軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

06-09 伝説

「あー、これはまた格別だ」

女性陣が出た後、仁とラインハルトが入浴。

「ジン、つくづく君は不思議だ」

ラインハルトはお湯の中で身体を伸ばしながら話しかける。

「まるでこの世界の生まれではないようにも思える」

そう言われた時、仁の鼓動が一瞬跳ねあがった。

「いや、比喩でなしにな」

湯気の籠もる天井を見ながらラインハルトは続ける。

「君は知らないかも知れないが、僕らの国には伝説があってね」

「伝説?」

初めて聞く単語に仁は聞き耳を立てた。

「……あの空にかかる太陽、そのむこうにもう一つ世界がある、というんだよ」

「何だって?」

聞き返した仁の言葉をどう受け取ったのか、

「そんなところにある世界なんてね、信じられないかも知れないが、まああくまでも伝説だからな」

ラインハルトは自分も信じてはいないよ、と言うように顔の前で手を振って、

「その世界から我々の先祖はやって来た、というんだ」

「やって来た?」

「ああ。新しい世界を開拓に来たのか、それとも元居た世界を追われたのか、そこまでは伝説には語られていないがね」

そのような伝説は仁も知らなかったので、少しだけ興味を引かれた。

それで、面白い伝説だな、と言うと、

「意外だな。興味あるのかい? それなら、この先通過する予定のセルロア王国にも伝える語り部がいたはずだ」

そう言った後、態度をがらりと変え、

「ところでジン、話は変わるが、君はビーナ嬢やエルザをどう思ってるんだい?」

「はあ?」

いきなり180度変わった会話に、一瞬付いていけずに呆けてしまう仁。

「いや、従兄の僕から見てもエルザの容姿は悪くないと思うし、あのビーナ嬢だって、ちょっといないくらいに可愛いじゃないか」

そういわれてやっと頭が回り始めた仁は2人のことを思い浮かべた後、

「ビーナは、そうだな、手のかかる妹、っていったところかな」

「エルザは?」

「彼女は……うーん、ちょっと危なっかしい妹」

そう答えるとラインハルトは困ったような嬉しいような、また苦笑いにも見えるような笑みを浮かべて、

「そうかい、彼女達はジンにとって妹みたいなものなんだな」

とぼそりと言った。

余談だが、仁のその発言を聞いていたソレイユとルーナは、この後で礼子にその話をすると、礼子は安心とも喜びとも取れる極上の笑みを浮かべたという。

* * *

夜の献立は野菜と鶏肉のシチュー、白身魚のフライ、プレーンオムレツ、サラダ、そしてデザートに焼きアプルル。

「ほう、これは美味い。フライというのか」

「はい。魚に小麦粉をまぶし、溶いた卵に浸けてから更にパン粉をまぶして油で揚げたものです」

「へえ、そんな料理の仕方があったんだ」

ビーナはおろかラインハルトも初めて食べたらしく、フライの評判は上々。

エルザは焼きアプルルが気に入ったらしく、さりげなく礼子がおかわりを差し出している。

なんだか礼子の機嫌が良さそうなのを見て、仁は何かあったのかな、と思ったものだ。

「これが焼きアプルルなのね。ほんと、美味しいわ」

以前、ビーナの家で焼きアプルルを作ろうとしたら、砂糖が高いというので作れなかったのだ。

「作り方は簡単そうね。憶えて帰って弟たちに作ってあげようかな」

「そういえば弟さんと妹さんの具合はどうなんだ?」

ビーナはそれに答えて、2人とももうすっかり元気になって、今はクズマ伯爵邸の庭掃除を手伝っている、と説明した。

「伯爵にはいろいろとお世話になってるものね」

そしてそう締めくくる。

一方エルザは3皿目の焼きアプルルを受け取ったところ。

「おいおいエルザ、そんなに食べて大丈夫か?」

さすがに見かねたラインハルトがそう言うと、

「ん。大丈夫。これでおしまいにするから」

と言って焼きアプルルを口に運んだ。

「はは、気に入ってもらえて何よりだ」

仁はそう言って笑い、自分も焼きアプルルを頬張った。

「ベッドだけど布団は同じなのね!」

客間は洋式でベッドが置いてあるが、布団は『魔綿』を使ったもの。ビーナは小躍りして喜んでいる。

「あー、この寝間着も 地底芋虫(グランドキャタピラー) から取れる糸で作ったのね? すっごくいい肌触り!」

ルビー100はそっと部屋を後にした。

「畳で寝たかった」

そう呟いたエルザのために、アクア100は予備の畳を運び込み、床に並べて即席の和室を作り上げた。

「ありがとう」

エルザがそう言うとアクア100は一礼して部屋を出ていく。残ったエルザは畳に寝転がり、

「……しあわせ」

しばらく畳の感触を楽しんだ後、布団にもぐったエルザは満足そうな顔で眠りに就いた。

「ごくろうさん、もうこれでいいよ」

ラインハルトは脱いだ服を畳んでくれたアメズ100に向かい、そう言った。

伯爵家とはいえ4男のラインハルトは身の回りのことは出来るだけ自分でやる癖が付いており、 魔絹(マギシルク) で出来た寝間着も自分で着るから、と言って断ったのだ。

「はい、なにかございましたらお呼び下さい」

そう言ってアメズ100は退出する。ラインハルトはその後ろ姿を見ながら、人間そっくりの挙動をする仁のゴーレムにほんの少し脅威を憶えていた。

「絶対にジンを敵に回したくないな」

正直なラインハルトの心情吐露であった。

* * *

「……と言う話なんだ」

一方仁は部屋で礼子に向かって、ラインハルトから聞いた伝説の話をしていた。

「申し訳ありません、そのような話は聞いたことないです」

礼子も知らないという。

すると一部にのみ伝わっている伝説なのだろうか。

「聞ける機会があったら、もっと詳しく聞いてみたいものだ」

ラインハルトでさえこの世界が球体だと言うことは最近知ったというのに、そんな昔の伝説で、太陽の向こうすなわち宇宙に別の世界があると言っているのだ。気にならないわけがない。

「大昔は空を飛んでいたのかもな」

ぼそりと仁が呟く。

いつか宇宙へ行けるものなら行ってみたい、と、子供の頃に見た図鑑やテレビの映像を思い出す仁であった。