軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

06-07 常識、非常識

その後、館の2階を案内する。

玄関ホールから上がってきて2階ホールに出る。東側にあるのが仁の居室と師匠の 部屋(ダミー) 。書斎と納戸である。

西側が客室とトイレ。それにゴーレムメイドの控え室である。

「ここがジンの部屋?」

8畳ほどの部屋は畳が敷かれた和室。

「あ、靴は脱いでくれよ」

そう注意した仁は、まず自分が靴を脱ぎ、畳に寝転がってみせる。

「へえ、そういうことの出来る床なんだ。あたしもいい?」

ズボン姿なのでビーナも靴を脱ぐと畳に寝転がった。

「あ、なんだかいい匂い」

イグサもどきで織られた畳表、イグサの匂いがしている。

「ほんと?」

エルザも靴を脱ぎ、同様に寝転がる。仁を挟んでビーナとは反対側に。

「ひんやりしてきもちいい。でも冷たくはない」

「ふむ、靴を脱げるというのはいいものだな!」

ラインハルトは靴下も脱いで、素足で畳の感触を楽しんでいる。

「でもどうやって寝るの? このままじゃ夜はいくら何でも寒いでしょ」

当然の疑問をビーナが口にしたので、仁は立ち上がって押し入れの戸を開けてみせる。

「寝る時はこの布団を敷くんだ」

そう説明すると、ビーナも立ち上がってやって来て、仁に断り布団にちょっと触ってみた。

「え、何これ? すっごいふかふか! 羽毛じゃないわよね?」

「どれどれ」

ラインハルトも布団を触ってみて、

「うん、なんだろう? 細い糸が絡み合った感じだ。フェルトにもちょっと似ているが、柔らかさと弾力が全然違う」

最後にエルザが布団を触り、

「ふかふか。寝てみたい」

と言ったので、仁は敷布団を出し、床に敷いて見せ、

「どうぞ」

で、真っ先に寝転んだのはエルザ。

「すごい。羽毛より気持ちいい。羽毛布団は身体が沈みすぎるけど、これは違う」

「あ、あたしも!」

ビーナも負けじと寝転がって、

「あっ、ほんと、すごい! 藁布団とは比べものにならないわ!」

そう口にした後、エルザと自分の差に気が付いて口を噤んだ。

「うーむ、いったい材質は何だろう? それにこの布団の生地。麻ではない、 羊毛(ウール) でもない。絹よりもっと肌触りもいい」

ラインハルトは、布団カバーに触り、その手触り、ツヤを見ながら首をかしげている。

「 地底芋虫(グランドキャタピラー) の吐く糸だよ」

放っておくといつまでも悩んでいそうなので正解を仁が教えた。

「何と! 地底芋虫(グランドキャタピラー) だって!? 絶滅したと言われている魔物じゃないか!」

地底蜘蛛(グランドスパイダー) もそうだが、こいつらの食料は魔力であり、肉食ではない。攻撃しない限り、人を襲うこともない。

だが、その外観故に討伐の対象となり、今では辺境の地下にほそぼそと生き残っているだけだ。

しかしその一方で蓬莱島の地下洞窟にはまだ何匹もいるし、その糸が役に立つことを知っている先代は保護していた。で、仁はそれを受け継ぎ、養殖も検討中。

鉱石を採取した後の坑道を使い、 魔素変換器(エーテルコンバーター) を使って魔力を与える事が出来ないか、トパズ主導で実験中である。

「うげ、魔物の糸なの……」

少しだけ引いたらしく、それを聞いたビーナが布団から起き上がった。エルザは平気なようでまだごろごろしている。

「ジン君がくれたズボンだって魔物の革。普通の絹だって虫の出す糸。魔物の糸を嫌がるなんておかしい」

「そ、そうよね! こんなにいい手触りなんですもの!」

エルザに言われ、ビーナは再度布団に寝転がった。

「そうすると布団の中身も?」

ラインハルトはカバーと中身が同じ材質であると言うことはわかったらしい。

「ああ。 魔綿(まわた) だ」

地底芋虫(グランドキャタピラー) の糸で作った綿だ。魔物の糸で作った綿だから 魔綿(まわた) 。

「なるほど、 魔綿(まわた) か」

そう言うとラインハルトは急に真面目な顔になり、

「ジン、友人として忠告しておく。君の技術や、ここ『コンロントー』? の素材、あまり世の中に出すのは避けた方がいい」

と言った。今のラインハルトは外交官の顔である。

「ライ兄、それどういうこと?」

それを聞いたエルザも気になったらしく、布団でごろごろするのを止めて起き上がり、仁の隣にやって来て質問する。

ラインハルトはそんなエルザにもわかるように言葉を選びながら、

「ジンの技術は異質だ。飛び抜けている。そして持っている素材はどれもこれも希少価値が高い。世に出したら流通が混乱する可能性がある」

そこで言葉を切り、エルザを見る。エルザが頷くのを見たラインハルトは先を続ける。

「どこの国もこぞってジンを囲い込もうとするだろう。そしてここの素材を奪い取ろうとするだろう」

「それ、ひどい」

憤ったようなエルザの声に頷いたラインハルトは、

「ああ、そうだ。だからジン、君は世界の標準というものを知る必要がある」

「確かになあ」

ラインハルトに言われ、仁は肯いた。

自分の感性がずれているのは知っている。

自分の技術水準が高いのも知っているつもりだ。

蓬莱島に蓄えられた資源が、この世界の流通を脅かすものだとも勘付いている。

だがラインハルトの、歯に衣着せない物言いは有り難かった。

「ありがとう、ラインハルト。素材については気をつけよう。標準についてはこれからいろいろ教えて欲しい」

仁がそう言うとラインハルトは笑っていつもの調子で、

「それはもちろんさ! そしてこっちは技術については教わりたいもんだな!」

そして再び真面目な顔になり、

「本当なら、『我が国に所属して欲しい』と言うのが外交官として本来のあり方なんだろうが、な」

そう言うとまた笑い、

「だが僕は友人としてこれからもジンと付き合っていきたい。だからこう言おう、『ショウロ皇国へ 遊び(・・) に来てくれ』、と」

「それはもう承知しているじゃないか」

と仁が言うと、

「そうか、それは良かった。実のところ、ジンがこの家に落ちついてしまって、もう旅はしない、と言うんじゃないかと心配していたのさ」

仁はそれはない、と言い、一度約束したことは破るつもりはない、と付け加えた。

それを聞いて、ラインハルトは元より、エルザもほっとした顔をした。

「そろそろお昼です、皆様、お食事の仕度が出来ていますのでどうぞお越し下さい」

ペリドがそう声を掛けてきたので一同は1階食堂へと移動するのであった。

ビーナは布団に未練があったようで、何度も振り返り振り返りしながらであったが。