軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

32-31 染め粉

仁が『 賢者(マグス) 』の話をする、と聞いたアネットは、家族全員を呼んだ。

すなわち長老であるハザヴァンス、その孫であるアネットとその夫、ガウェル。ガウェルは婿養子だそうだ。

長老ハザヴァンスの連れ合いは 鬼籍(きせき) に入っており、その子供たちはアネットとガウェルの子供たちと共にコイヘル村で暮らしているという。

「ええと、改めて自己紹介します。自分は二堂仁。『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』です」

「『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』じゃと?『 賢者(マグス) 』ではなく?」

ハザヴァンスが疑問の声を上げた。

「ええ、それも含めてお話しします」

仁はグースに目配せする。

「それでは俺から話しましょう」

やはりこういった語りは、グースの方が慣れている。

ナデの町長ファドンのところでしたように、説明していく。

「ほほう……」

「なるほど」

「そんなことがあったのですか……」

などと、それぞれ相槌を打ちながら、グースの話は進んでいった。

グースの話が終わると、2、3の質問を聞き、『 賢者(マグス) 』の物語は終了した。

「ううむ、『 賢者(マグス) 』様にはそういう過去が……」

「ためになりました!」

「その『 賢者(マグス) 』様のお弟子が『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』なのですね!」

三人三様に理解してくれたようだった。

「その何代目か、がジン殿ということですな。よくわかりましたぞ」

長老ハザヴァンスが何度も頷きながら言った。

気が付けばもう昼時である。

「我が家では、昼食は簡単に済ますので、それでもよろしいでしょうか?」

「ええ、構いませんよ」

昼間忙しく働いていると、どうしても昼をゆっくり、という気にはならないものである。

仁も現代日本でブラック企業に勤めていた時は、パンで済ませたり立ち食いそばにしたりと、時間が掛からないものばかりであった。

「さあ、どうぞ」

出されたのは『そうめん』もしくは『冷や麦』にそっくりだった。

但しつゆは醤油系ではなく、塩と肉系の出汁。とんこつ塩に近いかもしれない。

「うん、いける」

仁も、とんこつラーメンは食べたことがあったが、冷や麦は初めてだ。

が、意外といける。

「あ、美味しい」

「うん、美味しいね」

「これは俺も初めてだったが美味い」

エルザ、サキ、グースもその味を気に入ったようだった。

礼子も、お相伴しつつつゆを分析し、老君へとデータを送っていた。

「ごちそうさまでした」

「美味しかったです」

仁たちは満足して箸を置いた。

「では、『浄水石』の効果を確認して下さい」

「律儀な人じゃね」

あくまでも仁は、納得してもらってから取引したいと考えていた。

「それじゃあ、この水桶の水で試してもらうとしようかのう」

ハザヴァンスは、家の前に置かれていた水桶を運んでくると仁の前に置く。

雨水を溜めている桶のようで、少し緑色を帯びており、澱んでいた。

「わかりました」

仁は親指の先程の『浄水石』を取り出し、そっと水桶の中に投げ入れる。

「お、おお?」

すると、見ている間にも緑色の水がきれいになっていくので、ハザヴァンスやアネットは目を見張った。

10秒もかからないうちに、すっかりきれいな水となる。桶に付いていたコケも分解され、綺麗になくなっていた。

「素晴らしい!」

手を叩いて喜ぶハザヴァンス。

「1個で20回くらいは使えます。綺麗にならなくなったら、新しい物を使って下さい」

仁は10個の『浄水石』を手渡す。

「これで『 虹色芋虫(ラヨチワーム) 』の染め粉500グラムは安い!」

その価値をはっきりと認識したハザヴァンスは、すまなそうな顔をした。

「この他に『らいたー』とかいう魔導具もあるのじゃな? それではこちらに利がありすぎる。何かできることがあればいいのじゃが」

「……それでは、『 虹色芋虫(ラヨチワーム) 』のサナギがあったら何匹分かいただきたいですね」

「ほうほう、なるほど。『 虹色蝶(ラウンク) 』はきれいじゃからな。よかろう、これから森へ行って採集してこよう」

ハザヴァンスはガウェルを呼ぶと、その旨を言いつけた。

「わかりました。では行ってきます」

「さて、それでは『 虹色芋虫(ラヨチワーム) 』の染め粉500グラムをお渡ししよう」

ガウェルがサナギを探しに行っている間に、まずは手持ちの染め粉を、ということだ。

「これです」

小さな瓶が仁たちの前に置かれた。

「試してみてください」

耳かき一杯くらいのほんの少量を皿に取り、水を垂らして溶かす。

「ここに魔力を加えると色が変わります」

「わかりました」

仁が手をかざす。

魔法でなく魔力。

実は、これが意外と難しいのだ。

が、仁はいろいろな場面でやっているので慣れている。

「……」

「おっ?」

透明だった水が薄い赤から黄色、青となり、色も濃くなった。

「なるほど、強さで色、というのがわかりました」

かざした手をのけて仁が言えば、

「お見事じゃ」

ハザヴァンスは感服した、というように軽く頭を下げた。

「さすが『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』ということですな……」

魔導具の確認と、仁の実力も確認でき、長老ハザヴァンスは心底感服したようだ。

「その染め液に布を浸し、乾かせば、もう色落ちはしませんし、後から魔力を加えても色は変わりませぬ」

説明をしてくれるハザヴァンス。

「注意して欲しいのは、手に付いた場合で、特に魔導士の場合、肌が染まってしまうので要注意です」

「なるほど」

取り扱い時にはゴム手袋を必ず嵌めるようにしよう、と仁は思った。

「誤って飲み込むと下痢や嘔吐をしますのでそれも要注意ですな。逆に、これで染めた布は防虫・防腐効果があります」

有益な情報を教えてもらえ、サキはほくほく顔だ。

そうこうするうちにガウェルが帰ってきた。

「ただいま戻りました。思ったより沢山捕れましたぞ。ついでにこいつらが食べる木の枝も持ってきました」

「……?」

ガウェルが差し出した木の枝から、覚えのある匂いを感じた仁。

「ええと、この匂いは……何だっけな?」

その枝は小さな葉が並んで付く、いわゆる『複葉』というものであった。

「シトランの仲間……つまり柑橘……ミカン科……そうだ、山椒?」

試しにその葉を摘んで揉んでみると、さらによい香りが立ち上る。

「間違いない、山椒だ。きっと実もあるはず」

また一つ、香辛料が見つかって喜ぶ仁であった。