軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

33-26 対策 その1

「ジン兄、今は、トアさんの誕生日」

考え込みそうになった仁を現実に引き戻してくれたのはエルザの声であった。

「あ、ああ、そうだったな。悪い、エルザ」

「ん」

画面は変わっていない。ほぼ今現在の状況なのだ。

だが、1つだけ目立つものがあった。

「あの星は……」

『第5惑星、ペンゴルタですね』

『長周期惑星』からは大きな細い三日月のように見えている惑星。

「かなり近くを通過するんじゃないか?」

『はい。このままですと、ぶつからないまでも、数百キロメートル程度ですれ違いそうです』

「数百キロか……軌道に影響が出そうだな」

『仰るとおりです。ペンゴルタは木星のような……ガスでできた、巨大な惑星です。質量もそれなりにあるでしょう』

「どう変わるか、はまだわからないか」

『はい。申し訳ありません』

天文学的な知識はほとんどないため、こうした軌道計算は今のところできない。あくまでも推測程度だ。

わずかでも軌道が変化すれば、今現在の予測は無意味になってしまう可能性がある。仁はそれを恐れていた。

(あとで700672号にも尋ねてみよう)

非常事態といってもいい現状、打てる手は全て打っておきたい。

まだ半月ちょっとあるが半月『もある』のか、半月『しかない』のか。

今、このアルスで宇宙空間における影響力を行使できるのは仁しかいない。

「うん、現状がよくわかったよ。ありがとう、ジン」

ラインハルトの声で、仁をはじめ、皆現実に帰って来たようだ。

「ジン君、今日はありがとう。皆さんありがとう」

トアが皆に向かって一礼した。

「この懐中時計、大事にするよ」

そして宴会はお開きとなり、リシア、ビーナ、ルイス(クズマ伯爵)、マルシア、ロドリゴ、ラインハルト、ベルチェ(+ユリアーナ)らはそれぞれの家へと帰っていった。

一方で、ミロウィーナ、ミーネ、ヴィヴィアン、グース、サキ、トアらは残っている。

そしてハンナとマーサ。

「ジン、あたしには何が何だかわからないけど、いろいろ大変だねえ」

技術的なことはさっぱりさ、と言って笑うマーサは、それでも仁のことを気遣った。

「無理や無茶はするんじゃないよ。あんたには守るべき人がいるんだからねえ」

「……はい」

「どうにもジンは1人で抱え込む癖があるからね。エルザちゃん、何かあったらいつでも相談においで」

「はい」

「おにーちゃん、おねーちゃんと仲良くね!」

「ハンナ、ありがとう」

笑顔で手を振り、ハンナとマーサもカイナ村へと帰っていった。

* * *

食堂から司令室へ移動し、簡単な会議をすることになった。

もちろん、マーサの助言の影響である。仁は1人で考えるつもりだったのだが。

「ええと、災害時の対策を考えたいと思う」

仁が議題を口にする。

「災害が起きると思っているのかい?」

グースが発言した。

「起きなければいいんだが、起きることを前提に対策をとっておきたいんだ」

「ジン君のいうこともわかるかな。後は内容次第だろうね」

トアが落ちついた声で意見を述べた。

「となると、どんな災害が起きると思っているのか、聞かせてほしいね」

これはサキだ。やはり気になっているのだろう。

「そうだな。俺も想像でしか言えないけれど……」

そもそも経験したことのあるものなどいるのだろうか、と思いつつ、仁は説明を開始した。

「嵐が起こるかもしれない。海辺では高波。悪天候、大雨が続いて川が氾濫したり、山崩れが起きたり」

「こ、怖いね」

このアルスは、比較的穏やかな気候である。地軸が地球より傾いていないというのもあるのだろうか。

それよりも、もしかしたら南半球で何かそういった制御をしている可能性もある、と密かに考えていたりする仁である。

「だから、そういった災害に対する備え、だな」

「食糧の備蓄や、倉庫の改良」

エルザが思いついた対策を口にする。

「くふ、それに堤防の強化や、船を準備するのもいいのかな?」

「船はどうかなあ。小船じゃ全く意味がないかも」

「やっぱり宇宙船だね!」

「おい」

確かに宇宙船で宇宙へ避難すれば、惑星表面限定の災害は避けられるだろう。

だが全ての住民を疎開させるなど、仁と蓬莱島の全力を以てしても無理だ。

仁ファミリーと、カイナ村と、知り合い……

その他は見捨てる、と考えると胃が痛くなる仁であった。

そんな仁の様子を見て、エルザが声を掛ける。

「ジン兄、大丈夫。何かあっても、ジン兄1人に任せたりしない。私も一緒に責任を、取る」

「……ありがとう」

そんなことはさせたくない、と思いつつも、エルザの思いやりに礼を言う仁であった。

「食料保存は大事だな……」

結界で水や火事を防げるようにすればいいだろうか、と仁は考えた。

「あと、やっぱり風対策」

「そうだな。それも結界か」

基本的に、強力な結界を張って守るのが現実的だ、と仁は考えた。

「災害時には避難場所を決めて、その避難場所を結界で守る、か」

「うん、ジン君のその案は現実的だね」

例えば、カイナ村なら二堂城もしくはシェルターに避難させる。

こうした避難場所の設定を各国に通達しておく必要がありそうだ、と仁は感じた。

それで、『崑崙君』からの正式な書面として各国宛てに発行することにした。

草案は仁と老君とで考える。

骨子は、非常時の備えを考えてほしいということになる。

理由は、国としては領民を守るために大きな災害の可能性を考慮し、対策していくことが必要、と説明。

今のところ、これ以上の情報はまだ出せない。

書類だけでは説得力がないので、結界発生の魔導具も付けた。

「まずはこれでいいだろう。一番いいのは『長周期惑星』が遠くを通り過ぎることだけどな」

それを祈るというのは希望的観測にすぎない。

「あとは、どうするか……」

そんなことを考える仁に、1つの朗報が入ってきたのは翌日のことであった。