軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

33-03 意見交換

「ううん、もう一度確認すると、『 魔素暴走(エーテル・スタンピード) 』以前のアルスは、明らかに 自由魔力素(エーテル) 濃度が宇宙空間の平均より高かったということだね?」

サキが少し自信なさそうに尋ねた。

「そういうことになるな」

「うーん、もしかして『魔物』というのもそのせいなのか?」

「え? どういう意味だい、グース?」

グースがふと漏らした一言に、仁をはじめとした面々は疑問を抱いた。

「つまり、 自由魔力素(エーテル) が増えたために、魔物も強くなってしまったんじゃないかということさ」

ついこの前の『暴食バッタ』がいい例だ。 自由魔力素(エーテル) を奪ってしまうことで退治できる。

それはすなわち生存に 自由魔力素(エーテル) が不可欠ということだ。

「それって、『 魔素暴走(エーテル・スタンピード) 』で魔導士の大半が死んだことに似ているじゃないか」

グースはゆっくりと己の考えを説明した。

「確かにな。つまり、アルスを『 始祖(オリジン) 』の母星……『ヘール』と同じように改造する過程で、生態系に大きな影響があったということか」

「仁の言うとおりだと思う。あくまでも仮説に過ぎないんだがね」

『グースさんの説なら、このアルスの生物相が貧弱な説明にはなりますね』

老君もグース説を後押しする、

「うーん……テラフォーミング……いや『ヘールフォーミング』を行ったため、生物の多様性がそこなわれ、生き残ったものが魔物化した?」

『 御主人様(マイロード) の仰るとおりだと思います。倍の重力、3倍の 自由魔力素(エーテル) 濃度。それに対応できる生物だけが残ったのでしょう』

これとて推測であるが、と老君は締めくくった。

「うーん……」

「なんだかみんな、唸ってばかりね」

努めて明るい声でビーナが言った。

「過去を知ることは大事だと思う。そしてそれを将来に生かす必要もあると思う。でも大事なのは今。『現在』よ。今の積み重ねで未来が出来上がるの」

起こったことは変えられない。ならばそれを受け入れて、今、そして未来に繋げていきましょう、とビーナは言った。

「ビーナの言うとおりかもな」

「我々は今のアルスに生きているんだし」

「過去は過去。何があったか、知る必要、記録する必要はある。でもそれは、よりよい未来のため」

「なら、何をすべきか?」

惑星改造、そしてそれによる生態系の変貌、という大きく重い事実に衝撃を受けていた面々の顔に明るさが戻った。

「まずは、 自由魔力素(エーテル) 分布の偏りを作り出しているものがあるのかどうか。あるなら、それはどこにあって、どんなものなのか」

仁が仕切り直す。

「そうだね。どうこうする以前に、現状を作り出している何かがあるなら知りたいものだね」

トアも賛成する。

「もし、それがあると仮定して、止まったり故障したりすることはないのか。止まったらどうなるのか。気になるねえ」

サキの言うことはもっともである。

「止まったら、アルス上の 自由魔力素(エーテル) 分布は周囲と同じになるんだろうな。つまり、カイナ村と同じくらいに」

「ふむ、だとすると、以前魔族がカイナ村に滞在していたこともあるんだよね? 世界に大きな影響はないんじゃないかな?」

サキがそう言ったがラインハルトが否定する。

「いやサキ、それは魔族を含む人類だけの話だろう? 北の地にいるという魔物がどうなるかは分からないぞ?」

「ああ、そうだねえ。生態系への影響は無視できないか……」

「下手をするとどんどん南下してきて……」

「そうなると、とりあえずは現状維持、が望ましいんだろうね」

グースが少し残念そうに言った。

「グースの言うとおりだな。今のアルス上の生物は、作られた環境に適応してしまっているからな」

仁も少し残念そうだ。

「今日明日、という問題じゃないだろうが、南極の確認は必要だと思う。そしてそれは蓬莱島の力を使わないと不可能だ」

「だがジン、南極へはそうそう簡単には辿り着けないんじゃないのかい?」

