軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

34-05 大忙しのカイナ村

クライン王国は、大陸内でも緯度が高いので、寒冷地が多く、若干収穫量が落ちるが、春に種を播いて秋に収穫する春小麦を多く栽培している。

もとその一地方で今は仁の領地であるカイナ村も例外ではなく、春小麦の収穫で大忙しであった。

「天気が続いているうちに刈り取っちまおうぜ!」

「刈り取ったらどんどん干していけよ!」

「あんた、こっちは任しときな!」

「おう、頼む。俺は向こうの刈り入れに取りかかるわ」

朝から威勢のいい声が響き渡り、秋晴れの空の下、村人総出で刈り入れである。

「しかしこの鎌はよく切れるな」

「多分、この2年一度も研いでねえぞ」

仁がアダマンタイトコーティングした鎌である。

「あんた、ちょっと薪を割っておくれ!」

「おう、わかったぜ」

スカンスカンと薪を割るその鉈も、刃の部分はアダマンタイトだ。

「父ちゃん、刈った麦、俺が運んでいくよ」

「おう、ひっくり返すなよ」

手伝いの子供が押す手押しの一輪車、通称『ネコ車』も仁が作ったものだった。

* * *

「……うわあ……とんでもないときに来ちゃったぞ……」

仁はエルザに誘われ、気分転換を兼ねてカイナ村にやって来たのだが、彼の目の前に広がるのは村人総出で働く姿だった。

「2年前を思い出すなあ……」

「ジン兄?」

「エルザ、俺、ちょっと行って手伝ってくる。礼子、行くぞ!」

「はい、お父さま」

「あ、ジン兄」

「悪い、エルザ、今日は好きにさせてくれ!」

麦の収穫などしたことがないであろうエルザに手伝わせるわけにはいかないと考えた仁は、単独で(礼子を連れてだが)手伝いに向かったのである。

小さくなる仁の背中を見つめ、エルザはしょうがない人ね、と言わんばかりの苦笑を漏らしたのだった。

「おーい! 手伝いに来たよ!」

「おー、ジン!」

「ジンにーちゃん!」

一昨年、仁はカイナ村で8ヵ月近くを過ごしており、当然収穫も経験していたのである。

「ジン、領主様に手伝わせる領地なんて聞いたことがないよ」

村長のギーベックが呆れ顔で仁に言った。

「1人くらいいてもいいじゃないですか。何をしましょう」

「そうは言ってもなあ……それじゃあ、マーサさんの所へ行ってくれ」

「わかりました」

村長に言われたとおり、マーサの家に仁は向かった。

「あ、おにーちゃん」

その途中、空のネコ車を押すハンナと出会った。

「ハンナ、手伝いに来たぞ」

「ほんと? じゃあ、一緒に来て!」

「よしきた」

ハンナに付いていくと、刈り取りの済んだ小麦の山があった。

「これを広場に持っていくの」

「よーし、頑張るぞ。礼子も手伝ってくれ」

「はい、お父さま」

仁は予備のネコ車に刈り取った小麦を積んでいく。ハンナも同様。が、礼子は。

力場発生器(フォースジェネレーター) を用いて小麦の山を持ち上げていた。

「わあ、すごーい!」

ハンナは目を丸くしている。

「では、まいりましょう」

「うん、こっちだよ!」

ハンナに先導してもらって、小麦を運んでいく。途中、礼子が頭上に浮かべている小麦の塊を見てぎょっとする村人もいたが、仁の顔を見、礼子が運んでいることを確認すると、『まあ、ジンだしなあ』と呟き、仕事に戻って行ったのである。

収穫後の麦は、そのまま長時間放置すると品質が下がるので、収穫後すぐに乾燥を開始しなければならない。

村の中央広場に運び込まれた麦は、米と違い、まず脱穀される。

「あ、ジンにーちゃん」

脱穀は、主に子供たちが任されていた。

手で毟り取る者、2本の棒で挟んでこそぎ取る者、切り株に束ごと叩き付けて落とす者、様々である。

「あー、俺がいたときの3倍くらい収穫量が増えてるんだっけ」

質のいい農具、健康状態の改善、土壌の改良、ゴーレム馬、それにゴンとゲンのサポートもあって、カイナ村の小麦・大麦の生産量はここ2年でなんと3倍に増えていた。

今までどおりの手作業では追いつかなくなっているのだ。

「道具を作っている暇はないからな……礼子、5色ゴーレムメイドを呼べ」

「はい、お父さま」

仁からの要請ということで、すぐに5色ゴーレムメイド、それぞれのナンバー5がやって来た。

「ご主人様、まいりました」

「わあ、ジンにーちゃん、メイドさんが手伝ってくれるのか?」

やんちゃなクルトが目を丸くした。

「そうだよ。今年は豊作だから間に合わないといけないからな」

子供たちは、二堂城でゴーレムメイドを目にしているので、さほど驚いてはいない。仁に取っては好都合だ。

「ご苦労さん。この麦を脱穀してくれ。小麦と大麦を混ぜるなよ?」

「はい、わかりました」

ゴーレムメイドたちは、てきぱきと作業を始めた。

その作業速度は凄まじく、山のようにあった麦は、それこそあっという間に脱穀されていった。

「ジン兄、何か手伝えること、ある?」

そこへ、エルザがやって来た。

「あ、えるざせんせー」

「ちがうよ、いまはジンにーちゃんのおくさんなんだぞ」

「あっ、そっか!」

一部の子供たちにとって、エルザは勉強を教えてくれた先生のイメージが強いらしい。

「お願い。何か、手伝わせて」

見ているだけというのは嫌だというエルザ。やったことはなくても、何か手伝いたいらしい。

「ああ、そうだな……じゃあ工学魔法で脱穀した麦の水分を飛ばしてくれ」

「ん、わかった。……『 乾燥(ドライ) 』」

仁は、どんどん乾燥されていく麦を見ながら、乾燥機もそのうち作ろう、と考えていた。

山と積まれていた麦はすべて脱穀され、乾燥も済んでしまう。

「よし、全員刈り入れの手伝いをしてこい」

仁は5色ゴーレムメイドに再度指示を出した。

彼女たちは、同型機である101たちが二堂城にいるため、他の村人たちにも違和感なく受け入れられるだろうと考えたのだ。

そしてその目論見通り5色ゴーレムメイドたちは、村人たちに混じって麦の刈り入れを行い始めたのである。

「これでよし」

脱穀した麦をネコ車で製粉場所に運びながら、仁は笑みを漏らした。

「ジン兄、いい顔、してる」

そして、そんな仁の笑顔を見て、エルザもまた、安堵の笑みを浮かべていたのである。