作品タイトル不明
32-16 9月14日旅行六日目 スイカ割り
このアルスでは、『シイカ』という名称でスイカが流通している。
中は赤く、種がある。仁が知るスイカより甘さは劣るが、十分に食べられる。
「シイカ割り? シイカを割ってどうするんだい?」
サキが疑問を口にした。
「ああ、ただ割るんじゃないんだ。……俺のいた世界では夏の遊びの1つでさ、目隠しをして、周りからの声で誘導してもらってシイカを叩き割るんだよ」
「ふうん?」
サキは今一つ要領を得ないようだが、
「なんだか面白そうだね!」
ハンナは乗り気だ。
「よし、それじゃあ準備して上陸だ」
準備といっても、水着、スイカ(シイカ)、シート、目隠し、それに棒があればいい。
シートは砂浜に敷いてスイカを置き、割れたスイカが砂まみれになるのを防ぐためのものだ。
「そうそう、そのまま10回回って……」
まずは、どうやるのか理解していなかったサキに、身を以て体験させることに。
「うう……目が回ってるんだけど」
「それでいいんだ。……そのまま真っ直ぐ歩け。……もう少し右に。……右に行きすぎた、もうちょっと左。……よし、あと2歩。……そこでストップ。振り下ろせ!」
仁が指示するままに歩いたサキは、思い切り棒を振り下ろした。
「えいっ!」
だが、棒はシイカの横10センチの場所に振り下ろされたのである。
「残念でした」
「あー、こういうことか」
目隠しを外したサキは、ようやく合点がいったという顔になった。
「次は……」
「はーい、あたし!」
元気に手を挙げるハンナ。
「よし、やり方はわかったな?」
「うん!」
ハンナに目隠しをし、適当に離れた場所で10回回らせた。
「さあ、行け!」
「ハンナちゃん、もう少し左だよ!」
「もうちょっと左! ……そのまま、そのまま!」
「よし、そこだ!」
「えーいっ!」
ハンナが振り下ろした棒は見事シイカを叩き割った。
「やったー!」
ぴょんぴょんと飛び跳ねて喜ぶハンナ。
礼子がシイカを交換する。
割れたシイカは一旦クーラーボックスに収納。あとから皆で食べるのだ。
「エルザ、もう少し右! ……行きすぎ行きすぎ、左、左! ……ああ、また行きすぎだ!」
エルザは10回転で目が回ったらしく、ふらふらしながらシイカを目指して……。
「えい」
シイカの横50センチくらいを叩いていた。
ステアリーナとヴィヴィアンは辞退したので、マルシアが目隠しをする。
10回回ったが、船で三半規管を鍛えているからか、少しもふらつかない。
「そのままあと2歩……1歩……ああ、半歩戻れ! ……よし、真っ直ぐ振り下ろせ!」
「やあ!」
「お見事!」
マルシアもまた、見事にシイカを叩き割ったのである。
そしてなんだかんだ言って、最後は仁である。
規定通り目隠しをして10回回って……。
「ジン兄、右」
「おにーちゃん、右に曲がってる」
「あー、今度は左に行きすぎた」
「あと4歩……3歩……2歩……」
「半歩足りない。ちょっと進んで」
「よし、そこでいいよ!」
「どりゃっ」
「ああ……惜しい!!」
仁が振り下ろした棒は惜しくもシイカをかすめたのみであった。
* * *
「なかなか楽しかったね!」
「『シイカ割り』か、こういう遊びも面白いね」
「割ったシイカを食べるというのがいいよねえ」
木陰でシイカを食べながらお喋りする一同。
因みに『 冷却(クーリング) 』で食べ頃に冷やしている。
「冷やしたシイカって美味しいものだね。ポトロックでもやってみよう」
冷蔵庫が普及してきているので、食品を冷やすことは行われ始めているのだが、まだまだ、何を冷やせばいいか、ということについては試行錯誤しているようだ。
なんでもかんでも、というわけには行かないのだから。
食べた種はそこら辺に撒き散らすことなく、ビニールシート上に捨てて、回収することにした。
こうした種は放っておくと結構な高確率で芽を出すのだ。
そのせいで、仁のいた施設の庭が、一時スイカのつるで覆われたことがある。
しかし、品種改良されたスイカだからなのか、それとも肥料不足、あるいは日照不足なのか、満足な実を付けたものは一つとしてなかったが。
* * *
「ああ、随分と楽しんだな……」
「ん、同感」
新婚旅行も6日を過ぎた。仁とエルザは、心ゆくまでこのバカンスを楽しんだ、と感じていた。
「一応7日間を目安にしていたんだが、どう思う?」
「ん、満足」
目を細めながらエルザが答える、その表情には、本当に満足した、という様子が見えていた。
「そうか。それじゃあ、明日を最終日にしていいかい?」
「ん、もちろん」
「そうか」
仁は、エルザの華奢な身体をそっと抱きしめながら、耳元で囁く。
「この1週間、楽しかったよ」
エルザも仁に身を任せながら、静かな声で答える。
「私も。とっても、幸せ」
寄り添う2人。
夜は穏やかに更けていった。
その陰で、『プレアデス諸島』を調査していたランド隊は、気になる物を見つけていたのである。