作品タイトル不明
33-25 最新報告
「しかし、400年前から隠遁していた一族がいたのか」
ラインハルトは感心し。
「それで滅亡……他人事とは思えないわね」
ミロウィーナは同情した。
「でも、珍しいな。ジンが最後まで面倒見ないというのは」
ラインハルトが少し不思議そうな顔で言った。
「ああ、幾つか理由はあるんだけどな。1つは『南極調査艦隊』のこと、そして『長周期惑星』のことがあるからなんだ」
「それはわかるけどな」
「それに、ランスがあまり世話を焼かれたくなさそうだったしな」
「そうなのか?」
ラインハルトが理解に苦しむ、といった顔をする。
「ジンの実力を知っているなら、協力してもらえるということがどれほど有り難いことかわかりそうなものだが」
「……うーん、彼は、『人』の知識も取り込んでいるようで、そのせいかプライドが高いんだよ」
「ふうん、そういうこともあるのかな? 知識に性格が引きずられる、なんていうことが」
「詳しく調べたいが、さすがにそれはできなかった」
面と向かって敵対されたならともかく、興味本位でそれをやることは、製作者に対して不敬である、と仁は考えたのだ。
そしてその思いはラインハルトにも通じたようだ。
「ああ、その気持ちはわかるよ、ジン」
自分が作り上げた作品を、勝手に分解・解析されたらいい気持ちはしない。そういうことである。
「緊急性があるわけでもないからな。そういった 齟齬(そご) が起こりやすいから、今は関わりたくなかったんだよ」
「確かにそうだろうな」
ラインハルトは、笑ってワインを飲み干した。
* * *
「それから、『長周期惑星』だ」
宴も終わり、皆のんびりと紅茶を飲み始めた時間、仁はもう一つの報告を行うことにした。
月(ユニー) から送り出した無人探査機からの情報である。
「老君、頼む」
『はい、 御主人様(マイロード) 』
大食堂の壁に設置された 魔導投影窓(マジックスクリーン) が点灯する。
そこには漆黒の宇宙空間をバックに、近付きつつある『長周期惑星』が映っていた。
それが次第に大きくなる。
「おお!」
『これは、1時間を1秒に縮めた映像です』
急速に『長周期惑星』が近付いてくる。
「……うーん、なんていうか、あばただらけ?」
サキが正直な感想を述べる。
そう、惑星表面は凹凸だらけだったのだ。
「おそらく、宇宙空間に浮遊する宇宙塵と衝突してああなったんじゃないかな」
秒速何百キロという途方もない速度では、砂粒がぶつかっても、もの凄い衝撃になるはずだ、と仁は言う。
「それにしても、荒れ果てた表面だな」
くっきりとした見え方から言って、大気はないようだ。氷らしいものもない、正に荒涼とした星である。
ゆっくりと自転しているようで、表面には万遍なくクレーターができている。
「これじゃあ生物もいないだろうな」
真空に見えるので、微生物すら生存していないだろうと思われた。
仁たちがそう言っている間にも、映像中の惑星はぐんぐん大きくなっていく。
その速度が若干落ち始めた。速度を同期させているようだ。
『まもなく周回軌道に入ります』
老君が状況を説明する。
「そうか、これは録画だったな」
今更ながらそのことを思い出す仁たち。
「何日くらい前なんでしょう?」
そんなリシアの疑問に老君が答える。
『2日前の映像です』
「なるほど。今は周回軌道にいるんだな?」
『そういうことになっているようです』
映像は、『長周期惑星』の表面を映し出している。衛星軌道に乗ったようだ。
「やっぱりクレーターだらけだな」
「生物はいそうもないな」
「それどころか、空気もない。水もない。氷もない」
『この後、小型探査機を降ろします』
老君からの説明に、静かになる面々。
映像が切り替わり、地表が近付いて来た。そして、着陸したのだろう、また映像が切り替わり、地平線が見えた。
「着陸したようだな」
仁が呟く。
映像は横に動いていく。ぐるっと360度回転したようだ。どっちを向いても同じような荒野である。
そして次に下を向いていく映像。
凸部はクレーターや崩壊地だらけ。凹部はガラガラした岩屑で埋め尽くされている。
が。
「あれって、 魔結晶(マギクリスタル) かな?」
谷を埋め尽くすような岩屑を見て、サキが声を上げた。
『サキさんの言うとおりです。岩屑の1割ほどは 魔結晶(マギクリスタル) です』
「やっぱり。……で、あっちの銀色をした岩はミスリル銀の鉱石じゃないかな?」
『それも正解です』
一流の錬金術師で、こうした鉱物マニアでもあるサキの慧眼はメンバー随一のようだ。
『真空なので、酸化もせず、輝きを失わないようです』
自然銀や自然銅など、一部の金属鉱物は酸化して輝きや色を失うが、真空中ではそのようなことはなく、元の色を保ち続けるわけだ。
「ふうむ、資源は豊富なんだろうね」
これはトアだ。まず素材に興味を持つあたり、親娘揃って錬金術師の面目躍如といえよう。
「しかし、植物は一切見られないね。おそらく、微生物もいないんじゃないかな?」
そんなグースの発言を、老君は肯定する。
『はい。少なくとも、既知の生物・微生物はいないようです』
「でしょうね」
ミロウィーナが同意した。
「太陽セランに近付けば灼熱、離れれば極寒の世界。宇宙塵と衝突すればその衝撃は並大抵のものではない。……そんな惑星に生命がいる方が不思議だわ」
「ミロウィーナさんの言うとおりだな。ほら、あそこに見える銀色の平面、あれって錫か鉛が溶けて固まった池じゃないかな?」
太陽に近付いた際には、表面温度が上がり、摂氏数百度になるのだろう。故に、融点の低い金属である錫や鉛が溶けてしまったものと思われる。
そして太陽から離れれば、冷されて凝固する。こうした状況が見て取れるのは非常に大きい。
生命体がいるのといないのとでは、対処の選択肢が極端に違ってくるからだ。
『着陸したのが昨日のことです。調査は途中ですが、それでも、ミスリル・アダマンタイトなどの稀少金属が豊富であることがわかっております』
「採掘して回収できたら嬉しいわね」
これはステアリーナだ。豊富な資源は、創作系技術者には、やはり魅力的に映るのだろう。
「まずは進路がどうなっているかだな」
仁は、一番の懸念事項を口にした。
『今のままですと、アルスに最接近するのは10月の18日で、200万〜400万キロメートル離れた場所を通過するはずです』
「200万キロか……」
太陽系で比べると、地球と太陽の平均距離が1億5000万キロメートル。
史上最も地球に近づいた彗星といわれる、レクセル彗星が最も地球に近づいた距離が219万キロメートルだという。
おそらくだが、彗星よりも遙かに質量は大きいだろうから、アルスに影響まったくなし、とはいかないだろうと思われる。
「何が必要かな……」
考え込む仁であった。