作品タイトル不明
32-14 9月13日旅行五日目 釣り
次に訪れたのは『メローペ島』である。
これはあくまでも仁とエルザの『新婚旅行』であって、調査行・探検行ではないので、1つの島に時間は掛けられない。
そのことは、同行しているメンバー全員が承知していた。
「くふ、今度の島はどんなところかな」
「割愛した『タイゲタ島』より少し大きい島だそうだ」
サキの呟きに律儀に答えたのはグース。
「楽しみだね!」
無邪気な笑顔を湛えてハンナも声を上げる。
「ええと、それじゃあ、事前情報として、簡単な説明をしたいと思う」
仁が口を開いた。
夜のうちのマリン隊、ランド隊らの調査により、おおよそのことは判明しているのだ。
「『メローペ島』にも危険な動物はいないようだ。だから装備などはこれまでと同じ。そして……」
そこで一旦言葉を途切らせた仁は、老君に説明をするよう指示を出した。
『承りました、 御主人様(マイロード) 。……では僭越ながらご説明致します』
老君は語り出した。
『理由は不明ですが、南西にある『アルキオネ島』周辺に限って、『 自由魔力素(エーテル) 』濃度が極端に低いことがわかったのです。とはいっても、 御主人様(マイロード) がお作りになったゴーレムや魔導具が使えなくなるほどではありません。ポトロックに置ける濃度の3分の2といったところです』
それを聞いたメンバーの顔に安堵が浮かぶ。
『しかしながら、これまでなだらかに変化していた濃度が、『アルキオネ島』付近でがくんと変化しているという理由が不明です。ですので皆さん、これまでよりも注意してください。護衛はお一方に付き2体のランドをお付けします』
老君の説明は終わった。
「聞いてのとおりだ。俺の考えでは、おそらく『アルキオネ島』に『何か』がある。その『何か』がわからないというのは寝覚めが悪いので、ランドたちに探させるつもりだ」
「ん、それでいいと思う」
エルザも賛成したので、注意事項はこれまでとし、一行はこれまでと同じくストリームを使って上陸。
その日は上陸場所からあまり遠くへ行かないようにということになった。
ところで、この日戻る予定だったロドリゴは、店が忙しいため、戻れなくなったそうである。
それでも愛娘マルシアには『最後まで旅行を楽しんでおいで』と伝言したあたりは父親の面目躍如といえよう。
* * *
「釣りでもするか」
ここらで今までしていない楽しみ方をしようと、仁が提案した。
「ああ、いいね、ジン」
マーサが真っ先に賛成した。やはり少し退屈していたようだ。
「そうだね。ここでは何が釣れるのかな」
マルシアも賛成した。
「よし、釣り竿を送らせよう」
仁自身は川釣りばかりで海釣りをしたことがなかったが、ポトロックの釣り道具を見ているので、蓬莱島でも釣りをしたらどうかと、試作してはいたのだ。
それがここで日の目を見ることになった。
送られてきた釣り道具を見たマルシアは、
「ジン、これって、ポトロックのものを参考にしているのかい?」
と聞いてきた。
「ああ、そうさ。マルシアは詳しいよな?」
「もちろん。……あまり自慢できることじゃないけど、ジンたちと出会って優勝するまでは食べるために漁もやったからね」
マルシアはちょっと考えてから、再び口を開く。
「多分だけど、このあたりにいる魚はポトロックとそう違わないんじゃないかな?」
とはいえ、マルシアは主に仕掛け網で漁をしていたのだが。
「釣りもできる魚なら、ハリブーだね」
カレイもしくはヒラメに似た魚で、海底にいる。
「エサは砂虫だな」
そう言いながら、マルシアは落ちていた木の枝で周囲の砂を掘ってみる。
「ああ、いたいた」
砂虫といっても『 砂虫(サンドワーム) 』ではない。
現代日本でいう『ゴカイ』や『イソメ』などを総称してポトロックではそう呼ぶのだ。
「……!」
それを見たエルザが震え上がった。
『 多毛類(たもうるい) 』と呼ばれるこの種は、やはり女性受けしないようだ。
「こ、これをエサにするんですか……?」
リシアも顔色を変えている。
だが。
「こんなの平気だよ? ほら」
ハンナは平気でそれを摘み上げて見せた。
「別に刺したり噛み付いたりしなければ……ねえ?」
サキも平気で手の平に載せている。
「……うー……あんまり触りたくないわ」
「同感」
でもステアリーナとヴィヴィアンは後ずさりしていた。
「じゃあ、針に餌を付けるのはマリンにやってもらおう」
女性陣の反応を見た仁は妥協案を出す。
「そ、それなら……」
ついでに魚を針から外すのもやってもらうことになった。
『ストリーム』を2隻呼び寄せて、岸辺近くで釣り糸を垂らす。
「引いた!」
「釣れた!」
魚が擦れていないことと、魚影が濃い場所を選んで釣り糸を垂れていることで、ほとんど入れ食いである。
「よーし、競争だ」
釣り大会の様相も呈してきた。
「今夜はハリブーのムニエルだね」
「刺身もいいぞ」
「お寿司も楽しみ」
醤油とワサビがあるので、そうした食べ方もある。
結局、マルシアが12尾を釣り上げて1位。最下位となったエルザでさえ6尾を釣り上げ、大漁に終わった釣り大会であった。
* * *
「うん、やっぱり新鮮ね」
「うう、ワサビが利きすぎた……」
夕食は皆のリクエストに応え、刺身、寿司、ムニエル、塩焼き。
仁は刺身と寿司を主に楽しみ、エルザは塩焼きとムニエル。
サキは寿司と塩焼き、ハンナは全部……というように、皆、自分で釣ったハリブー料理を心ゆくまで楽しんだのであった。
「ああ、お腹いっぱいです」
リシアは満足げに呟いてほうじ茶をすする。
「明日はもう帰らないといけないなんて……」
彼女もトカ村領主としての仕事があるので、そうそう長い期間留守にはできないのである。
「そういえば、『 分身人形(ドッペル) 』っていうものがあるって、ジンさん言ってたっけ……」
『 分身人形(ドッペル) 』は、対象となる人物の忠実な模倣である。
外見の模倣は比較的簡単であるが、行動・思考に関しては、それなりのデータを蓄積する必要があった。
リシアの場合は、そのデータがまだ不十分なのである。
また、十分であっても、自領をそうした存在に任せるのを良しとしないクズマ伯爵のような者もいる。
そうした入れ替わりに慣れてしまうことを恐れているのかもしれない。
「こうして、時々遊びに来られるだけでも十分楽しいわよね」
リシアも、そうした入れ替わりには 躊躇(ちゅうちょ) してしまう方であった。