軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

33-38 過去の真実

ヘレンテは語り始めた。

〈その昔、私の『主人』はこの星を住処と定めたのだが、そのためには環境を改造する必要があったのだ〉

「わかる」

〈 自由魔力素(エーテル) 濃度。それは『主人』が必要とするより低かったので、解消するため 自由魔力素(エーテル) の分布を弄った〉

「やはり……」

ほぼ、700672号と話をしたとおりであった。

〈そして、重力。元々この星は小さく、重力が元の星の半分くらいしかなかった。そこで、宇宙塵や小惑星を圧縮して核に詰め込んだのだ〉

ヘレンテはさも簡単なように言っているが、生易しいことではない。

というか、仁でさえ、かなりの困難さを伴うだろう。まあ、できるのだが。

〈そしてもう1つ。気候の問題だ〉

「……惑星の軌道か!」

この発言は仁の言葉を受けてのことで、仁も蓬莱島で大声を出していたのである。

〈そのとおりだ。幾つかの選択肢の中から、『主人』は母星と同じ軌道を取らせることにした〉

それは至極当然の選択であろう。母星と同じ軌道ということは、太陽からの距離が同じということだ。

つまり、受ける光・熱量が同じということ。従って、気候も近いものになるということだ。

〈ポジションは、太陽セランを挟み、ちょうど反対側とした。これが最も安定すると考えたのだ〉

事もなげに言っているが、これは今の仁にはできない。

主に軌道計算の精度の問題で。

そういった点で、ヘレンテの『主人』、すなわち『 始祖(オリジン) 』の技術力がわかろうというものである。

「惑星ほどの質量を、一体どうやって動かしたというのだ?」

〈ほう、その困難さくらいはわかるか。いいだろう、概念程度は教えてやろう〉

ヘレンテは、多少のことならランド11が理解できると感じたらしい。

〈慣性質量をうんと減らせば、どんなに大きくて重い物でも動かせるのだ。星も例外ではない〉

つまり、仁が行っている『慣性を限りなくゼロにする』ことを、『 始祖(オリジン) 』は行ったということになる。

しかし、問題は技術的な面だけではない。

「理論的にはできるだろうことが想像できる。だが、惑星規模……惑星ほどの大きさに及ぼすほどの魔力とは……想像もつかない」

〈理論的にわかるなら大したものだ。規模は、つまりは手間である。時間と労力さえかければ可能だ〉

「なるほど……」

それ以上詳しく教える気はないらしいが、それでも謎が解けていくのは有り難い、と仁は蓬莱島で傾聴している。

「それだけの……軌道を計算できるのは、どんな……頭脳だというのだ?」

〈ふん、その難しさもわかるのだな。頭脳、か。それこそがこの施設の中核だ。それ以上は言えぬ〉

「つまり、この施設を管理したり、ヘレンテを制御したり、先程のように宇宙の映像を映したり、すべてその頭脳が行っていると?」

〈まあ……そうだ。本当にお前は、理解力があるな〉

少しは見直したのだろう、ヘレンテはランド11を真っ直ぐ見据えてそう言った。

〈そもそも、『主人』がいた母星では、 自由魔力素(エーテル) という無尽蔵のエネルギーを使ってすべてを賄っていた。だが、物質を作り出すことだけはかなわず、資源の枯渇により母星を離れざるを得なくなった『主人』は、新たな故郷としてこの星、『アルス』を選んだのである〉