「それはそうだ。だが、北極なら?」

「えっ?」

「つまり、南極と同様、北極にも何かがある可能性は高い。だったら、まず北極を調べるという手もあると思っている。……まあ、これは今さっき思いついたんだが」

「あ、あはは」

仁の冗談口に苦笑するサキだったが、仁の言うことは理にかなっている。

「『長周期惑星』のこともあるけど、足元もきちんと固めて掛からないと、何があるかわからないからな」

仁としては、漫画やアニメで見た、油断から来る思わぬ危機、というものを恐れていた。

「この世界を何としても守らないとな」

「ジン、ちょっと考えてみたんだけどさ」

マルシアが仁に話しかけてきた。

「 自由魔力素(エーテル) ってすっごく小さいって言ったよね? どのくらい小さいんだい?」

「うーん、目に見えないくらい? ……とにかく、壁でも岩でも通り抜けるくらい小さい」

その答えにマルシアは頷いて、

「なら、アルスも通り抜けてしまうんじゃないかな?」

と言った。

「え?」

仁は、その発言を聞いて愕然とする。

「い、いや、ほら、あたしは魔法使えないし、学もないから、聞き流してくれていいんだけどさ」

慌てるマルシアだが、仁は、何か思い当たることがあったようだ。

「……もしかしてそれが『特異点』かも……」

『特異点』、という呟きを聞きつけ、エルザが仁に尋ねる。

「ジン兄、『特異点』、について何かわかった、の?」

仁は大きく頷くと、一拍置いて説明を始めた。

「マルシアの疑問を聞かなかったら危うく無駄なことをする可能性が高かった」

「え?」

「北極には何もない可能性がある。というのは、 自由魔力素(エーテル) を南極から『送り出している』だけの可能性があるからだ。そんな強力な魔物の多い土地に重要な機器を設置はしないんじゃないかと思う」

「それと『特異点』にどんな関係が?」

「 自由魔力素(エーテル) が物質を透過するとはいえ、物質によっては多少の抵抗はあるだろう。まあ、通りやすい・少し通りにくい、といった程度の差だろうけど」

「だんだん分かってきた。それで?」

エルザも、仁が言わんとするところに気が付いたようだ。

「つまり、本来なら北極で『吹き出す』はずの 自由魔力素(エーテル) が、『通りやすい』枝道を通って吹き出したのが『特異点』じゃないかと思うんだ」

「その1つが蓬莱島……」

「そういうことだな」

そして仁はグースを見て、

「この前の『暴食バッタ』。あれも、もしかしたらどこか……フソーの山奥に小さな『特異点』があって……」

「そうか! そこから出てくる濃い 自由魔力素(エーテル) の影響で暴食化するのかもな!」

ああ、とか、なるほど、という声がメンバーから聞こえた。

「不安定な『特異点』が、不定期に魔物を生み出すのかもしれないな」

グースが更なる推論を口にした。

『先日、グースさんと『暴食バッタ』の発生を検討した結果、そうした結論に達しました。ですが、その『特異点』は発見できなかったのですが』

老君が補足する。

「だから、その『特異点』が魔物を作っている、とまでは断言できないんだがな」

少なくとも『暴食バッタ』はその可能性が高い、とグースは結んだ。

「皆様、休憩なさったらいかがでしょう」

礼子から声が掛かる。気が付けば午後3時だ。

「お茶にするか」

仁が一言言うと、ゴーレムメイドたちが手早く仕度を進めていく。

「今日はクゥヘにしてみました」

「お、いいね」

マルシアが喜んだ。クゥヘはポトロックをはじめ、エリアス王国の特産品である。

実はヴィヴィアンも好んでいるので、誕生日であるからこれをチョイスしたのだろう。

「ふう、落ちつくね」

「ああ、こういう時にはいいよな」

少し砂糖を多めに入れて飲むことで、疲れた頭に効く……気がする仁であった。

「こういう意見交換は有意義だよね」

サキも満足そうな顔。

「『長周期惑星』問題だけでなく、こっちも優先度高そうだから大変だね」

トアも少し疲れた顔だ。

「で、でも、ジンさんなら、きっとなんとかしてくれると信じてます!」

妙に力の入ったリシアの言葉に、仁も苦笑を交えつつ返答した。

「みんなの協力があれば……やれると思うよ」