作品タイトル不明
32-02 9月7日 魔族領への挨拶行
「じゃあ、行くとするか」
「ん」
エドガーが操縦士となり、仁とエルザは『コンロン3』で魔族領へ挨拶に行くことにした。
お伴はもちろん礼子。引き出物としての記念小判も沢山積み、その他にも交易用の荷を幾つか積んだ。
『 御主人様(マイロード) 、行ってらっしゃいませ』
老君の見送りを受け、仁たちは北を目指した。
時速500キロほどで飛べば、1時間で着ける。
時差が3時間ほどあるので、午前10時に出たのに、現地時間は午前8時に到着ということになる。
まずは『森羅』氏族の所へだ。
「ジン!」
着陸した『コンロン3』に真っ先に駆け寄って来たのはシオンだった。
「やあ、シオン、久しぶり」
「ええ、ほんとに。ところで……」
「ジ、ジン殿! これが『飛行船』ですか!」
「そ、空を飛べるんですな!!」
シオンの後から息せき切って走ってきたバルディウスとラデオゥスらは初めて見る『コンロン3』に目を丸くしていた。
魔族領には『カプリコーン1』で来てばかりいたから無理もない。
『コンロン3』を見て次々に集まってくる『森羅』氏族の面々。
ほとんどの者たちが集まってしまった。
仁は、逆にこれをいい機会と捉え、
「皆さん、ご無沙汰しております」
と、挨拶の場にしてしまうことにした。
「ええと、このたび……自分と、エルザは結婚いたしましたので、報告に上がりました」
おお、というどよめきが上がる。
「ジン、エルザ、おめでとう!」
真っ先に声を上げたのはシオンだった。
「おめでとうございます!」
続いてイスタリスが。
「おめでとうございます。お祝い申し上げます」
バルディウスが。ラデオゥスが。
「お、おめでとうございましゅ! ……あぅ」
マリッカが。
「おめでとうございます」
『森羅』の氏族の面々が、仁とエルザにお祝いの言葉を述べたのである。
* * *
「改めまして、ご結婚おめでとうございます」
場所を『森羅』氏族の集落へと移し、氏族長の家で仁とエルザは改めてお祝いされていた。
これから他の氏族にも挨拶にいくつもりなのだが、と言うと、
「既に他の氏族にも連絡しましたので、おっつけ代表者がやって来ると思いますぞ」
とバルディウスが答えたではないか。
「先日、『 魔素通話器(マナフォン) 』をいただきましてな。全部の氏族と相互に通話ができるようになりました」
『福音』の氏族から全氏族へ配られたと、ラデオゥスが説明してくれた。
「それは便利になりましたね」
各氏族の規模は小さいから、『 魔素通話器(マナフォン) 』が各氏族毎にあれば情報伝達は十分に行われる。
「今夕にはほとんどの氏族が揃うことでしょう」
「そう、ですか」
挨拶だけして今日中には帰るつもりだったが、1泊せざるを得なくなりそうだ、と仁は長引くのを覚悟した。
「ジン様、お時間があるようでしたら、農場をご覧になって下さいませんか?」
農業管理担当のロロナから提案がなされる。
仁は一も二もなく賛成した。
「ああ、それはいいな。見せてもらうよ」
さっそく、エルザ、礼子、そしてエドガーも連れて外へと出る。
「今年の冬は『霜よけの結界』と温室のおかげで、作物も十分採れましたのよ」
「それはよかった」
「で、今年からは豆類を増やしました」
豆類の多くは根に根粒菌を共生させていて、窒素肥料を自前で賄っている。
ゆえにうまく使うと地味が肥えるのである。
「根を残して刈り取り、葉野菜を植える予定です」
窒素肥料は葉を成長させる働きがあるから、これは有効である。ロロナは農業知識をフル活用していた。
「もうじき温室の出番になりますね」
『キュービックジルコニア』張りの温室は、今のところは屋根以外の壁が開放されて、雨を嫌う『トメトゥル』などの果実系の野菜を作っていた。
寒くなれば壁を閉じ、本来の温室として使われることになる。
「食糧事情は改善しました。十分に自給自足できます」
「なら、次は質の改善ですね」
「そうなりますね」
今のところ、キュービックジルコニアを仁が購入しているので、その代金で小群国などからいろいろな物品を購入できる。
その中には食糧や、作物の種・苗も含まれており、あと数年で完全に食糧問題は解決するだろうと思われた。
「あとは正式な国交かな……」
そちらはどうすればいいのか、仁には今のところ見当が付かない。
「焦る必要もないのかな」
魔族たちは穏やかに暮らせれば、今の生活で大きな不満はなさそうである。
「 自由魔力素(エーテル) 分布の謎を解くことから、かな」
北半球に 自由魔力素(エーテル) が多く、南半球に少ないという理由がわかれば、対策もできるかもしれない。
そうすれば、魔族はもっと南に住むこともできるようになるだろう。
(南の大陸には人間は住んでいないという話だし)
いずれにしてもこれから、である。
新婚旅行で 自由魔力素(エーテル) 分布の謎を解く手掛かりが見つかったらいいな、と思う仁であった。
* * *
さすが魔族、その夜には、距離をものともせずにすべての氏族から代表が集まってきた。
転移魔法が使える者が協力したらしい。
「ジン様、おめでとうございます!」
「エルザ様、おめでとうございます」
そして仁とエルザは、集まった各氏族の代表からお祝いをもらった。
ほとんどは手作りのマスコットである。魔族の風習らしい。
仁はこういう人形も好きだから素直に嬉しい。
蓬莱島の自室に、専用の棚を作ろうかとまで考えている。
そのまま宴会へと雪崩れ込む。
「最近は食べ物に苦労しなくなりましてな」
「病気も減りましたぞ」
各氏族の近況も聞けた。皆、暮らしぶりが安定している様で、仁としても嬉しかった。
そして 宴(うたげ) は深夜にまで及び、翌日仁とエルザは寝不足気味のまま蓬莱島へ戻り、新婚旅行の最終準備をしたのであった。