作品タイトル不明
34-21 閑話68 その後……
「いやあ、聞かされていなかったら、世界の終わりかと思ったよ」
「でも綺麗だったな。怖ろしくもあったけど」
「まったくだなあ。たまに星が落ちるのを見ることはあったけど、あんなのは初めてだぜ」
「うちの亭主はさ、上向いてうろついていて土手から転がり落ちたのよ」
「あはは、うちの息子は転んで頭ぶつけたけどね」
民間レベルでは概ね平穏無事に乗り切ることが出来ていた。
「あれ程とは思わなかった」
セルロア王国では、首脳陣が集まり、反省会のような会議を開いていた。
「事前に通達、周知徹底したので、混乱はなかったようだな」
「は、陛下。被害もなし、とのことです」
そこまではよかった。
「ですが陛下、本当に、『崑崙君』は、あの星を防いだというのですか? 俄には信じられませんが」
年若い貴族がそんな発言をした。
それも無理からぬことではある。知識がなければ、隕石も、流星も理解できぬだろうから。
さらにいえば、どのくらい困難なことだったのかもわかってはいない。
「その後に入った報告によれば、『崑崙君』と『デウス・エクス・マキナ』が協力して防いだということだ」
セルロア王国国王、セザールが手元の書類を見ながら語った。
老君も、さすがに全国規模の流星について、仁一人で対処したというには無理がありすぎると、『兄弟子』デウス・エクス・マキナの名も使ったのである。
「『崑崙君』と『デウス・エクス・マキナ』ですか。いったいどれほどの力を持っているのやら。それがこちらに向けられない、という保証はあるのですかな?」
まだそういう意見を口にする者がいることに、セザール王は驚いた。感情の問題ではなく、論理的な問題で、だ。
「意味のない疑問だ。彼等が本気で世界を征服、あるいは破壊する気なら、我々にそれを止める術はないのだからな」
「しかし、彼等とて、弱点はあるでしょう。例えば家族友人とか……」
「それ以上はやめよ。これは王命である」
敵対をして得になることなど欠片もないことを、王と大半の重臣たちは知っている。
だが、腐敗した旧臣を切り捨て、新たに登用した者たちの中には、まだ『崑崙君』についてよく知らない者がいるのも事実。
そうした者たちには、これから理解させなければいけない、とセザール王は考えていた。
今回の流星はそのいい機会になるだろう、とも。
* * *
「結局はジン君と『デウス・エクス・マキナ』が共同で事に当たった、というわけね」
ショウロ皇国でも、報告会議が行われていた。
「被害がなくて何よりです」
「はい、陛下」
「それにしてもジン君はどれほどの力を持っているのかしらね……」
「それが我々に向けられないことを幸いとしなければいけませんな」
宰相の呟きに女皇帝は答える。
「ジン君自身は、とても友好的な人よ。こちらが裏切りさえしなければ、ね」
「それはわかります。ずっとこの関係が続けばいいですなあ」
「大丈夫よ。そうありたいと思う気持ちがある限り」
その言葉は若干希望的に過ぎるかもしれないが、女皇帝の偽らざる心境でもあった。
* * *
「ああ、無事に乗り切りましたね」
「ジン様のおかげですなあ」
異民族の国……ミツホやフソーでも、穏やかな日が送れることに安堵する人々がいた。
* * *
それら、各国各地の反応を、蓬莱島の頭脳『老君』は把握していく。
『 御主人様(マイロード) の偉業が知られるのはよいことですが、その分畏怖されるというのは困りものですね』
強すぎる力は、時として恐怖の対象となりやすい。
また、特定の勢力が取り込み、己の力としようとする場合もある。
『『仁ファミリー』の方々が狙われるということだけは避けませんと……』
この世界と仁がいつまでも良好な関係を続けられるように。
老君は腐心していくのである。
* * *
《ふうむ、結局乗り切ったのか……あの『ランド』とかいう奴らとその 主(あるじ) はなかなか侮れない力を持っているようだな》
《はい》
《こんな星のことなど眼中になかったが……少しは気に止めておくべきか?》
《いえ、全てこちらで対処いたしますのでお気になさる必要はないかと》
《そうか。なら任せる》
《はい》
『オノゴロ島』の地下では、何やら不穏な会話がなされていた。
* * *
「そうか、無事回避したか、さすがだ、ジン殿」
そして事態が落ちついた後、仁は礼子を連れて700672号の下に報告のため訪れていた。
「しかしその『オノゴロ島』とジン殿が名付けた島、少々気になるな」
「そうですか?」
「うむ。『主人たち』のメンタリティと若干食い違う面があるからな」
「それは?」
「危険に対する反応だよ」
700672号が言うには、彼の『主人たち』、つまり『 始祖(オリジン) 』は、危険に対しては慎重すぎるほどに対処が厳しいという。
「今回のように座して何もしない、というのが解せぬ」
「なるほど……」
「どこかが狂っているのか、あるいはそういう指示を受けているのか」
「え?」
「指示を受けているとすれば、その相手はこの星にいない可能性があるな」
700672号は驚くべき推測を口にした。
「それならば辻褄は合う。『ヘレンテ』といったか、そやつの主人は、別の星にいるのやもしれん。そしてそこへ 自由魔力素(エーテル) を送り出している、とも考えられるな。あくまでも可能性がある、という程度だが」
700672号の推測に、仁もなにがしか思うところがあった。
「わかりました。気を付けましょう」
「そうだな。それに越したことはない」
仁は700672号の下を辞した。
「お父さま、700672号に『望遠装置』や『 自由魔力素(エーテル) 転送』のことを聞かなくてよろしかったのですか?」
研究所に戻ると礼子が尋ねてきた。
「ああ。いずれ自分でなんとかしてみせるさ」
仁はそう言って微笑んだ。
「そうですね、それでこそお父さまです」
礼子も微笑み返す。
「さて、あとは各国に説明に行くことくらいか」
「それはマキナに任せたらいかがでしょう?」
礼子が助言してくれた。
マキナの存在感が薄くなってきているので、ここでアピールするのも手かもしれない、と仁は思う。
『 御主人様(マイロード) の手紙も持たせればいいのではないでしょうか』
「そうするか」
老君も助言をくれた。
「災害対策について少し助言を書いておくか」
『よろしいかと思います』
緊急時の避難や、非常食糧・水の備蓄など。国に余裕がないと出来ないが、仁も出来ることは援助したいと思っている。
蓬莱島に秋の爽やかな風が吹く午後のことであった。