軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

34-10 無属性

「今以上に老君を強化、って、どうやるの?」

エルザには、およそ考えられる限りの改良を施されているように思えるのだ。

「それはそのとおりだ。あとできるとすれば、クロックアップや、周辺機器の充実だな」

パソコンの例えで説明する仁。とはいえ、仁もそれほどパソコンに詳しいわけではない。

クロックアップは、パソコンの発展期によく行われた手法だ。

デジタル処理では、CPU(中央演算処理装置)が、1秒間に何回演算ができるか、が1つの性能の目安であった。

新型機は、こぞってクロックアップしたことを謳ったものである。

あとは内蔵ハードディスクの容量アップとOSのバージョンアップ。

仁が知っているパソコンの性能アップと言えばそのくらいである。

魔法工学では、 制御核(コントロールコア) の属性がクロック周波数を決める。

これを上げるということは、単位時間あたりに考えられる案件が増えるということだ。

仁は、選りすぐった 魔結晶(マギクリスタル) を使っていたが、天然のものにはどうしても不純物が紛れ込む。

そこで仁は最高品質の 魔結晶(マギクリスタル) に『 純化(ピュアリ) 』と『 構造変形(ストランスフォーム) 』、そして『 結晶化(クリスタリゼーション) 』を施すことを思いついたのである。

『 構造変形(ストランスフォーム) 』は仁オリジナルの工学魔法であるから、この一連の処置は過去に例がない。

どのような結果になるか、まずは実験である。

「『 純化(ピュアリ) 』」

仁は光属性の 魔結晶(マギクリスタル) から、ほんの微量な不純物を抜き去った。そして『 構造変形(ストランスフォーム) 』と『 結晶化(クリスタリゼーション) 』。

これにより、内部の結晶構造の欠陥がなくなる。

出来上がったのは、無色透明な 魔結晶(マギクリスタル) だった。光属性の特徴の、まばゆい輝きは抑えられ、落ちついた光を放っている。

「『 分析(アナライズ) 』……なんだ、これ?」

「ジン兄、どうしたの?」

何か不具合が起きたのかとエルザが尋ねる。

「い、いや、何と言えばいいか……エルザも調べてみればわかる」

「? ……『 分析(アナライズ) 』……あ」

「だろう?」

「何、これ?」

いくら調べても、属性が感じられなかったのである。

「全属性に対して……『無』属性とでもいえばいいのか?」

「ん、確かに」

「ほんのわずかな不純物を取り除いたら属性が消えた、ということは、不純物が属性を決めていた、ということか」

「そうなる」

「これって、サキが大喜びしそうな内容だな」

* * *

「ジン! 何という発見をしたんだい!!」

サキを呼び寄せたら、案の定躍り上がって喜んでいた。

「ううむ、その属性を決めている不純物の正体っていったいなんだい?」

それがわかれば、人工的に各属性の 魔結晶(マギクリスタル) を作れるようになるかもしれない。

「今のところわからないんだ。というより、分離しても出て来なかったんだ」

「うーん、そうか……」

考え込むサキ。

「そうしたら、他の属性の 魔結晶(マギクリスタル) も、同じ処理をしたら無属性になるってことかい?」

「だな。実際、やってみた。火属性の 魔結晶(マギクリスタル) が無属性になった」

その場合の不純物……もしくは『添加物』も不明だと、仁は言った。

「うーん、難しいね。でも、研究する価値はありそうだ。……それで、『無属性』を 制御核(コントロールコア) に使ったらどうなったんだい?」

「ああ、そうそう。試しに、エドガーの 制御核(コントロールコア) を交換してみたんだ」

「え? なんでエドガー?」

「いや、エルザが是非に、っていうから」

エルザとしては、自分が作った初めての 自動人形(オートマタ) であるエドガーを、最近メンテしてやっていないな、という想いがあったのだ。

縁の下の力持ち、というか、裏方としての仕事が多いエドガー。その理由の一つには、仁が作ったゴーレム・ 自動人形(オートマタ) たちよりも性能がやや劣るということがある。

それで、仁が老君を改良しようという同じ機会に、エドガーの性能アップを考えたエルザであった。

「で、どうなったんだい?」

「驚くなかれ、思考処理速度が1.5倍に上がったぞ」

「そりゃすごいね!」

「それだけじゃないぞ。『 魔力反応炉(マギリアクター) 』をこれで作ったら、出力が5割増しになった」

「一大発見だね!!」

「ああ、思うに、不純物の存在、種類、それに結晶構造なんかが、魔力周波数を決める要因になっているんじゃないかと思うんだ。それに……」

単純に速くしただけでは、情報のやり取りが追従できなくなってかえって能力が落ちることもあるのだが、この『無属性』 魔結晶(マギクリスタル) はそうした欠点がないようなのである。

余計な抵抗がなくなった、ということの効果ではないかと仁は想像した。

「ふんふん、あり得る説だね。研究してみたいよ」

「その辺は任せるよ」

「うん、今、ジンは忙しいだろうからね。任された」

こうして、『無属性』の 魔結晶(マギクリスタル) についての研究はサキに一任し、仁は老君の、エルザはエドガーの強化をすることになったのである。

* * *

「どうだ、老君?」

『はい、 御主人様(マイロード) 。はっきりと性能が上がったことを感じます』

「1割2割じゃないものな。1.5倍といえばかなりのものだ」

『はい。これで更に 御主人様(マイロード) のお手伝いができます』

「よろしく頼むぞ」

続いて仁は、礼子の 制御核(コントロールコア) と 魔力反応炉(マギリアクター) も交換した。

他のゴーレム、 自動人形(オートマタ) たちも順次換装していく予定だ。

「どうだ、礼子?」

「はい、素晴らしい調子です。ありがとうございました」

着々と強化されていく蓬莱島である。

* * *

一方、エルザとエドガー。

「……できた」

作業の早さは敵わないが、エルザの技術も仁に迫るものがある。

骨格から筋肉、皮膚まで全て見直し、 第5列(クインタ) と同等の性能を得るに至った。

「ありがとうございます、エルザ様」

「これからもよろしく、エドガー」

「はい」

「エルザ、お疲れ様」

「ん、ジン兄も」

そんな言葉を交わしたあと、仁は半ば戯れに、エルザの肩を揉んでやった。

「ジ、ジン兄?」

「……うーん、エルザはあまり肩が凝らないのかな?」

施設時代、院長先生の肩や腰を時々マッサージしていた仁は、エルザの肩が凝っていないので驚く。

そして、『英語には肩凝りという単語がない』という話を思い出した。

「でもあれって、自覚がないだけだよな……エルザは、きっと若いからだ、うん、きっとそうだ」

「ジン兄?」

「……はは、なんでもない」

「そう?」

こうして、10月8日は過ぎていく。

夕方、仁は少し仮眠を取り、夜からのミッションに備えた。

* * *

深夜、日付が変わった頃。

「『大聖』、状況は?」

『はい、 御主人様(マイロード) 。予定どおりです。大型 力場発生器(フォースジェネレーター) により、『特大』の自転はほぼ収まりました。数分後に移動用の大型 力場発生器(フォースジェネレーター) を起動します』

「そうか、よし」

ミッションは佳境に入った。