作品タイトル不明
33-37 ヘレンテ
〈『モデヌ』が接近中か。なるほど。それは確かに一大事であるな〉
「気が付いていなかったのか?」
〈普段は起動していないからな。 守護神(ガーディアン) の手に負えない事態にならない限り、私が出てくることはない〉
なるほど、と、話を聞いている仁は思った。今回、 守護神(ガーディアン) を全て転移させたからこそ、このゴーレムが出て来たのだ。
その点において、作戦は正しかったと言える。
「では、何か対策は考えられるか?」
〈もう少し情報が必要であるな〉
当然の言い分である。
「では、こちらの情報を渡すか? それとも……」
〈いらぬ。独自に観測する〉
「わかった。……で、対策するときは連絡を貰えるのか?」
〈その必要性を感じないが〉
素っ気ない答え。だが、老君はそれで引き下がることはない。
「そちらの 守護神(ガーディアン) は全て転移させた。それを防ぐことができなかった以上、こちらの実力も評価してもらいたい」
〈ふむ、なるほど。一理あるな。……よろしい、1体だけ、私と共に来い〉
これは思った以上の成果が得られそうだと、老君はランド11に指示を出した。
「では私が同行する」
ランド11の装備は転送銃2丁(カートリッジ残数10)の他、標準装備の 超高速振動剣(バイブレーションソード) 、それに 魔力貯蔵器(マナボンベ) 。
稼働可能時間の残りも十分である。
* * *
「……ここまでは予想どおり、というか、最も望ましい展開だな」
モニタしている仁は、ひとまず胸を撫で下ろしている。
『ですが、ここから先は未知の世界です。シミュレ−ションはおろか、全く予想もつきません』
「ランド11に期待だな」
* * *
〈こちらへ来るがよい〉
「わかった。ところで、そちらは何と呼べばいい? 私のことはランド11と呼んでもらいたいのだが」
〈そうだな。私のことは『ヘレンテ』と呼んでもらおうか〉
「承知した」
ランド11は、『ヘレンテ』の後について、島の奥……原生林を掻き分けて進む。と、その目の前が不意に明るくなった。
「これは『幻影結界』か?」
〈そのとおり。この奥に出入り口がある。私と一緒でなければ見つからぬし、通れぬぞ〉
「わかっている」
ヘレンテは、原生林の中には似つかわしくない建造物…… 転移門(ワープゲート) に足を踏み入れた。ランド11も後に続く。
視界が切り替わり、移動したことがわかる。
〈ここは『*@;島』の地下だ〉
「今、何と?」
〈*@;島、と言った〉
「私には聞き取れない。今までいた島のことであるなら、『オノゴロ島』と呼んでいいだろうか?」
〈構わぬ。所詮単なる識別ラベルに過ぎぬ〉
*@;島改めオノゴロ島の地下には、やはり魔導技術の粋を凝らした施設が存在した。
先日、『エルム』と『アッシュ』が探知した空洞はここの一部であろう。
〈こっちだ、来い〉
言われるまま、ヘレンテに付いていくランド11。
〈入れ〉
廊下を歩き、突き当たりの部屋の扉を開けたヘレンテは、ランド11を招き入れた。
そこは研究室のようでもあり、司令室のようでもある。
さらに驚いたことには、ヘレンテと同じ型のゴーレムが10体ほど、壁に沿って立っている。
ランド11がそれを見つめているのに気付いたヘレンテは、
〈皆、私同様、単なる端末だ〉
「……さらなる上位の存在が操る道具、という意味か?」
〈然り。なかなか知識もあるようだな〉
要は、老君に対する老子、のような存在ということであろう。
「つまりヘレンテは、更なる上位存在が操っている人形、ということか?」
〈そのとおりだ。その存在こそが、この施設を統括する頭脳である〉
とはいえ、その人称などの話し方からして、単なる操り人形でないことは明らかだ。
「さあ、確認してくれ」
ここへ来た目的を果たすため、まずはヘレンテに『長周期惑星』の危険を認識してもらわねばならない。
〈わかった。少し待て〉
ヘレンテは何かの機械、もしくは 魔導機(マギマシン) を操作した。すると壁の一部が発光し、モニタとなった。
さらにヘレンテが操作していくと、宇宙空間が映し出される。
映し出された星々の位置は目まぐるしく変わっていったが、やがて止まると、そこには『長周期惑星』=『モデヌ』が映し出されていた。
「これは……どうやっているのだ?」
望遠鏡的な施設もないのに、宇宙空間を容易に映し出しているのを見て、老君はランド11の口を借りて質問した。
〈魔力波を搬送波として光波を捉えているのだ。仮想中継ポイントを経て、ここまで映像が届けられている〉
「そんなことが……できるのだな」
〈ふむ、今の説明で、概念くらいは理解したか。なるほど、それなりに技術知識は持っているとみえる〉
ヘレンテは、少しだけ感心したらしい。
その後、無言のまま『モデヌ』を観察し、何やら計算している様子。
ランド11は口を出すことも憚られるので、黙って作業を見守る傍ら、室内を観察していく。
仁の知識を以てしても用途のわからない機器で埋め尽くされている。
700672号の部屋以上に高度な魔導技術が使われているようだ。
おまけに、室内の空気はほぼ窒素100パーセント。
これは、機器類・素材類の劣化を防ぐためと思われた。
〈ふむ、確かにこれはまずいかもしれないな〉
10分ほど無言で作業を進めていたヘレンテが口を開いた。
〈確かに、『モデヌ』は、このアルス近傍を通過する軌道をとっている。しかも……〉
「しかも?」
〈明日……あと13時間後には、第5惑星とニアミスを起こす。その際、第5惑星にも何らかの影響があるだろう〉
「その影響とは?」
〈残念ながらそこまではわからん。第5惑星の構造がわかっていない以上、推測はできぬ〉
「巨大な水素とヘリウムの塊ではないのか?」
仁が知る木星の知識を引っ張り出し、口にするランド11。ヘレンテはその内容に驚きを隠せない。
〈ほう、これは驚いた。そこまで知っているのか。そう、スペクトル分析から、表面付近は水素とヘリウムだとわかっている。が、内部まではわからぬのだ〉
木星も、中心には核があるといわれているが、その大きさも成分もわかっていない。
〈いずれにせよ、あと13時間ほどでそれは起こる。見守るしかないだろう。その後に起きる災害は何としても防がねばならぬがな〉
「……」
* * *
あと13時間、見守るしないと言ったヘレンテ。
仁は、ランド11と少し打ち解けてくれたらしいその様子を見て、疑問を確認すべく質問をさせることにした。
「アルスの南半球に 自由魔力素(エーテル) が少ないのは、どうしてなのだ?」
〈それはだな〉
いよいよ、真実が語られようとしていた。