作品タイトル不明
35-12 ようやく出発
《ふむ、時間は掛かったが暴風の対処はできたようだな。それなりの知識と技術手段は持っているか》
* * *
「……1日潰れちゃったな」
蓬莱島の食堂で夕食を食べつつ、仁がぼやいた。
そんな仁に、エルザが質問する。
「もし、あれが人為的な台風で、『ヘレンテ』が起こしていたなら、その目的は?」
「十中八九、こちらの手の内を見るため、だろうな」
「……性格悪いね!」
憤るサキ。
『 御主人様(マイロード) 、『ヘレンテ』側のしわざであると断定できないのもまずいですね』
「……そのとおりだな。あんな技術を持っている存在がそうそういたらたまらないわけだが」
「いずれにしても、その目的を思うと危ないぞ」
グースが真剣な顔で言う。仁もそれに同意した。
「ああ、もちろんだ」
「やったのが『ヘレンテ』だとしたら、今現在の、この世界の程度を知るため、さらに言うなら仁の……というより『ランドの主人』の実力を知るため、だろうな」
『私もグースさんの意見に賛成です』
老君もそれを肯定した。
仁も、相手が『ヘレンテ』である前提で考えていくことにした。
「老君、この前の『 防御盾(アイギス) 』を、研究所と『オノゴロ島』の間に張っておいてくれ」
『わかりました』
これで彼等の持つ『望遠装置』を防げるかはわからないが、こちらの内情を知られるのは避けたい仁であった。
「今のところ、『ヘレンテ』側はこっちのことをあまり知らないわけだが……」
その気になられたら、あっという間に知られてしまうのではないか、と少し心配である。
「老君も自分に 障壁(バリア) を張っておけよ」
『わかりました』
自分よりも進んだ技術を持つであろう相手。
仁は考え込んだ。
「相手がまだこちらを舐めているうちに何とかする必要があると思うんだけどな、その方法が見つからない」
というか、全面戦争以外に思いつかない、と仁は言った。
「だなあ。聞く耳持たない相手だと言ってたものな」
グースも難しい顔になる。
「何とか交渉できないものか」
「向こうがその気にならなければ無理なんじゃないかねえ……はあ……」
サキも溜め息まじりに言う。
「ジン兄、『 覗き見望遠鏡(ピーパー) 』を使ったらどう?」
エルザからの提案。
「うーん、どうだろうな。察知されたら、こちらの手の内を1つさらすことになる」
『 覗き見望遠鏡(ピーパー) 』は奥の手としたい。
「じゃあ、『 観察眼(ピーカー) 』……は、自由に動けないから……」
「だなあ」
難しい選択である。
「もし、もう一回ちょっかいかけてきたら『 覗き見望遠鏡(ピーパー) 』を使ってみようか」
「ん、それなら」
仁は溜め息を1つ。
「魔族領へ行こうと思っていたのに邪魔されたな」
「くふ、まったくだ」
相手の出方を見る必要がある。
「だけど、『ファミリー』メンバーを攫うようなことはないだろうな」
仁が心配そうに言う。
「……そんなことしたら全力で叩き潰しそうだね、ジンは」
「ん、やると思う」
「やりそうね、ジン君は」
「仁だしなあ」
「その時はわたくしが先鋒に」
礼子までが物騒なことを言いだした。
「そんなことにならないことを祈るよ……」
* * *
『 御主人様(マイロード) 、明日は是非魔族領へお出掛け下さい』
老君がそんなことを言い出した。
「だけどなあ……」
『向こうがどう出るかわからないのに、付き合う必要はありません』
「そうかもしれないが……」
仁は煮え切らない。
『そもそも、何かあってもすぐ戻って来られるのですから』
「……それはそうか」
『はい。ですから、まずこちらの都合を優先して下さい』
「それもそうだな」
『そのために私たちはいるのですから』
老君の熱心な勧めに応じ、仁は1日延びたが、翌日魔族領へ行くことに決めた。
「ボクたちも行くよ」
「 転移門(ワープゲート) のある『コンロン3』からあまり離れなければいい、と思う」
「そうだな。奴らに振り回されるというのも 癪(しゃく) だ」
「私としては行きたかったから嬉しいわ」
仁以外の面々も、行きたかったとみえ乗り気である。
最後の抵抗として、仁とエルザは『 分身人形(ドッペル) 』を使うことにしたのであった。
* * *
「それじゃあ、気を付けてな」
仁とエルザに見送られて、『コンロン3』は蓬莱島の空に舞い上がった。
5メートル程上昇すると、その姿が消える。
『ヘレンテ』に見られるリスクも考慮して、『 不可視化(インビジブル) 』を使ったのだ。
仁とエルザは司令室に行き、『 分身人形(ドッペル) 』を起動。
見送った2人は、今度は『コンロン3』の中で目を開いた。
「さあて、最高速で魔族領へ行こう」
「……」
グースたちは苦笑するだけ。
『コンロン3』は蒼空を駆けていった。
* * *
現地時間午前10時、『コンロン3』は魔族領上空にいた。
「まずは『森羅』かな」
一番付き合いが古く、仲がいい氏族でもある。
以前、結婚の報告で来訪しているので、今回は驚かせることなく『コンロン3』を着陸させることができた。
仁Dは真っ先に『コンロン3』から降り、手を振る。
「おお!」
「ジン殿だ!」
「聞いてはいたが、本当に空を飛ぶ乗り物を作られたのか!」
初めて見る者も混じっているようだ。
「さすが『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』だ!」
『森羅』氏族の面々は仁を讃えた。
そんな人垣を掻き分けてやってきたのはよく見知った顔。
「ジン!」
シオンだった。