作品タイトル不明
34-04 一区切り
大型 力場発生器(フォースジェネレーター) 製造の指示を出した仁は、次の準備に取りかかった。
「よし、次は転送砲だ」
転送・転移したものは、出口の座標に対して相対的に停止する、という特性がある。
これを利用して、破片を無害化するつもりなのだ。
いま一番問題なのはその速度、つまりアルスに接近する時間なので、これが停止すれば、ゆっくりと処理ができるようになる。
ただし、対象の質量が大きすぎると難易度が急速に増すため、全部の破片を同じ方法で処理できないのは残念である。
転送砲は、直径10メートルの偵察用宇宙船10隻に搭載する分と、『アドリアナ』に搭載するものとがある。
偵察用宇宙船は身長40センチの『アストロ』1〜100が操る。彼等には、『小』の対処を任せる予定だ。
『小』に分類されるとはいえ、数トンから数十トンになる岩塊であるから、転移させるための 魔力素(マナ) の消費も大きいと思われる。
『砲』とはいえ、実弾を発射するわけではないが、いわゆる『魔力』を対象物に向けて発射するため、砲口らしきものは存在する。
その口径が30センチ級のものを偵察用宇宙船に2門ずつ。1メートル級のものを20門、アドリアナに取り付けるのだ。
職人(スミス) は総出で大型 力場発生器(フォースジェネレーター) の製作に取り組んでおり、こちらの作業は他の人員で行うことになる。
とはいえ、乗員である『アストロ』『コスモス』たちも、 職人(スミス) ほどではないにしろ、工学魔法を使えるので作業はそれなりに捗った。
なんとか夜中までには艤装を終えることができたのである。
* * *
「よし、予定通り明日の朝出発だ」
処理するのはできるだけアルスから遠い宇宙空間で、というのが望ましい。
それには少しでも早く出発することだ。
『わかりました。最終チェックは私の方で行います。それが済みましたら必要な資材を目一杯積み込む予定です』
「老君、頼む」
「お父さま、少しお休み下さい」
「ああ、そうするよ」
仁は満足し、疲れた体を休めるため、『家』へ向かった。
寝室の襖を開けると、まだ明かりが点いており、エルザも起きていた。
「ご苦労様、ジン兄」
布団の上に座って、エルザは仁を出迎えた。
「エルザ、まだ寝てなかったのか」
「ん。ジン兄が無理しないか、心配で。……今回は私はお手伝いできなかったから、これくらいしかしてあげられないし」
そんなエルザの頭を撫でた仁は、微笑んで見せた。
「大丈夫。用意は終わった。今、老君が最終チェックをしているところだ。あとは朝まで寝るだけさ」
「そう、よかった」
仁の笑顔を見て、エルザはほっと小さく溜め息を吐いた。
「じゃあ、もう休んで」
「うん、そうしよう」
仁も寝間着に着替え、布団に横になった。
疲れが一気に仁を襲う。
エルザが明かりを消して仁の様子を窺うと、もう寝息を立てていた。
「ジン兄、おやすみなさい」
小さな声で囁くと、エルザも横になり、目を閉じた。
* * *
10月6日午前6時。
仁は研究所の司令室にいて、老君と打ち合わせをしている。
「老君、準備はどうだ?」
『 御主人様(マイロード) 、発進準備完了です。衛星軌道の外までは、転送機で送り出します。その後は自力で航行することになります』
「うん、それでいい」
わざわざ地表から発進させる必要はないのだ。
また、偵察用宇宙船は10隻とも『アドリアナ』に格納済み。
予備、というか補助用の『 魔力貯蔵器(マナボンベ) 』も、倉庫に目一杯積み込んである。
『乗員、全員準備よし』
『アドリアナ』を統括する魔導頭脳、『大聖』の声が響いた。
「よし、スタート!」
『スタートします。10……9……8……』
老君によるカウントダウンが始まる。
『7……6……5……4……』
仁の顔にも緊張が走る。これが始まったら、もう出来ることはほとんどないのだ。
『3……2……1……0!』
魔導投影窓(マジックスクリーン) に見えていた『アドリアナ』の巨体が消えた。
「ふう」
仁は、いよいよ作戦が始まったことを実感する。
「ジン兄、お疲れ様」
エルザが仁を労う。
「ああ、いよいよだ。だが、大変なのはこれからさ」
仁は天井を見上げた。その先に広がる漆黒の宇宙空間を想像しながら。
「およそ5分の3……ああこれは、今現在破片がいる地点とアルスを結んだ直線状での距離を基準にしてだが、そこで反転する。そうしないと破片群と速度を同期できないからな」
破片群を適切に処理するためには、同じ速度で並走する必要がある。
そうでなければ、一瞬ですれ違ってしまうからだ。毎秒数百キロという速度はそれほどのものである。
「速度の同期がもっと早く、もっと遠くで行えれば、それだけアルスへのリスクが減るんだけどな」
『アドリアナ』は最大出力で飛んでおり、その速度は秒速350キロ。これ以上は危険過ぎるのだ。
アルス付近での破片の速度は推定で秒速250キロ。
だがこれは、太陽セランに引かれ、加速を続けているからで、『アドリアナ』が同期する頃はまだ秒速200キロ以下と思われる。
「明後日には破片に追いつき、速度を同期できると思うんだ」
「それまでは……」
「もうできることはないかな」
深呼吸をした仁は、司令室の椅子に寄りかかった。
「その時になったら、乗り込ませてある 分身人形(ドッペル) で指示を出すことになるだろう」
その答えにエルザは頷いた。
「なら、少し、休んで」
「え?」
「ジン兄、無理をしすぎ。少しは身体を労って」
切なそうなエルザの顔を見ていると、安易に大丈夫だ、とは言いづらく、仁は無言で頷いた。
「ジン兄にしかできないってことも、わかってる。だからこそ、ジン兄は、体を大事にして」
その言葉と表情から、エルザが心底仁を心配していることがわかる。
仁はそっとエルザの手を取った。
「ありがとう。そうするよ」
そして手を握ったまま、立ち上がる。
「まずは、朝食を済ませよう」
「ん、今朝はペリド3が作ってくれている、はず」
「そうか、献立は何だろうな」
「楽しみにしていて」
「ふふ、そうだな」
手を繋いで食堂へ向かう仁とエルザ。
その手に伝わる互いの温もりが、この上なく愛しく感じられる。
エルザは願った。この先に何が待っていようと、今この時だけは、せめていつもと同じひとときを。