作品タイトル不明
34-15 閑話67 各国では
『10月15日頃、空から星のかけらが降ってきます。危険はないと思うので慌てないように指示を徹底してください』
……というような通達が仁から各国に届けられた。
もちろん、補足説明もある。
『危険のあるかけらは自分が処理します。ですが漏れが出る可能性もあるので、興味本位で外に出ないように』
『星のかけらが地表に達すると、家1軒くらいは破壊する威力があります』
『慌てて逃げようとして怪我をしたり、空いた家に空き巣が入ったりという問題もあるかもしれないので治安維持に気を付けてください』
およそ、このような内容であった。
仁から報告を受けたショウロ皇国の女皇帝、ゲルハルト・ヒルデ・フォン・ルビース・ショウロは、即座に行動した。
「『星が降る』……『流星』ね。各地の領主、それから町長・村長に連絡を徹底しなさい」
「は、直ちに手配します」
宰相もその命を受け、てきぱきと手を打っていった。
仁の言葉を疑う者はいない。
仁が寄贈した教師用オートマタ『 指導者(フューラー) 』による講義を受けている首脳陣・城詰め貴族が多かったからだ。
そして、そのような事態が起きれば、何も知らない住民がパニックになるであろうことも容易に想像できた。
早馬と鳩便を使い、各地に通達され終わったのは14日のことであった。
* * *
「『星のかけらが降る』、ですと?」
クライン王国では、その報せを受け取ったあと、臨時会議が招集された。
「『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』で『崑崙君』たるジン・ニドー殿からの連絡です。無視できますまい」
正に晴天の霹靂といったこの知らせに、過半数の貴族たちは動揺を隠せなかった。
「星が降ってくるなど、この世の終わりではないのですか?」
そんな反応もされたほどだ。
「待て。『崑崙君』は『星のかけら』と言ったのだ。『星』そのものではない」
国王アロイス三世の言葉に、少し座は静まる。
「想像してみよ。夜空の星が降り注ぐ 様(さま) を。事前に知らされているといないとでは、その驚愕度は天と地ほども違う。『崑崙君』は、無駄に騒いで身を危険にさらすな、というのだ」
「確かに、夜の闇の中、逃げ惑うことで転んで怪我をしたり崖から落ちたりということもありえますな」
「そうだ。そういうことがなきよう、各地には事前に通達しなければならぬ」
「ですが陛下、この情報の信頼性はいかほどなので?」
つい最近重臣として加わったばかりの若い貴族の発言。
「そなたは『崑崙君』のことを知らぬのだったな。ならばその発言も頷けるというもの」
「さよう」
出席者のほとんどは、『崑崙君』の実績を知っており、その言葉を疑ってはいない。
少なくとも『可能性』を考慮し、手を打たんとしていた。
仁がこの世界に来てからの功績の積み重ね、その成果である。
* * *
「『星のかけらが降り注ぐ』、か」
エゲレア王国王城では緊急会議が行われていた。そこにはクズマ伯爵の顔もある。
「『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』で『崑崙君』、ジン殿からの情報だ。信憑性は高い」
「ですな。『崑崙君』が乗りだし、地表に被害が出ないよう尽力してくれるとはいうものの、人心の安定を図るのは我等の務め」
「内務卿の仰るとおり。早速各地へ通達を行わねば」
「それはそれとして、どんな被害が起こりうるのでしょうな?」
これに答えたのはクズマ伯爵であった。
「私見ですが、『 石つぶて(ストーンバレット) 』を何百倍にも強くしたようなものに加え、『 炎の一撃(フレイムバスター) 』の効果も加わるかと」
「ふむ。クズマ伯爵は『崑崙君』と親しかったな」
「はい。友人のショウロ皇国男爵ラインハルト殿はジン殿の親友ですし、妻もジン殿と面識がありますし」
仁ファミリーの一員であることは口にすることはできないので当たり障りのない表現に留める。
「なるほど、それなら想像できるな。……とてつもない被害ではないか?」
「ええ、ですから『崑崙君』が処理に当たると言ってくれているのでしょう。それでも漏れがある可能性があるので、できるだけ外に出ないでいてほしいと……」
「うむ、わかる。我々も気を付けねばな」
* * *
エリアス王国でも、連絡を受けてすぐに対策会議が招集された。
「各領主には徹底した安全管理を行わせるように」
「決して怪我人を出さないという心構えでやっていただきたい」
病弱な国王、ブリッツェン・スカラ・エリアス12世の代わりに、王太子アルフォンスが会議を取り仕切り、終始リードしていた。
「……では、そのように」
よって、さしたる混乱もなく、仁の願うような対策が採られることになったのである。
それはセルロア王国でも。
「『崑崙君』からの知らせだ。すぐに会議を始める!」
「はっ、陛下!」
「各地へ鳩を飛ばせ。住民を怯えさせないよう、手を尽くすのだ」
また、フランツ王国でも同じであった。
「『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』の情報を軽んじるわけにはいかん。すぐに対策会議を行うぞ」
* * *
「『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』からの知らせとな?」
異民族の国、ミツホやフソーでも同じように、いや、むしろ素早い反応を示し、対策がなされていった。
「15日前後、流星が多く見られる。天変地異でも何でもない。過剰な反応をして怪我などせぬように」
こうした通達が全住民になされたのである。
そして、北の地、魔族領でも。
「『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』からの知らせ」
「ジン殿からの連絡」
住民の数が少ない分、より早く、より徹底して対策がなされた。
これまで仁が築き上げてきた実績と信頼が実を結ぶ。
どこの国でも、異民族でも、また魔族領でも。多少の疑念を挟む者はいても異議を唱える者はおらず、順調な対策がなされていったのであった。
* * *
そんな各国の対策状況は、『 第5列(クインタ) 』によって老君にもたらされ、仁に報告される。
「……ふう、なんとかなりそうだな」
過去の地球でも、巨大彗星が地球を掠めるという情報が流れると、それが地球人類の滅亡の日だという噂がまことしやかに囁かれたりし、かなりの混乱があったと言われている。
仁は高校の授業で、理科(地学・天文)の教師が、
『5分間地球の空気がなくなるだとか、彗星の尾に含まれる水素が大気中の酸素と化合して呼吸できなくなるとか、悲観して自殺した者もいるという』
などという雑談めいた話を聞かせてくれたのを覚えていたのである。
そんな意味のないパニックを防げたら、と仁は思っていたのだ。
「あとは俺次第、か」
仁は研究室を出て空を振り仰いだ。
満天の星空が広がる中、うっすらと光るものがある。
「彗星……みたいになってきたな」
そう、飛び散った第5惑星ペンゴルタの破片の中には、『極小』と呼ばれるものや、さらに小さい微粒子、分子レベルのものも含まれていた。
それらが太陽の光を受け、まるで彗星の尾のように光っていたのである。
仁もそんな現象は知らない。
「 自由魔力素(エーテル) の効果もあるのかもな」
星空を見つめ、仁は独りごちたのであった。
* * *
「謎の光が夜空に現れましてございます」
天文官と呼ばれる役職がある。
その昔は、星の運行で占いや吉凶を判断したというが、今は主に暦を作る役割を受け持っている。
が、毎夜夜空を見上げている彼等は、それまで無かった謎の光が夜空に現れたことをいち早く察知した。
「これが、『崑崙君』の言っていた星のかけらが降る前兆かも知れぬな……」
各国首脳陣は、心を引き締めたのである。