作品タイトル不明
32-29 フソーの拠点
「へえ、ここがグースの実家かい」
仁から借りた『魔導ランプ』で照らされた室内は、割合片付いていた。
「金目の物なんてないけど、親父が遺してくれた家だし、やっぱり懐かしいものだな」
そう呟いたグースの顔は、いつになく寂しそうだった。
「明日、明るくなったら見せてもらってもいいかい?」
「ああ、構わないが、見て面白いものなんかないと思うがな」
「それはボク次第だからね」
「まあ、違いないか」
グースは魔導ランプで照らしながら階段を登る。
「ここが一応客間だ。少々埃っぽいかもしれないが、寝具も残っているから何とかなるだろう」
「お世話になるよ」
「まったく、サキは物好きだな」
そしてグースは自分の部屋へと向かったのである。
* * *
翌19日、サキは珍しく早起きし、借りた部屋を掃除していた。
ホウキは部屋を出た廊下に立てかけてあった。
「くふ、こんなことをするなんて何年ぶりだろう」
そんな独り言を言いながら部屋の埃を一箇所に集めていく。
部屋の隅にはまだ埃が残っているのはご愛敬である。
「おーい、サキ、起きてるか……って、何やってるんだ?」
そんな時、グースがやってきた。ノックもせずにドアを開けたが、サキはもう起きていたから何の問題もなかった。
「お早う、グース。ちょっと部屋の掃除を、ね」
「そんなことしてくれなくていいのに」
「くふ、そうもいかないよ」
が、そんなサキの手から、グースはホウキを取り上げた。
「いいから。朝食はファドンさんの家で食べさせてくれると言ってるんだから行くぞ」
「ああ、待たせたら悪いしねえ」
というわけで、2人は連れだって町長ファドン宅へと向かったのである。
2人が道を行くと、
「おやグース、久しぶりだねえ。いつ帰ってきたんだい?」
「グース、またどっかへ行っていたのかい?」
「隣の人は嫁さんかい?」
などと声が掛けられる。
それにグースは、
「久しぶり、おばさん。いや、まだ嫁さんじゃないよ」
などと軽く答えて先を急ぐ。
「ま、『まだ』って……」
サキは1人あわあわしていた。
「お早う、サキ、グース」
ファドンの家に着くと、仁が2人を出迎えた。
「お早う、仁」
「ジン、お早う」
「グースの家はどうだった?」
「うーん、夜だったからよく見ていないんだ。泊まったのは客間だったし」
「なんだ、グースの部屋に泊まったんじゃないのか」
「まままさか、そんなことボクがするわけないだろう!」
仁がちょっと冗談を言っただけでサキは真っ赤になって否定した。
「エ、エルザは?」
誤魔化すように、その場にいないエルザのことを尋ねるサキ。
「エルザは台所でフレーデさんを手伝っている。礼子も一緒だ」
「そ、そうだジン、朝食後、ちょっとでいいからグースの家に寄りたいんだけど」
「ん? いいけど、どうしたんだ?」
「昨夜はグースの家に泊めてもらったけど、暗かったからよく見てないし、少し掃除もしてあげたいなあ……なんてさ」
「へえ、サキが掃除ねえ」
珍しいことを聞いた、と言わんばかりのジンの表情に、
「なんだいなんだい! ボクが掃除をしちゃいけないのかい?」
と、少し膨れっ面をしたサキであった。
そんな一幕もあったが、仁たちは町外れにあるグース宅に到着した。
「ああ、これは……」
フソーによくある建築ではあるものの、どこかショウロ皇国の様式を感じさせる建物であった。
仁は建物を見て少し考えていたが、
「グース、建物ごと蓬莱島へ持っていこうか?」
と尋ねる。
「仁、魅力的な提案だが、いきなり家が消えたら町が大騒ぎになるからやめてくれ」
グースにしては常識的な答えが返ってきた。
「うーん……ああ、それなら、グースの家に 転移門(ワープゲート) を設置させてもらえないかな?」
「ああ、それならいいかも」
「で、日替わりで5色ゴーレムメイドに家をメンテさせようかと」
「日替わりでなく1週間に1度でもいいかな」
その辺りは後日詰めるとして、仁たちはグースの家に招き入れられた。
「もし 転移門(ワープゲート) を設置するなら地下がいいかもな」
地下には食糧庫として使われている倉庫があるという。
「ああ、それならよさそうだ」
地下への階段を下り、倉庫を眺めた仁は、 転移門(ワープゲート) の設置場所をそこに決める。
「礼子、老君に連絡して、標準型の 転移門(ワープゲート) の部品をこちらへ送らせてくれ」
「はい、お父さま」
そして、その会話から15秒後、仁たちの目の前に 転移門(ワープゲート) の部品が送られてきた。
「よし、組み立ててしまおう」
仁と礼子、そしてエルザが行えば、2分で作業は終了する。
「は、早いね」
眺めていたサキも少し驚く。
「慣れてるからな」
「……これで、グースさんも里帰りが簡単にできる」
「とはいえ、そうそう帰ってばかりいても怪しまれるだろうけどな」
どうして帰って来られるのか疑われてしまう、とグース。
「くふ、辛いところだね」
転移門(ワープゲート) が一般的になればまた違うのだろうが、まだ時期は熟していない。
「でも、いざという時はいつでも帰れると思えば、正直有り難いよ」
「あと、時々は5色ゴーレムメイドに家の保守をさせておくから、弄っちゃまずいものとか部屋とかあったら教えておいてくれ」
「うーん、そうだなあ……両親の部屋は埃を払うだけにしておいてほしいかな。2階の南側の部屋だ」
「それはそうだろうな。基本的に、物を捨てるのは厳禁にしておくよ。それなら安心だろう?」
「そうしてもらえると助かるかな」
こうして、フソーにも 転移門(ワープゲート) を設置することができ、グースも実家の心配がなくなったのである。
ここはフソーにおける重要拠点の一つになるであろう。