ヘレンテは過去を語り出した。

* * *

「700672号が言っていたとおりだったな」

700672号は仁に、『おそらく 守護神(ガーディアン) とその上位存在は、好戦的ではないだろう』と言っていた。

『主人たち』すなわち『 始祖(オリジン) 』は、古い種族であり、争い事を好まなかったのである。

その被造物も、その思想を受け継いでいたのだ。

話を聞く限り、集めた情報と700672号から聞いた情報。そしてそこから立てた推測と、ほぼ同じである。

「だけど、アルスの軌道まで変えていたとは思わなかったなあ……でも、移住するなら気候を同じにしたいというのはわかるけどな」

実際にやってしまうことのできる技術力に、仁は素直に兜を脱いだ。

そしてまたヘレンテの話に耳を傾けるのであった。

* * *

〈『主人』は元々の生物が絶滅することを危惧し、できる限りの保全措置を取った。それが群島に棲息する動植物だ〉

「重力の増加だけでなく、環境変化にも耐えたということか? 適応出来ない種もいたのではないか?」

〈賢いな。残念だがそのとおりだ。推定で、動植物共に元々の種の8割ほどを保護し、隔離したのだが、生き延びたのはそのうちの半数だった〉

「やはり」

〈残る種は環境の変化に適応出来ず、枯れ、倒れ、滅びていった〉

「島だけか? 大陸は?」

〈そちらは自然に任せた。我々が見守ったのは群島にいる動植物だけだ。さすがに全世界までは無理だった〉

「それで、今棲息している『魔物』と呼ぶ生物のことは知っているか?」

〈もちろんだ。元々棲息していた生物が、重力変動と 自由魔力素(エーテル) 濃度上昇の影響で突然変異し、種として固定されたもの。それが魔物だ〉

「なるほどな。我々の仮説ともほぼ一致する」

〈ほほう、仮説を立てられるまでになっているのか。実に面白い〉

心なしかヘレンテの口調が、愉快そうな感じを受ける。

元々敵性存在ではなく、惑星の守護者的な存在なのだからであろう。

守護神(ガーディアン) を全排除したならその向こうにいる存在が出て来ざるを得なくなるだろう、という推測が的中したわけである。

〈現住生物にはすまないことをした、と『主人』は言っていた。それは自分たちの罪である、とも〉

「そういう自覚をされていたのか……」

〈左様。『主人』は争いを好まぬ。静かに暮らすことを願っていた。……話が逸れたな〉

「ところで、300年ほど前に、北半球の 自由魔力素(エーテル) 濃度が激減する事件があったことは知っているか?」

〈把握している。あれは、 自由魔力素(エーテル) が広範囲にわたって連鎖的に2次エネルギーに変わったのだな〉

「2次エネルギーとは?」

〈『主人』の定義だ。音波を含む物質の震動を1次震動、光波を含む電磁波を2次震動と呼んでいた。 自由魔力素(エーテル) を伝わる波動は3次震動ということになる〉

「なるほど、理解した」

〈その2次震動が持つエネルギーを2次エネルギーと呼んでいるのだ。……詰まるところ、 自由魔力素(エーテル) が光に変わった、ということなのだろう?〉

「そうらしい。我々は『 魔素暴走(エーテル・スタンピード) 』と呼んでいる」

〈なるほど、適切な命名だな〉

「それ以降、惑星上の 自由魔力素(エーテル) は激減し、未だに回復しきっていないようなのだが、理由をご存知か?」

〈もちろんだ〉

「理由は?」

〈そこまでは教えられない〉

どうやら、何でもかんでも教えてもらえるわけではないようだ。だが、 自由魔力素(エーテル) 濃度が回復しきらないのも、彼等が何かをやっているため、ということがわかっただけでも大きな収穫である。今のところそれで仁たちがどうしようもなくなることはないのだから。

「では、別のことを教えてもらえるだろうか? ……惑星上の 自由魔力素(エーテル) 分布から見て、惑星を貫いて南極から北極へ向かう 自由魔力素(エーテル) の流れがあるはずだが、それはどうやっているのだろうか?」

〈ふふふ、そこまで調べているのか、実に面白い。……その推測は正しい。それは教えてやれる。元々、北半球は『主人』が居住地として選んだ土地なので、そちらの 自由魔力素(エーテル) 濃度を上げているのだ〉

「それはわかっている、だが、南極点の海底には何も無いようだが?」

〈よく調べているな。だが、無駄だ。南極点から惑星核を貫き、北極点に向けて送り出している 自由魔力素(エーテル) 、その流れを作り出している 魔導機(マギマシン) は海底にはない。そんな不安定で不確実な場所には設置しない〉

仁が派遣したマーメイド隊がいくら探しても海底には何も見つけられないのも道理、元々設置していないというのである。

「なら、どこに?」

〈それも話すわけにはいかない。重要な 魔導機(マギマシン) だからな〉

それも道理、ランド11はそれ以上の追求をあきらめたのであった。