軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

34-02 教示

「ふうむ、なるほどな……よくぞ教えてくれた」

仁は700672号に会うと、すぐにこれまで判明した事実を説明した。

「その『ヘレンテ』という存在が『主人』と言ったのは、おそらく吾の『主人』の同胞であろうな」

「やはり、そうですか」

「それよりも、気になるのは『長周期惑星』……いや、『モデヌ』だったか。その破片の処置だな」

「そうなんです」

仁は、自分が考えている対策も説明する。

「そうか、小さいものならジン殿は単独で処理できるか。問題は巨大なもの、ということだな」

「ええ」

「吾としては、軌道を変えることを勧める。それも、『上下』ではなく『左右』にな」

「どういう意味です?」

さすがに仁も、徹夜明けの頭では700672号の言わんとするところを理解できなかった。

「ここで言う『上下』は、セラン太陽系の惑星公転軌道面に対してだ。従って『左右』も、な」

「……」

ここまでヒントを言われれば、寝不足で鈍った頭の仁にも理解できた。

「『上下』だと、セランから離れる方向。でも、そうすると再び引力で戻ってくる可能性がある」

「そのとおりだ」

700672号は微笑んだ。

「しかも、引力に逆らうから効率が悪い。いっそ、セランに突っ込む軌道に変えてやるくらいの処置をしてやるがいい」

「なるほど……!」

元の軌道は、セランをかすめる長い楕円軌道。あと少し太陽に近づければ……。

「引力に逆らわぬから、軌道変更も楽なはずだ。面倒な計算もいらぬ。まっすぐセランを目指すようにしてやればよい」

これなら、仁が当初考えていた作業に比べ、3分の2から半分の労力で済みそうだ。

「ただし、このアルスのそばを通ることは間違いないから、その対策はしておくに 如(し) くはないな」

「そうですね。アドバイスありがとうございました」

仁が礼を述べ、去ろうとすると、700672号は不意に呼び止める。

「ちょっと待つがいい。……考えて見たのだが、その『ヘレンテ』という存在の『主人』なのだがな、元々この星にいない可能性がある」

「何ですって!?」

「あくまでも推測であり、可能性だ。吾の知る、吾の『主人』の行動理念などを考慮すると、そういう可能性も出てくるということだ」

700672号の『主人』『たち』、つまり『 始祖(オリジン) 』は、かなり徹底した個人主義だったそうだ。

悪く言えば『協調性に乏しい』、となるのだろうが、700672号はそういう表現は口にすることはできなかった。

「元々アルスにいない、ということは……」

別の星か、宇宙空間か。

「そうだ。おそらくはヘールに留まっている、あるいは留まっていた、のではないだろうか?」

移住に反対する一派もいたらしい、と700672号は言う。

「だから、このアルスが滅んでも構わない、と?」

「そういうことだな。まあこれは、今回の『モデヌ』の一件とは関係ない。ただ、ジン殿への参考情報として、だ」

「わかりました。ありがとうございます」

仁は礼を言い、今度こそ700672号の下を辞した。

* * *

戻って来た仁を出迎えたのはラインハルトであった。

「お帰り、ジン。……その顔だと、光明が見えたのかい?」

「ああ、かろうじて、だけどな」

「そりゃあよかった。そうそう、エルザはちゃんと休んでるぞ。ジンも少し寝た方がいい」

「うん。その前に、指示だけ出しておく」

仁は老君に、破片の軌道変更用の推進装置である大型 力場発生器(フォースジェネレーター) の建造を命じた。

『承りました、 御主人様(マイロード) 。ここは私に任せ、少しお休み下さい』

「わかった。頼むぞ」

そして仁はラインハルトに向き直り、

「お言葉に甘えて、少し仮眠するよ」

と告げた。

「うんうん、そうするといい。ジンが目覚めるまで、僕が司令室に詰めていよう」

「悪いな」

「気にするな。どうせいるだけだ。ジンのようには指示は出せっこない」

「それでもだ。ありがとう」

そう告げると、仁は『家』へと足を向けた。

そして寝室に入ると、倒れ込むように身体を投げ出し、たちまちのうちに眠りに落ちたのである。

礼子はそんな仁に、そっと布団を掛けてやったのであった。

* * *

蓬莱島時間、午後3時。

5時間ほど眠ったエルザは、目を覚ました。

「ん……あっ?」

そして、隣の布団に仁が眠っているのを見て、驚く。

声を上げそうになったが、慌ててそれを抑えた。

「……いつから?」

気持ちよさそうな寝顔を見て、心配の種がなくなったのだろう、と察する。

仁を起こさないよう、そっと布団を抜け出し、音を立てないように襖を開け、廊下に出る。

「あ、レーコ、ちゃん」

「エルザ様、お目覚めですか。お父さまは?」

「よく、寝てる。もう少し寝かせてあげよう」

「そうですね。夕食のお支度ですか?」

「うん。好きな献立を作ってあげようと、思う」

「わたくしは、お父さまがお起きになるまでここにおります」

「うん、そうしてあげて」

エルザは台所へ行き、礼子は再び廊下で番をした。

そして午後4時。

「う、あああ、よく寝た」

仁が目を覚ました。

「お目覚めですか、お父さま」

仁が起きたのを察して、礼子が襖を開けた。

「ああ、礼子か。よく寝たよ。すっきりした。……エルザは?」

「エルザ様は、1時間ほど前に起きられまして、夕食の仕度をなさってます」

「そうか。時間は……4時ちょっとか。……風呂に入って目を覚ましてくるかな」

「お背中、お流しいたします」

仁と礼子は風呂場へ向かう。

温泉なので、四六時中お湯が溢れており、すぐに入浴可能だ。

「ああ、目が覚めるな」

浴槽で身体を伸ばす仁。

「お父さま、あまり無理はなさらないでくださいね」

「わかってるよ。今回で終わりだ」

「なら、いいのですけれど」

礼子にも心配掛けた、と、仁は少し反省したのである。

ラインハルトにも礼を言うと、気にするな、と笑い、彼は領地へと戻っていったのであった。

* * *

「うん、美味い」

夕食は白米のご飯、油揚げと豆腐の味噌汁、菜っ葉のおひたし、トロート(ビワマスに似た魚)の塩焼き、イトポ(サツマイモ)の煮物といった献立だ。

皆、仁の好物であった。

「ああ、美味しかった。エルザ、ありがとう」

「ん、ジン兄が喜んでくれて、よかった」

「心配掛けたな。ごめんよ、エルザ」

「ううん、それはいい。ジン兄、頑張って。でも、私たちが付いていることを、忘れないで」

エルザの優しさが身に染みた。

仁は、明日からまた頑張ろう、と決意を新たにしたのである。