作品タイトル不明
34-11 厳しい値
観察を続けていると、『特大』破片はほぼ回転を止めている。
「よし、軌道変更用の大型 力場発生器(フォースジェネレーター) を設置だ」
こうして、ようやく大型 力場発生器(フォースジェネレーター) の設置が開始された。
作業を始めれば、あとは早い。およそ30分で、残った大型 力場発生器(フォースジェネレーター) は全機設置が完了した。
「よし、起動」
『起動します』
見ている限りでは何も変化はしていないように見えるが、確かに破片に力は加わっているのだ。
推定最大推力100万トンの大型 力場発生器(フォースジェネレーター) が105基。つまり1億500万トン。
『特大』の破片の推定質量は、不定型な岩塊であり、金属ではないので比重を3とし、3000000000000トン=3×10の12乗トン。
1億500万トンの物体を1G下で持ち上げられる力が『特大』の破片に加わっても、すぐに目に見える変化は現れない。
それは、『大』の破片でも同じで、ほんの僅かな軌道変化が観測されただけである。
だが、そのほんの僅かがものを言う。
前回の計算では、アルスの3万キロメートルのところを通過すると計算された。
この近距離では何が起きるか予測できず、仁としてできれば 月(ユニー) より遠く、つまり38万キロ以上離れた場所を通過させたいのだ。
「力Fを増やすか、質量mを減らすか、だな」
仁は必死に考えを巡らす。
『アドリアナ』には同型の大型 力場発生器(フォースジェネレーター) が200基ある。
これを使えば、今の3倍……つまり9万キロに増やせる。が、まだ足りない。
「慣性質量を減らす方向かな……」
名称『重力魔法』では、慣性質量も変化させることができる。
仮に質量が10分の1になれば、加速度は10倍となり、変位量も10倍になるはずだ。
「だけどなあ……」
あれだけの大きさの岩塊の慣性質量を変化させるとなると、かなりの困難を伴う。
過日、『オノゴロ島』で頭脳の代弁者『ヘレンテ』が、アルスを移動する際に慣性質量を0に近づけた、と言っていたが、今の仁には、惑星大のものに効果を及ぼすのは不可能に近かった。
『 御主人様(マイロード) 、あの時は協力を得られませんでしたが、今ならどうでしょう?』
老君が進言する。
「そうだな。対策は立った。だが、その効果が十分ではない。それは彼ならわかるだろう」
あと一息、となれば、前回よりも好意的な反応が返ってくるのではないか、と仁は考えた。
「よし、早速ランド11を派遣しろ」
交渉は前回と同じにした方がいいだろう、と仁は判断した。
『わかりました。早速行います』
「あとは『アドリアナ』か……」
* * *
「『大聖』、破片『特大』を『アドリアナ』も使って移動させろ」
『わかりました。やってみます』
引っ張るのは無理なので、押すことになる。
まず、『アドリアナ』を、破片の進行方向と反対側の面に着陸させる。
そして、『アドリアナ』の推力を逆進にするわけだ。
『アドリアナ』はゆっくりと破片に近付き、適当な場所を選んで着陸した。重心位置の近くである。
『着陸脚、固定しました。推力、逆進にて再作動』
『アドリアナ』の船体が一瞬沈み、着陸脚が縮む。
艦体の最下部が破片表面に接触、岩塊が砕ける。
そのまま推力を上げる『大聖』。着陸脚が軋むが、壊れるほどではない。
艦体が微小に振動しているが、やがてそれも収まった。
そして『大聖』は、推力を徐々に上げていく。
1時間ほどかけて、『アドリアナ』は最大推力で破片を押せるようになっていた。
「よし、当分はこの状態を維持だ」
『わかりました』
また、『大』の破片の中でも大きいものを選び、『偵察用宇宙船』を使って同じように補助推進を行うよう、仁は指示を出した。
「そうだな、『アキレウス』だけは、宇宙空間の観察のために残し、9隻を補助に回せ」
『はい、 御主人様(マイロード) 』
9隻の10メートル級『偵察用宇宙船』も破片『大』の中から、大きい順に選び出したものに着陸し、『アドリアナ』と同じくその推力で軌道変更を手助けするのだった。
* * *
『オノゴロ島』の上空には蓬莱島『 空軍(エアフォース) 』が飛び、バックアップしている。
そしてランド11は、前回と同じ場所にいた。
〈また来たのか、ランド〉
守護神(ガーディアン) ではなくヘレンテが現れた。
「なんとか少しでもいいから協力をしてもらえないかと思い、やって来た」
〈無駄なことを〉
「そう言わずに聞いてくれ。今、私を作ってくれた『主人』は、独力で『モデヌ』の破片に対処しようとしている」
〈観測しているからそれは知っている。1つ訂正しておこう。今このアルスに向かっている破片は『モデヌ』のものではない。第5惑星の核のものだ〉
「やはりそうか。核の中には小さい星系があったようだな?」
〈そのとおりだ。さすがだな〉
ここでランドは畳み掛けるように話し掛ける。
「その技術の一部でいい、教えてほしい。具体的には、魔力を搬送波として光波を扱う技術と、あの破片の慣性質量を無くす方法を」
〈……駄目だ〉
わずかの間があったのは、頭脳とやり取りしていたためであろう。
〈そもそも星の慣性質量を無くす技術は、『主人』だけが持っている。教えたくとも教えられない〉
正直な理由が返ってきた。が、少しも嬉しくない。
「では、せめて魔力を搬送波として使う、その原理だけでも」
〈……無理だ。そういった技術を他者に与えることは禁忌となっているのだ〉
「そうなのか……」
蓬莱島にいる老君も少しがっかりした。
もらえるのは一部の情報だけ、ということになる。
「では、『 月(ユニー) 』のことはどれくらい知っている?」
こうなったら、この機会を利用して少しでも『 始祖(オリジン) 』の情報を集めようとした老君である。
〈そちらは私の『主人』とは全く異なるグループが担当していたから、私はそれについて情報を持たない〉
「そうか……では、北の地に移住した人たちのことは?」
〈少しだけは知っている。原住民と血を交えたようだ。その後のことは興味がないので追っていない〉
血が混じってしまったならば『 始祖(オリジン) 』ではなくなる、という考えなのだろうか、と老君は考えた。
「では、ヘールに残っている人たちのことは知っているか?」
だが、この言葉はタブーだったようだ。
〈それについて話すことはできない。 疾(と) く 去(い) ね〉
ヘレンテの態度が目に見えて硬化した。
ランド11が何を言っても、
〈これ以上話す必要はない〉
の一点張り。
老君も諦めざるを得なかった。
「わかった。情報、礼を言う」
その言葉に、もうヘレンテは答えることはなかったのである。