軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

34-01 再始動

『長周期惑星』=『モデヌ』は、第5惑星ペンゴルタと衝突し、その軌道を変え、宇宙の彼方へ消えていくことになった。

だが、惑星本体の脅威は消えても、衝突で生じた破片が、アルスを襲う。

その予測日時は3458年10月15日。

10月4日、仁は蓬莱島で知恵を絞っていた。

「うーん、どうするべきか……」

「お父さま、大丈夫ですか? 完全に徹夜されてますよ? しかも、一昨日の夜も、ろくにお休みになっていないのでは?」

礼子が心配顔で尋ねる。

「大丈夫だ。昔は2晩くらい平気で完徹してたからな」

少し疲れた顔で仁が答えた。

「……ジン兄、少しでいいから、せめて身体を休めて」

同じく完徹したエルザが、眠気覚ましに濃い緑茶を持ってきた。

「ああ、ありがとう、エルザ」

さすがに少し疲れを感じ、仁は椅子の背もたれに寄りかかった。

「……ふう」

だが、その目は遠くを見つめ、心ここにあらず、といった風。

「お父さま、せっかくエルザ様が淹れて下さったお茶が冷めます」

「え、あ、ああ、わかった」

礼子に注意され、仁は慌てて湯飲みを手にした。そして一口。

「……美味い」

「喉が渇いている、と思って。……よかったら、つまんで」

さらに、お茶請けとして大学芋……ショウロ皇国風に言うと『アレ』も差し出す。

「うん、ありがとう」

頭が疲れたときは糖分を、ということでエルザが作ってきたのである。

こういう時の仁はまともな食事はするはずがない、と考えた故の行動だった。

やはり空腹だったのだろう、一度手を付けると、次から次へと大学芋を口に運ぶ仁。

お茶も2杯お代わりし、ようやく人心地付いたようだ。

「やっぱり腹減ってたみたいだ。ありがとう、エルザ、礼子」

2人に礼を言うと、仁は再び考え込み始めた。

「ジン兄、問題点を私にも、教えて」

「え?」

「一度、問題点を整理した方がいいと、思う」

エルザの提案に、仁は頷いた。

「そうかもな。こういう時は少しアプローチの仕方を変えた方がいいかもしれない」

仁はエルザに向き直り、ゆっくりと説明を開始した。

「今悩んでいるのは、『大』『特大』と分類した破片の処理方法なんだ」

「ん、それはいい。『大』は差し渡し1キロから10キロ未満のもの、『特大』はそれ以上のもの」

「そうだ。で、どうすればいいか悩んでいるんだ」

仁は一息ついてから説明を続ける。

「方法は大きく分けて2つ。消し飛ばすか、軌道を変えるか」

「それぞれ、問題があるわけ?」

「そうなんだ。だから悩んでいるのさ」

仁はちょっと考えを頭の中でまとめてから、再度語り出した。

「消すというのにも2通りあって、レーザーなどを使ってプラズマ化させてしまう方法と、転移させてしまう方法だ」

「ん」

「軌道を変えるのはそのままだな。おそらくだが、わずかにでも変えてやれば、衝突は免れるだろう」

エルザは頷いた。

「で、それぞれに問題がある、ということ?」

「そうなんだ……」

仁は肩を落とした。

「まず転移させる。これをやるには、ものが巨大なだけに、膨大なエネルギーが必要になる。『大』21個、『特大』1個。手持ちの方法だと、 自由魔力素(エーテル) から 魔力素(マナ) を生成する時間を計算に入れて、ぎりぎり間に合うか間に合わないかくらいになりそうだ」

「そ、そんなに?」

「ああ。1回分の転送エネルギーを溜めるのに1日近く掛かるかもしれないからな」

「……」

差し渡し1キロある物体の転送には、それだけのエネルギーを要するということである。

「レーザーや熱線、火属性魔法などで熱して蒸発もしくはプラズマ化させる方法も同じくエネルギー上の問題だ」

「……わかる」

「そして軌道を変える、これは時間的な問題だな」

「時間?」

「ああ、そうさ。あの大きさの岩塊を動かそうとしたら、『アドリアナ』でなければ無理だろう」

「かも、しれない」

『 力場発生器(フォースジェネレーター) 』を使って押すなり引くなりして、軌道を変更させるわけだ。

1個あたり1日掛かるとしたら間に合わない。半日でできるのか? ということになる。

「やってみたら駄目でした、じゃ済まないからな。……で、22個だぞ?」

「……確かに、ジン兄が悩むのも、わかる」

「つまり、なんとか手段はある、でも時間がない、そんな状況なんだよ」

「……」

「一応、明後日いっぱいが期限だ。 明明後日(しあさって) には『アドリアナ』と艦隊で飛び立つ。『中』と『小』も処理しなくちゃならないからな」

「……大変なのが、わかった」

説明を受けたエルザも考え込んでしまった。

「……」

「……」

仁とエルザ、2人して無言で考え込んでいると、

『 御主人様(マイロード) 、ラインハルトさんがお見えです』

と、老君から報告があった。

「やあ、ジン、エルザ……って、2人ともどうしたんだ!?」

「え?」

仁もエルザも、目の下に 隈(くま) を作っていたのである。

「まさか、ずっと対策を考えていたのかい?」

前日一旦解散したものの、気になって戻って来たラインハルトは、改めて事態の重さを実感した。

「ジンがそんなに悩むなんて、思った以上に事態は深刻なんだな」

「まあな……だけど、ベルチェには言うなよ? 不安にさせるだけだからな」

「ジンがそれでいいというなら言わないが……僕にできることはないかい?」

「ああ、それなら、聞いてくれ」

仁は、エルザにした内容をもう一度ラインハルトに説明した。

「『大』と『特大』の処理か……」

「そうなんだ。時間との戦いでもある」

「700672号に相談してみたらどうだ?」

そう言われて、仁とエルザははっとする。

「ああ、そうだな。その手があったか。それに、今回の報告もしないといけないしな」

仁は早速行ってみることにした。

「礼子、行くぞ。……エルザは休んでいてくれ。ラインハルト、エルザを頼む」

「ああ、任された」

黙っていたら、仁が帰ってくるまで寝ずに待っていそうだと思ったのである。

「行ってらっしゃい」

「行ってくる」

仁が出掛けた後、ラインハルトはエルザに休むように言う。

「エルザ、今は休め。お前が倒れたら、ジンは更に心配事を抱えてしまうことになるんだから」

「……うん、わかった。ライ兄、ありがとう」

ラインハルトの説得により、エルザもようやく休む気になったようである。

司令室を出て、『家』の寝室へ向かう。心配なのでラインハルトも途中まで付き添っていった。

間違いなく横になったことを確認したラインハルトは、再び司令室へ戻り、仁の帰りを待つのだった。