作品タイトル不明
06-16 支部長
互助会(ギルド) 2階奥に支部長室はある。
「支部長、お客様をお連れしました」
『登録』窓口の青年が扉をノックしてからそう言うと、扉は中から開かれた。
「どうぞお入り下さい」
そう言って扉を開いたのは女性型の 自動人形(オートマタ) であった。
身長150センチくらい、小柄で、少女から大人の女性になりかかったといった容姿。茶色の髪は肩までの長さ。目も茶色で、この世界で一番多く見るような色合い。顔立ちも平均的に作られていた。
その 自動人形(オートマタ) に招き入れられ仁達4人は中へ。
案内の青年は失礼します、と言って窓口業務へと戻っていった。
「ようこそ、ラインハルト様、エルザ様。そしてジン殿」
支部長は人当たりの良さそうな老人であった。
「エゲレア王国 魔法工作士(マギクラフトマン) 互助会(ギルド) ブルーランド支部長、フィリップ・ティーフォです」
なかなか長い肩書きである。姓を持っているということは、名誉職にあるということでもあり、彼の実力がうかがい知れる。
仁と同じくらいの小柄な身体、真っ白な髪と短い顎ひげ。鼻ひげは無い。
目は開いているのか瞑っているのかわからないくらいに細い。が、時折その目蓋の奥から覗く鋭い眼光を仁は感じ取っていた。
「やあ、フィリップ支部長、ご無沙汰」
「こんにちは」
ラインハルトとエルザは既に面識があるようだ。
「あなたがジン殿じゃな。クズマ伯爵の手紙は拝見いたしました。そして、ラインハルト様が推薦人になられるということでしたな?」
「うん、間違いないよ」
「そうですか。これは末頼もしい 魔法工作士(マギクラフトマン) のようですな。ジン殿、これからもよろしく頼みますぞ」
ということで、ほとんど審査も無しに仁の登録が行われる運びとなった。
「えーと、何か試験のようなものはないんですか?」
ポトロックでの事を思い出した仁が尋ねると、
「はは、クズマ伯爵とラインハルト様、お二人が推されるならば間違いないでしょう。それにそこにいる 自動人形(オートマタ) 、ジン殿の作品でしょう? 素晴らしい完成度ですなあ」
フィリップはちらと自分の横に控える 自動人形(オートマタ) を見やりながらそう言った。
「礼子といいます。俺の作品というより娘ですよ」
仁がそう言うと、
「なるほど、作品に対しての愛情も持っているのじゃな。これは嬉しい。最近の若い 魔法工作士(マギクラフトマン) は金儲けに走る者が多くなってまことに嘆かわしいと思っておりましたが。ジン殿のような 魔法工作士(マギクラフトマン) もいるならばまだまだ望みはありますな」
そこまで言って、フィリップはふと照れ笑いを浮かべ、
「これは、老人の繰り言と思って下され。では、 互助会(ギルド) 登録証を発行するとしますかな」
「え? ここでですか?」
仁が疑問を示せばフィリップは、
「その通り、ここでじゃよ。……ドーナ」
「はい」
ドーナと呼ばれた先ほどの 自動人形(オートマタ) が進み出る。左手には金属のプレートを持っており、右手を仁に向けて差し出した。
「ジン様、お手数ですがこの手をお取り下さい」
「え?」
いきなりのことに面食らう仁に、
「ジン殿、このドーナは、右手に触れた人の魔力特性を読み取る事が出来るのじゃよ。そして左手に持ったミスリル合金のプレートにその魔力特性を記録できるのじゃ」
その話を聞いた仁は頭の中で方法を推測する。魔力特性の読み取り、これは簡単だ。 転移門(ワープゲート) にも仁の魔力パターンを検知する機能が付いている。
だが、特性の記録、これは初耳だった。魔力パターンのコピーではなく、記録。それはすなわち、魔力の特徴を抽出して、それを数値化もしくは具体化しているということ。
仁の思考速度にも限界はある。
伸ばされたドーナの右手に触れるまでに仁が推測できたのはそこまでだった。
仁は興味津々でドーナの右手に自分の右手を重ねた。
瞬間。
ドーナが硬直、そのまま後ろへと倒れこんだのだ。
「ど、ドーナ!?」
慌てるフィリップ。仁も屈み込んでドーナの様子を見た。
「……魔力経路が破損しているようですが」
仁が見立てを述べるとフィリップもそれを確認して、
「うむ、そのようですな。だが、なぜ?」
考え込む2人。ラインハルトもやって来て魔力経路の破損を確認したが、原因は思いつかない。
「多分、 流れすぎ(オーバーフロー) だと思います」
そう言ったのは礼子であった。
「 流れすぎ(オーバーフロー) じゃと?」
フィリップは工学魔法でドーナの胸部を開き、なにやら確認すると、
「うむ! レーコと言ったか、君の言うとおりじゃ。しかし、 流れすぎ(オーバーフロー) !? ドーナの魔力経路で捌ききれないほどの魔力を持っているというのか、ジン殿は!?」
「ええ、多分」
驚きの声を上げるフィリップに対し、淡々と言葉を紡ぐ礼子。
「お父さまは世界一ですから」
いや、その言葉を言う礼子は誇らしげであった。
「なるほど、世界一、とレーコ、いやレーコ嬢が言うのもまんざら的外れでは無いかもしれぬ。ドーナの 魔導装置(マギデバイス) には儂の魔力を基準にして5倍くらいまでは耐えられるよう設定したつもりじゃからな」
「支部長の5倍! それはすごい! ジン、君はなんと桁外れなんだ!!」
「あの仕事ぶりが納得できる」
ラインハルトとエルザもそれを聞いて驚いたり納得したり。
念のため少しだけ書いておく。100メートル、1000メートルを測ろうとするならば10センチの物差しは適当な測定器ではないという事を。
……などというトラブルがあったが、仁が意識して魔力を絞ることで、修理したドーナに登録証を作ってもらえたのである。
登録証作成に必要なのが魔力パターンであって、魔力量が関係なくてよかった、と仁は心中で思ったのである。
* * *
晴れて 魔法工作士(マギクラフトマン) 互助会(ギルド) に加盟した仁に、支部長フィリップは、
「これからよろしく頼みますぞ。で、さっそくじゃが、何か気が付いた事があれば教えて欲しい」
内部にいては見えないことが外部からは見える事がある。フィリップはそう言って、仁に助言を欲したのである。
「そうですね。以前にも思ったことなんですが、『特許権』というものを作れませんかね?」
そうして仁は、簡単な特許の制度を説明する。まあ仁自身、詳しい特許制度はわかっていないのであるが。
「なるほど、新しいものを作り出したなら、一定期間その者に特別な権利を認めるというのですな?」
フィリップは感心したように1人頷く。ラインハルトも、
「そうすれば、新しい物を作り出す意欲も増すってものだな!」
などと興奮気味。更に、
「類似品や粗悪品が出回ることも防げるわけか。一石二鳥じゃな!」
そう言ってフィリップは手を叩き、
「すぐには制度化出来ないじゃろうが、この国、ひいては他の国の 互助会(ギルド) とも話しあって進めていきたいと思う。ジン殿、素晴らしい提案、感謝する」
そう言って頭を下げた。仁は慌てて、
「い、いや、これだって先生から聞いたことの受け売りですから」
と照れ隠しに言うと、
「アドリアナ、と言ったっけ、ジンの先生? 本当に素晴らしい人だったんだなあ!」
とラインハルトが褒め称える。それを聞いた礼子が後ろで嬉しそうな顔をしていたのに気が付いたのは仁だけであった。