軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

06-08 いい湯だな

昼食の献立は白いパン、白身魚のから揚げ、野菜サラダ、シトランジュース。デザートにペルシカの実。

「うむう、この真っ白なパンはもしかして……」

「はい、私どもが剥かせていただきました」

ラインハルトが驚くほど白いパン、それは小麦の殻をゴーレムメイド達が丹念に手で剥いたもの。

人間よりも遙かに根気よく単純作業を続けられる彼女達ならではの品質である。

「……おいしい」

一口食べてビーナもその味わいに感激する。

「でも、ジンってば、あたしの家の食事、よく何にも言わずに食べたわよね。普段からこんな美味しいもの食べていて平気なの?」

「ああ。俺は好き嫌い無いしな。食べ物には感謝しながら食べる習慣が身についているし」

「なんというか、偉いわね……」

変な感心の仕方をするビーナ。

「これ、おいしい」

エルザはから揚げが気に入ったようだ。

ラインハルトは野菜サラダにかけてあるドレッシングの味に興味を引かれ、

「このサラダにかけてある味、どこかで食べた気もするんだが……」

どこかの食通めいたことを言い出したので、

「ポトロックで手に入れた魚醤だよ」

と言うと、

「おお! そうだ! あの味だ! なるほど、香辛料と組み合わせてこんな使い方もあるのか!」

とこれまた感心してくれた。仁としては和風ドレッシングは孤児院でさんざん作ったのでお手の物だったりする。

「でも、ジンってば、ここでずっと暮らしてたって言ったわよね?」

「? ああ」

突然のビーナの質問。

「この島で麦とか作ってるの? それとも買ってるの? 買ってるなら結構前からブルーランドへ来てたんじゃないの?」

「うっ」

食料の矛盾を突かれて焦る仁。それを救ったのは礼子だ。

「ビーナさん、 転移門(ワープゲート) の調整とかが上手くいかず危険だったんです。だから主に私がこっそり麦などを買いに行ってたんです。調整が完璧になって初めてお父さまがブルーランドに行ったのがビーナさんと会った時だったんですよ」

「あー、そうなんだ。……調整が上手くいっていないとどうなるの?」

「とんでもないところに飛ばされたりします」

「……聞くんじゃなかったわ……」

なんとなく 転移門(ワープゲート) が怖くなったようだった。

* * *

昼食後、ゆっくりお茶を楽しみ、いよいよ崑崙島の案内を開始。

全員、ゴーレム馬に乗り、島巡りだ。

仁以外の慣れていない3人には、それぞれラインハルトにはアメズ100が、エルザにはアクア100が、そしてビーナにはルビー100が。お茶の時の担当がそのまま付き、先導していく。

