軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

32-15 9月14日旅行六日目 トローリング

「ごちそうさま」

『江戸』の食堂で朝食を食べ終えた仁は、今集まっている顔ぶれを見回す。

仁、エルザ、ミーネ、ハンナ、マーサ、マルシア、グース、サキ、トア、ステアリーナ、ヴィヴィアン。

ラインハルト夫妻やクズマ伯爵夫妻、リシア、それにロドリゴは帰ってしまっていた。

「今日はトローリングでもやってみようか」

仁が突然言い出した。

「とろーりんぐ?」

「ああ。釣りの一種……かな? 釣り糸を垂らして船を走らせ、魚を釣るんだ。生き餌を食べる魚が釣れる……のかな?」

仁としても知識だけなので判然とはしないが、おおよそはそれでいいと思っていた。

「ふんふん、『トローリング』か! 船を走らせ、っていうのが面白そうだね。もしかしたら新しい漁法になるかも」

マルシアは乗り気だ。船を使っての漁法、ということで興味を引かれたらしい。

「どんな魚が釣れるかな?」

乗り気のマルシアを見た仁が尋ねた。

「そうだね、ちょっと沖にいる魚だろうね。とすると、『ギレーラ』(メジナに似た魚)あたりかな?」

マルシアはギレーラについて説明する。

体長50センチから70センチくらい。やや沖に棲息する。海草類や小型の蟹を食べている。

「なるほど。他にはどんな魚が掛かりそうかな?」

「そうだね。『フコ』なんかもいるかもね」

フコはスズキに似た魚で、体長1メートルくらいになる。小型のアミ(海老に似た甲殻類)や砂虫(イソメ類)などを食べる。

「す、砂虫」

エサを聞いてエルザが顔色を変えた。だが、

「エサは俺が付けてやるよ」

と仁が言うと、少し落ちついたようだ。

「はいはい、仲がいいのは結構だけどね、あと考えられるのは『バラム』だけど、これは美味しくないんだ。それどころか、網を破ったりするから厄介者なのさ」

バラムというのは沿岸性の大型肉食魚で、現代地球ではバラマンディが『外見だけ』は似ている。

「そいつは釣ったらリリースかな」

ちょっとだけ聞き齧った釣り用語を口にする仁であった。

* * *

「ご主人様、このくらいでよろしいでしょうか?」

『ストリーム43』を操縦するマリン543が仁に尋ねる。

だが、仁にもトローリングの最適速度などわからない。

「そうだな。初めはゆっくり、少しずつ速くしていこう。そのうちちょうどいい速度がわかるだろう」

「わかりました」

「おーいジン、こっちは準備いいよ!」

「よし、投げ込もう」

トローリングに使うのは2隻。三胴船タイプの駆逐艇、『ストリーム43』と『ストリーム45』だ。

仁、エルザ、ハンナ、礼子が『ストリーム43』に、グース、サキ、マルシアが『ストリーム45』に乗っている。

他のメンバーは今回はパスし、『江戸』に残っていた。

そして、歩くほどの速度から、走る速度へと増速した2隻。

「お、来た来た!」

マルシアが竿を引き絞った。

「こっちもだ!」

仁もほぼ同時に竿を立てる。

「これは凄い引きだ!」

が、仁によって『 強靱化(タフン) 』を施された釣り竿は満月のようにしなるが、折れることはない。

釣り糸は元々地底蜘蛛の糸、1本でも1トンくらいの重さを持ち上げてしまう強度がある。

リールも仁特製、電動ではないが、巻き上げるのはゴーレムアームだ。

「網を頼む」

「はい、お父さま」

釣れたのは1メートル近くあるフコだった。

それを巨大な玉網で軽々とすくい上げる礼子。

ほぼ同時に、マルシアも70センチ級のギレーラを釣り上げていた。

「おーいジン、どんどんいこう!」

並走する『ストリーム45』からマルシアが大声で怒鳴る。

フコとギレーラは数十から数百匹の群れで回遊するらしく、釣れるときにどんどん釣るのがいいらしい。

「お、こっちもきたよ」

サキの竿にもアタリがきたようだ。

「おにーちゃん、釣れたみたい!」

ハンナにも。

「礼子、ハンナをサポートしてやってくれ」

「はい、お父さま」

竿は船にチェーンで繋いであるし、救命具も着ており、命綱も付けてあるので万が一にも海中に引きずり込まれることはないと思うが、それでも仁は慎重を期した。

「あ、ジン兄、こっちも」

「何だって!?」

1隻の船で2人が同時にヒットしてしまうと、魚の暴れ方によっては、釣り糸がお祭り(絡んでしまうこと)する場合があるのだ。

「ジン! 大急ぎで巻き上げるんだ!」

それを見たマルシアからのアドバイスが飛ぶ。

「わかった。……エルザ、ハンナ、一気に巻き上げろ」

「ん」

「うん!」

かなりの無茶をしても、釣り竿、釣り糸、リールはびくともしなかった。

そして数十秒で、エルザは90センチ級、ハンナは70センチ級のフコを釣り上げたのである。

『ストリーム45』でもサキが50センチ級のギレーラを釣り上げた。

10メートルちょっとしか離れていないが、それぞれ別の魚の群れに当たったらしい。

「魚影が濃いね! どんどんいこう!」

* * *

午前中一杯掛けて、『ストリーム43』では仁がフコを3尾、エルザがフコを2尾、ギレーラを1尾。そしてハンナがフコを4尾。

『ストリーム45』ではサキがギレーラを4尾、グースがギレーラを5尾、マルシアがギレーラを4尾、フコを1尾という結果になった。

「ああ、楽しかった!」

ハンナはご満悦だ。

「フコはまず今夜、刺身にしよう。残りは冷凍しておいた方がいいかな?」

ところでこの後、フコの刺身を仁が気に入ったので、蓬莱島にはフコとギレーラの生け簀が増えることになる。

ギレーラは刺身にもしたが、マルシアお勧めの焼き魚としてみたところ、バター醤油での味付けがことのほかマッチしていたのである。

* * *

「午後は『マイア島』で遊ぶことにしよう」

夜だけでなく、午前中も使って調査したが、マイア島には危険はないという報告だったのだ。

マイア島の南側は『アルキオネ島』に波が遮られることもあって、海面は穏やかで、きれいな砂浜が広がっている。

「よし、スイカ割り……いや、『シイカ割り』をしよう」

仁はそんな提案をするのであった。