作品タイトル不明
34-06 秋空の下で
「おおー、さすがジンのメイドさんだぜ」
「俺より手際がいいんでやんの」
蓬莱島でも麦や稲の収穫に携わっている彼女たちである。当然、その所作は洗練されていた。
「あんた、手が止まってるよ!」
「お、そうだな。負けてらんねえぞ!」
ゴーレムメイドたちの働きぶりがいかに人間離れしていようと、そしてそれを見せつけられようと、仕事をするのが馬鹿馬鹿しく感じるような者はカイナ村には1人としていなかった。
皆、自分の仕事を愛し、労働に誇りを持っていたのである。
「ルルナ、ちょっと来て」
「なに、クーネ」
「ほら」
「あ……あれって、ジン様のゴーレム?」
かつてセルロア王国で奴隷として売られていたラリオ村出身の少女たちも、すっかりカイナ村に馴染んでいた。
彼女たちは麦の刈り取りをしているところである。
「おーい、カナ!」
「リック、どうしたの? さぼっちゃ駄目じゃない」
息せき切って駆けてきた恋人を怪訝そうな顔で迎えるカナ。
「さぼってなんかいねえよ。いま、ジンが来ていて、メイドゴーレムを出して手伝ってくれているんだ。だから大幅に作業が進んでいてさ」
「あ、やっぱり。さっきちらっと見かけた気がしたのよ」
「うん。でな、このままいくと、十分今日中に刈り取りと脱穀は終われそうなんだ。だから、製粉に人手が足りなくなったんだよ」
「ええ? 乾燥は?」
「ああ、乾燥はエルザさんが魔法で済ませてくれてる」
「もうなんでもありね、この村」
「嫌か?」
「そんなわけないじゃない。リックがいる村ですもの」
「はいはい、仲いいのはわかったから。……ええと、リック、それじゃあ製粉に回ればいいのね?」
リーダー格のソニアが尋ねた。
「うん、そうなんだ。切りのいいところで中断して、製粉所に来てほしい」
「わかったわ。この区画だけ終わらせたら行く」
「頼んだ」
リックはまた走って行った。
ソニアは背伸びをすると、元気な声を上げる。
「さあ、それじゃあ、この区画、ちゃっちゃと終わらせましょう!」
「うん!」
負けず劣らず元気な、少女たちの声が麦畑に響いた。
* * *
「製粉所はちゃんと動いているようだな……」
仁は礼子と共に製粉所にやってきていた。
ここは、仁がまだ蓬莱島に戻る前、単独で作った手作りの施設である。
そこに昨年手を加え、効率アップを図ったのであった。
「おやジン、来ていたのかい」
マーサが顔を出した。
「ええ、今日だけですが、忙しそうなので手伝いに来ました」
「そうかい。助かるよ」
マーサも、仁が今、何を抱え込んでいるか知っているはずだが、それとなく察したのか、何も言わなかった。
「ジン様ー!」
そこへ、ラリオ村出身の少女たちが駆けつけてくる。
「やあ、みんな。元気そうだね」
「はいっ! おかげさまで!」
一際元気な声はセーマ。茶色の髪、茶色の目をした小柄な子だ。ジェフと仲がいいともっぱらの噂である。
「それじゃあ、マーサさんの説明を聞いて、手伝ってあげてくれ」
「はーい!」
「うんうん、助かるよ。いいかい、まず麦を選別するためにこの『 分別(クラッシー) 』っていう機能を使い、砂やゴミを取り除くんだよ。そして……」
あとはマーサに任せておけそうだと、仁は二堂城に向かった。
* * *
「おにぎりとお茶を沢山用意しろ!」
「はい、ご主人様」
二堂城に入った仁は、村人のお昼ご飯を用意するよう指示を出した。
時刻は午前11時。
二堂城では朝と正午と夕方に鐘を鳴らすので、正午の鐘に合わせ、昼食にするはずだと仁は推測した。
「俺がいたときもそうだったしな」
総出で作業をしているので、おかみさんたちも簡単な食事の用意しかできないはず、と、仁は経験的に知っていた。
それで、予め老君を通じて、ご飯を沢山炊かせていたのである。
二堂城勤務の5色ゴーレムメイド総出で行ったので、11時半過ぎには十分過ぎるほどのおにぎりが完成し、お茶の用意も終了した。
「よし、それぞれ運んでくれ」
「はい」
お茶の入った巨大な保温樽を担ぎ、紙コップを手にするバトラーB、C。
5色ゴーレムメイドたちはおにぎりを入れた大きなバスケットを両手に持っている。
「さあ、行こう」
礼子はおしぼりの入った巨大なバスケットを両手に持った。仁も、まあ、それなりの大きさのものを。
「村長さん、お昼を差し入れに来ました」
「おおジン、助かるよ」
「こちらはおしぼりです。食べる前に手を綺麗にしてもらおうと思って」
「ああ、そりゃいいね。最近ようやく、食事前に手を洗うことを習慣付けられたところだよ」
「ああ、サリィ先生、お久しぶりです」
ギーベックの妻となった治癒師サリィも、先程まで収穫の手伝いをしていたらしく、その髪に藁屑が付いていた。
「ジン兄」
折良く、エルザもやって来た。
「エルザ、ご苦労さん。疲れたろう?」
「ん、平気。……先生、ご無沙汰してます」
「やあエルザ、元気そうで何より」
その時、正午を知らせる鐘の音が響いた。
皆、手を止めて三々五々、畑から、広場から戻ってくる。
「皆の衆、ジンが差し入れをしてくれた。存分に食べてくれ!」
ギーベックが大声で村人に告げる。
「ここにいない者にも誰か教えてやってくれ。ジンの差し入れがあるとな」
「じゃあ、俺が!」
「あ、俺も行くわ」
こうして、村人は皆、仁が差し入れたおにぎりを食べ、お茶を飲み、ゆったりと昼休みをとったのである。
カイナ村の上には抜けるような秋の青空が広がっていた。
そして仁は、心配事を忘れ、心ゆくまでカイナ村でのひとときを楽しんだのである。