軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

35-11 台風対策

マーメイド部隊が海水攪拌を始めて1時間。

『台風の勢力が少し縮小したようです』

「お、効果ありか」

だが、喜んだのも束の間。

『 御主人様(マイロード) 、このペースでは消滅前に上陸してしまいます』

「うーん、そうか」

多少弱くすることはできているが、まだ足りないということである。

仁は更に考えた。

「雲を無くすこと……か」

雲は上昇気流でできる。

「下降気流を……ダウンバースト……無理だな……」

重力魔法でダウンバーストを発生させても対象の規模が大きすぎると仁はそちら方面を諦めた。

「ならそのものを冷やすのはどうだろう?」

ドライアイスを撒いて雨を降らせる、という人工降雨の手段を仁は本で読んで知っている。

「成層圏から『 冷却(クーリング) 』……いや、『 冷凍(フリーズ) 』がいいかもしれないな」

「よし、『ラプター』出撃。成層圏から台風に向かって『 冷凍(フリーズ) 』を連続で放て」

『わかりました。ラプター1から300、出撃します』

これまた『転送装置』により、ショウロ皇国付近までの移動時間を短縮し、300機が送り出された。

『ラプター隊、成層圏へ上昇します』

大気圏のうち、台風などの気象現象を起こす部分を『対流圏』、その上、穏やかな部分を『成層圏』という。

火山の噴火などは時に成層圏まで達することがあるが、通常最も高い場所まで発達する積乱雲(雷雲)は対流圏内に収まる。

地球では、赤道付近で高度17キロメートルほどが対流圏となり、その上が成層圏である。

つまり、成層圏には雲はなく、1年中青空が広がっているわけだ。

『高度15キロ、成層圏です』

アルスの成層圏はおおよそ15キロ付近からであるようだ。ラプター隊300機は成層圏から台風の上空を目指した。

『台風上空に到着。これより『 冷凍(フリーズ) 』を放ちます』

そして、300機のラプターから台風目掛け、連続で『 冷凍(フリーズ) 』が放たれた。

「どうだ、老君?」

成層圏よりさらなる上空に浮かぶ観察衛星『ウォッチャー』からリアルタイムで映像が送られてくる。

それによれば、効果は出ているようだ。

『はい。過冷却の水蒸気が『 冷凍(フリーズ) 』により凝結し、雨、 霰(あられ) 、 雹(ひょう) となって落下しているようです』

「よし」

台風がもたらす被害には大雨による水害もある。その元となる雲を減らし、同時に空気を冷やすことで台風を小さくしようという試みは、部分的にではあるが成功しているようだ。

だが、まだ不十分である。

『現在、推定最大瞬間風速、90メートル』

「うーむ、まだ駄目か」

「ジン兄……」

エルザも、生国であるショウロ皇国が災害に見舞われるのを見るのは辛いようで、切なげな顔をしている。

『ウォッチャー』から見た、雲の半径は30キロメートルくらい。台風としては大きくはないのだろうが、人間が対処するには大きすぎる。

あの『破片』特大より大きいのだから。

「ちまちまでもいいから削っていくしかないな」

仁はさらに『スカイラーク隊』500機も出動させ、ラプター隊同様、『 冷凍(フリーズ) 』で冷却するよう命じた。

台風の真下では1時間に300ミリを超すような激しい雨が降っている。それがスカイラーク隊の参加で、500ミリまで増えた。

滝のような、という形容でも生易しいほどの豪雨は海面を叩き、その温度を冷やしていく。

『推定最大瞬間風速、70メートル』

「おお、効果が出てきたな」

上陸まではまだ18時間ほどはかかりそうである。

エルザも愁眉を開いた。

「そのまま続けるんだ」

『はい、 御主人様(マイロード) 』

上空からは航空機800機が『 冷凍(フリーズ) 』を、海中ではマーメイド部隊500体が海水の攪拌を行っている。

それが5時間も続くと、さしもの台風も目に見えて衰えてきた。

『推定最大瞬間風速、30メートル』

「よし、順調だな」

仁も溜め息をついた。この調子ならなんとかなるだろう。

「ジン、すごいね!」

「仁、やったな!」

「ジン君、すごいわ」

こうした対策にはまったく関与できないと判断した3人は今まで口出しを控えてきたが、事ここに及んで、ようやく安心したか、喜色を露わにした。

「まだ油断はできないけどな」

とはいえ、最大の危機は脱したと、仁も身体の力を抜いた。

時刻は午後1時少し前。

「お父さま、軽くでもお食べ下さい。皆様も、どうぞ」

礼子がサンドイッチを持って来てくれた。

「ありがとう」

仁はハムサンドを、エルザはタマゴサンドを。グースはトポポ(ポテト)サラダサンド、サキはカツサンド、ヴィヴィアンはツナ(もどき)サンドを手に取った。

「こちらもどうぞ」

さらに、炭酸で割ったシトランジュースも出される。口の中がさっぱりして、これまでの重苦しい空気が一新されたような気にさせてくれる。

「ああ、美味かった。礼子、ありがとう」

「レーコちゃん、ごちそうさま」

「美味しかったわ」

礼子に礼を言い、皆は 魔導投影窓(マジックスクリーン) を見つめる。

そこには、ちぎれてバラバラになった台風の雲が映っている。

『推定最大瞬間風速、10メートル。危険はなくなりました』

「……やったか」

仁はほっと小さく溜め息をつき、椅子の背もたれに身を預けて大きく背伸びをした。

「ああ、ほっとしたよ……」

「ジン兄、お疲れ様」

「だけど、どうしてあんな台風が発生したんだろう?」

仁は便宜上『台風』と呼ぶことにしていた。

『それですが 御主人様(マイロード) 、人為の臭いがします』

「人為……か」

「人為……」

「人為……ね」

「人為……かい」

「人為……かあ」

仁をはじめ、皆、意外ではないという顔になった。

「赤道を越える台風。普通じゃないよな……『ヘレンテ』かな?」

『発生場所から言って、その可能性は高いです。動機は不明』

それ以上に、台風を発生させ、その進路を決めてしまえるというのは怖ろしい技術力と言わざるを得ない。

『はい。 力場発生器(フォースジェネレーター) のようなものを使ったのではと推測しますが、『力』を感知できませんでした』

「感知できない力か……まだ奴らは隠している技術がありそうだな」

『惑星改造の技術でしょうね』

「そうだな。だとするとまた何かしてくる可能性もあるか」

「まったく傍迷惑な奴だね!」

「サキ、『傍迷惑』なんて言葉じゃ済まないと思うぞ」

「……同感」

仁たちは、漠然とした予感に身を引き締めるのであった。