悩ませていると、

「お嬢様、こんなところにいらっしゃったんですか」

そう言いながら乳母のミーネがやって来た。そして、

「今日は風が冷とうございます、中へお入り下さい」

半ば無理矢理にエルザを連れて行ってしまった。

残されたビーナはその後ろ姿を見ながら、

「……あれじゃあエルザもこの先苦労しそうね」

と1人呟いていたのであった。