作品タイトル不明
31-46 最後の国
ラインハルトへと出産祝いを届けた翌日、仁とエルザは『コンロン3』でフランツ王国へと飛んだ。
目指すは王城である。
今回は、小群国でも最も馴染みの薄い国なので、老君としても、これまで以上に警護を厳重にするよう指示していた。
さて、まずは恒例のパレードが行われている。
空には『 不可視化(インビジブル) 』で姿を消した『ラプター』が4機。
民衆に混じって、 第5列(クインタ) が10体。
『 隠密機動部隊(SP) 』も久しぶりにフル出動。
更に宇宙から『ウォッチャー』で監視。
こうした徹底ぶりに加え、礼子が付いている。
「これで最後だな」
「ん、長かった」
オープンタイプの馬車で手を振りながら、仁とエルザは小声で会話をしていた。
気が付けばもう9月になっている。
長周期惑星接近まであと1ヵ月半くらいだ。
今のところ、天体観測担当である 月(ユニー) の『ジャック』からは異常なしという報告のみであった。
「……有り難いのに疲れた。これって私たちのせい?」
「主に俺だな。もう少し目立たないように生きていくつもりだったんだが」
どうしてこうなった、というセリフを飲み込んだ仁である。
「エルザたちと一緒にショウロ皇国を目指したのが発端だったのかなあ」
「……私のせい?」
「いや、そんなことはない。選んだのは俺だし。道中、いろいろやらかしたのも俺だ。やっぱり避けられない運命だったのかなあ……あんまり『運命』って使いたくないけど」
「どうして?」
「『運命だから』って言い方が、なんだかあきらめるために使うみたいだからさ」
それは思考停止と同じだ、と仁はエルザに言った。
「でも人間って弱いから、普段そう思っていても、気が弱くなっているとあきらめたくもなるんだよな」
「なんとなく、わかる」
かつて『 統一党(ユニファイラー) 』に囚われたときの絶望感を思い出し、小さく震えたエルザ。その肩を仁はそっと抱きしめる。
「でも今は、エルザと巡り合わせてくれた『運命』に感謝だな」
パレードで手を振りながらそんなセリフを囁ける仁はなかなか器用である。
まあ、手を振る方は機械的に繰り返しているだけで、注意力の90パーセントはエルザに向いているわけであるが。
* * *
こうしたパレードも終わり、仁とエルザ、そして礼子は、国母カトリーヌ・ド・ラファイエットの歓待を受けていた。
「本当にお久しぶりね。またお会いできて嬉しいわ」
「こちらこそ」
「以前治療していただいた膝ね、あれから一度も痛くならないの」
「それはよろしゅうございました」
魔族領からシオンとルカスが出てきた時の事だ。
馬車で事故を起こした時に仁とエルザが居合わせ、彼女と知り合った。
その際、膝が痛いという彼女に、エルザは適切な治癒魔法を掛けて治療したのである。
気休めやその場限りの治療ではなかったので、今もって痛みが再発していないということなのだろう。
「ご活躍は耳にしているわ」
カトリーヌの落ちついた雰囲気は、仁にとってもエルザにとっても好ましく、寛げる。
「お2人はこうした仰々しい祭典は好きではないと思うのだけれどもね。立場上、仕方がない面もあるのよね。それはわかってちょうだい」
「はい、承知しています」
香り高いお 茶(テエエ) を口にしながらの会話。
「『世界会議』でのことも陛下から色々と聞いています。崑崙島というところは素敵な所みたいですね」
「はい。いつかお招きできればいいのですが」
「ええ、機会があったら行ってみたいわね」
こんなゆったりとした時間を過ごせるのも、カトリーヌの配慮からであった。
* * *
9月5日は披露宴であるが、王が代替わりしてまだ半年、今まで仁たちが出席したどの披露宴よりも小規模であった。
挨拶に来る貴族も両の手に少し余るくらい。
開催時間も午後3時から午後8時までと短め。
『 分身人形(ドッペル) 』と入れ替わろうと思うこともなく、仁とエルザは気楽に過ごせていた。
緊張した時間といえば、現国王ロターロ・ド・ラファイエット手ずからワインを注ぎに来てくれた時と、集まった貴族たちの前で挨拶をした時くらいである。
「『崑崙君』ジン・ニドーと妻のエルザです。このたびは我々夫妻のためにこのような 宴(うたげ) を開催していただき、感謝の念に堪えません」
パーティー形式も、立食パーティ形式ながら簡単な椅子……スツールが随所に用意されており、適当に休憩も取れた。
最後の最後で、落ちついた披露宴を経験できた仁とエルザは内心大喜びである。
知り合いもほとんどいないフランツ王国なので、気疲れするかと思いきや、適度に話しかけてくれ、また適度に休憩ができ、2人とも自然体で 宴(うたげ) を楽しむことができた。
それから何ごともなく、落ちついた雰囲気の時間が過ぎ、披露宴は終了したのである。
* * *
「ああ、思ったより楽しかった……かな」
「同感」
披露宴の後、余韻を楽しむように、仁とエルザは客室のソファで寛いでいた。
賑やかなひとときが終わった後の、なんとなく気怠いような、なんとなく寂しいような、そんな空虚さを感じ、それを味わっていたのである。
「明日、『後夜祭』という名のお茶会らしい。それで各国訪問も終わりだ」
「……ん。そう思うと、なんとなく……ちょっと、寂しい」
「ああ、そうだな」
そこへ礼子がお茶を淹れてくれた。
「もうお休み前ですので、ほうじ茶にしました」
「ああ、ありがとう、礼子」
「ありがとう、レーコちゃん」
ほうじ茶はカフェインやタンニンが少ないので、寝る前に飲んでも寝付かれなくなったりしにくいのだ。
「ああ、美味い」
「美味しい」
むしろ仁の場合はその香りが気持ちを落ちつかせてくれる。エルザも好んでいた。
「……思っていた以上に、各国で歓迎されたな……」
「ん。やっぱりジン兄は『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』」
「いや、それを言ったら、治癒師としてのエルザも、各国でいろいろと功績を上げているじゃないか」
「お2人の名声あってこそ、ということですね」
珍しく礼子が2人の会話に口を挟んだ。
「ああ、そうかも」
「そうなのかも知れないな」
それを聞いた2人は顔を見合わせて微笑みあったのである。
窓からは秋の夜風が心地よく吹いてきて、夜空には秋の星座がひっそりと輝いていた。