軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

32-01 9月9日 旅行一日目 壱

「うわあ、これは気分がいいな!」

「うむ、まったくだな!」

マルシアとロドリゴは、特殊巡洋艦『江戸』の艦首付近で海を眺めていた。

9月9日、蓬莱島時間午前8時に、特殊巡洋艦『吾妻』と『江戸』はタツミ湾を出港したのである。

仁とエルザ以外で旅行に同行するのはサキ、グース、ミーネ、ハンナ、マーサ、ヴィヴィアン。

もちろん礼子とエドガーも一緒である。アアルは今回エッシェンバッハ邸の留守番だ。

その他の『仁ファミリー』は、随時 転移門(ワープゲート) でやって来てスポット参加することになる。

特殊巡洋艦の巡航速度は、 水魔法推進器(アクアスラスター) 使用時、時速50キロである。

因みに最高速度は『 力場発生器(フォースジェネレーター) 』を使用して時速200キロとなる。

その通常巡航速度で、『蓬莱島新婚旅行艦隊』は南下を続けていた。

今は正午、ほぼポトロックと同じ緯度まで南下してきている。

日射しは強い。なので、先日完成した日焼け止めは全員に配られている。

「父さん、海は広いね!」

「まったくだな。マルシア、我々もいつか、自分たちで作った船で、こうした大海原の旅をしてみたいものだな」

「うん」

仁の技術を見て劣等感に苛まれるなどということもなく、マルシアとロドリゴはさらにやる気を見せていた。

こうした前向きな姿勢は『仁ファミリー』に共通しているようだ。

それが偶然なのか必然なのかはわからないが、前向きなのは悪いことではない。

「……海って、広いな……」

少し疲れた声で呟いたのはハンナだ。

出港してから4時間、見渡す限り青い海をずっと見ていたので飽きてきたようだ。無理もない。

「ハンナ、お昼だよー」

「あ、はーい!」

マーサの声に振り向き、元気よく返事をしたハンナは甲板を勢いよく駆けていった。

* * *

特殊巡洋艦『江戸』の船内にある食堂には、仁とエルザも『吾妻』からやって来ていた。

大勢で食べた方がおいしい、というのが仁の主張だからだ。

「さあ、召し上がれ」

昼食は、ハム、ベーコン、トポポサラダ、卵サラダ、など色とりどりの具が挟まれたサンドイッチ。

それとパンである。

スプレッド(塗り物)として、エアベール(苺)ジャム、アプルル(リンゴ)ジャム、プルメ(梅)ジャム、ブルール(ブルーベリー)ジャム、フレープ(コケモモ)ジャムなど。

加えてオーナット(クルミ)ペーストとシトラン(ミカン)マーマレード、それにメープルシロップが用意されていた。

すべて蓬莱島から『 転移門(ワープゲート) 』で送られてきたものである。

「くふ、それにしても優雅な旅だね」

メープルシロップをパンに塗りながらサキが呟いた。

「ああ、確かにな。だが、未知の世界を目指しているのだから、期待が膨らむよ!」

サキの呟きに答えたのはグースだった。

「しかし、ジンってすごいもの作ってしまうんだねえ。さすがだよ」

「うん! おばあちゃん、おにーちゃんはすごいよね!」

マーサとハンナは2人並んでサンドイッチをぱくついている。冷えたシトランジュースが前に置かれていた。

「マーサさんはあまり驚かれないのですね」

ミーネが少し呆れたような、また尊敬したような顔をしながら言う。

「なに、これでも驚いているさね。でもジンだからと思えば、大抵のことは飲み込めてしまうねえ」

「はあ、そういうものですか」

ミーネも、仁との付き合いはそれなりに長いが、未だに慣れたとはいえない部分がある。

「私は『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』の実力を知ることができて嬉しいですね。……あ、これ美味しい」

プルメ(梅)のジャムを塗ったパンを一口食べたヴィヴィアンは目を細めた。

仁とエルザはそんな仲間たちのやり取りを聞くともなしに聞きながら、黙々とパンを口に運んでいた。

「くふ、2人ともなんか元気ないね?」

そんな様子に気付いたサキが声を掛ける。

「あまり仲がよくてお疲れかい?」

「そ、そんなんじゃない」

からかわれたエルザが顔を赤らめて否定する。

「ちょっと昨日遅かったもので」

仁が説明する。

「だから、夫婦仲がいいのは結構だけど程々にしておかないと……」

「違うよ、サキ」

「……挨拶に行って、帰って来たのが昨日の夜だった、だけ」

「挨拶って、どこへさ?」

ショウロ皇国と小群国への挨拶は済んでいるはずなので、サキの疑問ももっともである……のだが。

「魔族のところへ、さ」

「ああ、そうか。そうだね」

パズデクスト大地峡の向こう、ゴンドア大陸に住む魔族。その正体は、遙か昔に惑星ヘールから移住してきた『 始祖(オリジン) 』の血を、ローレン大陸に住む者たちよりも色濃く引く種族。

未だ正式な国交は結ばれておらず、仁との個人的な繋がりだけ。

それゆえ、仁とエルザは披露宴のあと、『コンロン3』を駆って北の地へ飛び、挨拶をしてきたのであった。

「1日で帰ってくるつもりが、引き止められて」

「まあ、そうだろうね」

サキも、『 古代(エンシェント) 竜(ドラゴン) 』の皮を探しに行った際に数日魔族領で過ごしたことがあるからわかる。

彼等は仁に多大な恩義を受けており、仁に寄せる信頼は 篤(あつ) かった。

「くふ、だったら何があったか、聞かせておくれよ」

「あ、あたしも聞きたい!」

「聞かせて欲しいわね」

耳聡くハンナとヴィヴィアンが聞きつけてやって来た。

「あたしたちも聞きたいね」

マルシアとロドリゴも。

「せっかくだから、食後のお茶でも飲みながら聞こうじゃないか」

マーサがそう言うと、皆頷き、食べかけていたパンやサンドイッチを大急ぎで嚥下する。

飲みかけていたジュースも飲み干し、『ごちそうさま』を言って昼食は終了した。

メイドゴーレムたちが後片付けをしてくれ、代わって冷たい煎茶が運ばれてきた。

赤道付近のため外気温は摂氏33度、船内は空調がなされていて摂氏27度くらいだが、やはり冷たいお茶は格別である。

「それじゃあ、何から話そうかな」

仁はお茶を一口飲むと、再び口を開いた。

「9月6日、フランツ王国での後夜祭が終わって、各国への義理は果たし終えたんだけど、まだ魔族には伝えていなかったので、エルザと相談して報告しに行くことにしたんだ」

「そう。フランツ王国での後夜祭は本当にささやかかなもので、疲れも残らなかったので翌日挨拶に行くことに、した」

仁の言葉を引き継いでエルザが説明する。

「そうしたら大歓迎されてしまってさ。日帰りのつもりが1泊になったというわけさ」

「だからそこのところを詳しく聞かせてちょうだい」

興味深そうにヴィヴィアンがせがむ。

「わかってるよ」

仁は頷いて、 徐(おもむろ) に語り出した。