全部を見て回ることは出来ないので、西にある採掘地を目指す。坑道のある場所には小山があり、見晴らしがいいのだ。

「なれるとこの馬、おもしろい」

エルザはゴーレム馬が気に入ったようだ。

「こいつの動きもすごい。本物そっくりだ」

高速度撮影の出来る現代地球と違って、四足歩行の解析など普通は出来ない。なので、動物型のゴーレムはどこか動きがぎこちなかったり、不自然に見えたりするものなのだ。

であるからラインハルトが感心するのも当たり前と言えよう。

1時間ほど、景色を楽しみながら……といっても、草原、笹原、疎林、荒れ地などがほとんどであまり見るところはないのだが、とにかく一行は採掘地に着いた。

そこでは、 陸軍(アーミー) ゴーレムの91から100が働いて見せており、見るものを圧倒していた。ようやく男性型ゴーレムのお目見えであった。

「すごいな、これは」

掘り出した金属鉱石が分類されて積まれている場所がある。

魔結晶(マギクリスタル) は屋根付きの倉庫に大切そうに保管され、 魔石(マギストーン) は 魔石(マギストーン) でまとめて保管されていた。

「やはり自分専用の鉱山があるというのはすごいな」

「師匠から引き継いだだけだけどな」

これは正しくはない。蓬莱島はそうだが、ここ崑崙島は仁の代で開発を始めたばかりなのだから。

「君の師匠……アドリアナ殿だったな? すごい人だったんだな」

ラインハルトがそう言った時、一瞬だが礼子も嬉しそうな顔をしていた。

「そこの小山に登ると見晴らしがいいのです」

案内役のソレイユがそう教え、皆は馬のままで小山へ登る。

5分くらいで登り切ると、西の方は海。晴れた午後、水平線の彼方に島影がぽつぽつと見えた。

「おお、海が綺麗だな」

「ほんと。イオ島とかに近いの?」

ラインハルトとエルザは、ゴーレム艇競技の事を思い出したらしい。

イオ島はここからは見えないようだ、と仁が言うと2人とも残念そうだった。

ビーナはと言えば初めて海を見たらしく、言葉もなく見つめるだけ。

「きれい……」

ただ、そんな声が聞こえた気がした。

しばらくそうしていたが、いつまでも山頂にいるわけにもいかず、ビーナに声を掛けて小山を降りる。

「ジン、来て良かった。ありがとね」

最後尾のビーナが、ぽつりとそう呟いた。

* * *

館へ戻ってくると、もう日は大分傾いてきた。館前の日時計では4時前。

「さて、ラインハルト、そろそろ帰る時間だろ? それとも泊まっていくか?」

仁がそう聞くと、ラインハルトはどうしようか、と思案顔。だが、

「泊まりたい」

エルザが一言そう言ったので、ビーナも泊まると言いだし、必然的にラインハルトも泊まることとなった。

「それじゃあ、温泉にどうぞ」

と仁が言うと、

「そう、それ。入ってみたかった」

とエルザが楽しげに言う。ズボンを穿く際、脱衣所からちらと見ていたのだろう。

レディファーストということで先に女性陣に入浴してもらうことにする。ソレイユとルーナが介添えに付いた。

「うわあ……」

大理石で出来た直径4メートルほどの湯船にお湯が溢れている。浴槽の底から湧いたお湯があふれ出ていく構造なので汚れが溜まりにくい。

ここの泉質はアルカリ性単純泉だった。刺激が少なく、まろやかで入りやすい。美肌の湯でもある。

ソレイユとルーナから身体にかけ湯してもらい入浴する2人。

「あー、きもちいいわ」

入浴の機会の少ないビーナは単純に楽しんでいたが、

「このお湯。肌がつるつるになる。これが温泉なの?」

エルザはただのお湯とは違う事に気がつき、そばにいたルーナに尋ねる。

「はい。お父さまは弱アルカリ性なので肌にいいとおっしゃっておられました」

「じゃくあるかりせい?」

ちんぷんかんぷんだが、肌にいいということだけは理解できた。

それでお湯の中で身体を伸ばし、腕や脚を撫でてみる。

ちらとエルザはビーナの方を見て、自分と見比べ、なぜか安心したような顔になった。

「ビーナ、だっけ?」

「は、はい、エルザ様」

エルザに声を掛けられ、驚くビーナ。

「そんなにかしこまらなくていい。ここではあなたも私もジン君のお客さん」

「は、はい、ありがとうございます……」

そう言われても庶民のビーナはそう簡単には態度を改められない。

「ジン君とはどんな関係?」

「え、ジンとですか?」

そう、とエルザは肯き、自分の知らないジンの行動に興味がある、と言った。

「えっと、1月半くらい前、でしょうか。ブルーランド郊外で魔導具の露店出してたんですよね。そうしたら……」

と、ビーナは仁との出会い、そして借金の返済と病気の弟妹のために協力を頼んだこと、ライターや冷蔵庫の開発、ポップコーンや温水器の話、と、順序立てて話していった。

エルザは聞き耳を立てていたが、ビーナの話を聞き終わると、

「やっぱりジン君はジン君。どこにいても変わらない」

そう言ってうっすらと微笑んだエルザの横顔を見て、ビーナは胸にもやもやしたものを感じていた。