作品タイトル不明
35-02 マルシアの誕生日に
「ちょっと遅れたけれど、誕生日、おめでとう!」
「おめでとう!」
「マルシア、おめでとう!」
「ありがとう!」
10月19日、蓬莱島では『仁ファミリー』勢揃いでマルシアの誕生日を祝っていた。
本来は10月10日だったのだが、5日後の15日が、破片最接近の日であり、到底祝ってもらう心理状態ではなかったため、19日に延期となったのである。
「いやあ、ほんとに開いてもらえるとはね」
マルシアとしては来年になっても仕方ないと思っていたのである。
「開かないわけにはいかないさ」
仁が微笑む。
「俺自身、みんなに感謝しているんだから、その気持ちを表させてもらわないと」
「そうかねえ。あたしなんてジンの世話になってばかりいる気がするんだけどねえ」
「お互い様、ってことだろうな」
そこへラインハルトが割って入った。
「人はみんな相身互いさ」
「ほんとだねえ」
「そうだなあ」
手にしたグラスにはワイン。ラインハルトの好きな白ワイン、『エルリッヒの3454年』だ。
空になると、すかさずメイドゴーレムが注いでいく。
「だけど、今回は大変だったな」
ラインハルトが、15日の夜を思い出しながら口を開いた。
「我々はただ空を見上げているだけしかできなかったからな」
だがそれには仁が反論する。
「いや、ラインハルトたちは住民がパニックを起こさないように手配りしてくれたじゃないか」
「ライ兄、そういう地味なバックアップがとても大事」
エルザも仁と共にラインハルトに反論した。
「リシアだって大変だったろうしな」
「え、あ、あたしですか?」
いきなり振られて慌てるリシア。
「そ、そうですね……確かに、村の人たちは慌てていましたけど、危険はないと説明したら何とか落ちついてくれましたね」
「そういうことをしてくれる人たちがいるから安心して出撃できるんだよ」
一方、また別の話をするメンバーも。
「あら、ユリアーナちゃん、笑ったわ」
「だあ」
「ほっぺたぷにぷにね。可愛らしいわ」
ベルチェが抱いている娘、ユリアーナを構う女性陣がいた。
「もう随分大きくなったわね」
感心するようにステアリーナが言う。
「このくらいの子はすぐ大きくなるものさね」
マーサもにこにこしながらユリアーナを見つめていた。
「夜泣きもしないし、いい子で助かっていますわ」
自分は夜泣きをする子だったらしい、と照れながら言うベルチェ。
「みんな何かしら親に世話をかけて大きくなるもんさね」
「おばあちゃん!」
「あ」
マーサの発言を、そばにいたハンナが遮った。
そしておそるおそる、仁の方を窺うハンナ。
「……よかった」
仁は今、グースと談笑しているところであった。
(おにいちゃんには聞こえなかったみたい)
ほっとしたハンナであった。
そんなとき、ハンナのそばに礼子がやって来て、シトランジュースを注いでくれた。
「ありがとう、レーコおねーちゃん」
すると礼子は優しく微笑み、
「いえ、ハンナちゃん、お父さまへのお気づかい、ありがとうございます」
と小さな声で囁くように言ったのであった。
* * *
「ええと、全員揃っているからこそ話しておきたいこともあったんだ」
宴が一段落したとき、仁が全員を見渡して口を開いた。
「ジン、なんだい?」
「聞かせてもらおうじゃないか」
全員が仁の方を見た。
「まず結論から言うと、シオンをはじめとした魔族の人たちも『ファミリー』に加えたいと思うんだ。今更、と思われるかもしれないが」
これについては誰も異議を挟まなかった。
「くふ、本当に今更だね」
今更、ということには同意した者がいたが。
何度も魔族領を訪れて交流しているので、『今更』感が強かったのである。
「あと、オノゴロ島をもっと調べてみたいなあ、と思ってる。もちろん強引な手段でなしに」
「ああ、わかるかな」
仁の言葉に、ラインハルトが同意する。
「どうも彼等は、この星を守る存在じゃないような気がするんだ」
「だよねえ。今回、何もしなかったしね」
サキも同意してくれる。
「そうなんだ。それを言ったら俺もそうなのかも知れないけど……」
などと自虐気味に仁が呟いた瞬間。
「そんなことないわよ」
「そんなことないさ」
「そんなことないわ」
「そんなことはないぞ」
等々、皆から否定の言葉があふれ出てきたのだった。
「ジンは自分の出自をはっきりと僕らに説明してくれたし、何よりこの世界のために尽くしてくれているじゃないか」
と、ラインハルト。
「そうだね。ジン君なら、世界征服だって思いのままだろうに」
と、トア。
「ジンってば、初対面のあたしを助けてくれたじゃない。その『ヘレンテ』とかいうゴーレムとは大違いよ」
と、ビーナ。
「ジンってさ、今から思えば、自分にあまりメリットがないのに、あたしの誘いに応じてくれて……おかげでレースに優勝できたよ!」
と、マルシア。
「そうそう。ジン君とその『ヘレンテ』を比べるだけ野暮よ」
と、ステアリーナ。
「そ、そうですよ! ジンさんは私の生きる道を示唆して下さった恩人です!」
と、リシア。
「おにーちゃんはおにーちゃんだよー」
「そうだねえ、ジンはジンさ」
と、ハンナとマーサ。
「みんな……」
仁は嬉しかった。
「ん、ジン兄は、私の、旦那様。この世界に、なくてはならない人」
最後にエルザがそう言って仁の腕を取ったのである。