作品タイトル不明
31-39 誘う仁
「ジン、なんだか疲れた顔しているね。各国を回るのって大変なのかい?」
マーサ宅でお昼をご馳走になっている仁。
「ええ、まあ。なんというか、柄じゃないというか」
そう言った仁の顔を見て、マーサは苦笑した。
「わかる気がするねえ」
「おにーちゃん、お疲れ?」
ハンナも心配そうである。
「ああ、でも大丈夫だよ。それなりに慣れてきたし」
「ならいいけど……」
まだ心配そうな顔をするハンナに、仁は微笑んで見せた。
「それより、ハンナとマーサさんに、ちゃんと話をしないと」
「あたしにもかい?」
「ええ。ほら……」
仁は、披露宴が全部済んだあと、『新婚旅行』に行く話をする。
「ああ、前にそんなこと言っていたねえ」
「で、具体的に話をしたいと思いまして」
「え? ジン、本当にいいのかい? お邪魔だろう?……エルザちゃんもそれでいいのかい?」
今まで黙ったままのエルザに話を振るマーサ。
「はい。というより、是非、来て下さい」
にっこりと笑ってエルザは答えた。
「……うちの人は、ずっと孤独でした。ですから、『家族』を大事にしたい、と思っているのです。マーサさん、ハンナちゃん、一緒に行きましょう」
「お、おい」
内心を推し量られて慌てる仁。
「……違った?」
「いや、違わない……けどさ」
そんな仁に、マーサが笑いながら告げた。
「ジン、あたしたちの前で格好付けなくていいよ。……エルザちゃん、わかったよ。一緒に連れて行っておくれ」
「はい!」
「それで、具体的な話ですけど……」
大きな……巨大な船を2隻用意し、その1隻に仁の知り合いたちを乗せて行くと、具体的に話をする仁であった。
「はあ……巨大な船、ねえ。なんて言うか、やっぱりジンだねえ。ハンナは知っていたのかい?」
「ううん、知らないけど、おにーちゃんにはいろんな乗り物に乗せてもらってたから驚かない」
「ごめんなさい。実は……」
仁は、これまでもハンナをこうやってあちこちに連れて行っていた、と打ち明けた。
「ふふ、そんなことで文句は言わないさね。ハンナは賢い子だから、見聞を広めてくれるに越したことはないしねえ」
「ええ、本当に」
さらに、日程についても説明する仁。
「予定では、9月9日に出発します」
いない間のことはメイドゴーレムの『サラ』がなんとでもしてくれるだろう。
もちろん、二堂城や蓬莱島からもサポートが入るのは間違いない。
* * *
「……やっぱり、ジンだねえ」
「わあ、すごい」
ハンナとマーサは、仁の工房の地下にある 転移門(ワープゲート) を使い、蓬莱島に来ていた。
仁は、この機会に2人を正式に『仁ファミリー』の一員としたのである。
そして、数々の魔導具や設備、ゴーレムたちを見て驚いていた。
「これが仲間の証です」
マーサに黄色と白のマーブル模様の腕輪を渡す。
ハンナには黄色の腕輪を既に渡してあった。
「ありがとうよ、ジン」
マーサはそれを左の腕に着けた。
「えへへ、おにーちゃん、おねーちゃん、おばあちゃんとお揃い」
ハンナも腕輪を眺めて喜んでいる。
「乗っていく船はもうすぐ完成しますから」
「……ジンだしねえ。いちいち驚かないよ」
研究所やゴーレムたちをざっと紹介したが、マーサはさほど驚いた風ではなかった。
このあたり、肝が太いと言えばいいのか。
(旧レナード王国の血?)
などと考えている仁である。
「早く行ってみたいなあ!」
ハンナははしゃいでいる。
「……この歳になってこんな日が来るとはねえ」
マーサは嬉しいのやら驚いたほうがいいのやら、複雑な心境のようだ。
「ああそうか、ミーネくらいしか知ってる人はいないか……」
その点はちょっと心配というか、申し訳ない気がする仁である。
「サキ姉は知ってるんじゃない? それにリシアさんがいる」
エルザが言い添えてくれるが、知っているとはいえ、リシアは新貴族でトカ村の領主であるから、気易くは話せないだろう。
サキやラインハルトも、カイナ村に来たことがある、というレベルだし、と仁は少し悩む。
「……ジン、そんなに心配してくれなくても大丈夫だよ」
悩んだ顔の仁を見かねて、明るい声でマーサが言った。
「気を使われるのは逆なんですけど」
と仁が頭を掻きながら言うと、
「何言ってるんだい。あたしは仁の親代わりなんだから、いちいち細かいこと気にしなくていいんだよ」
と、笑い飛ばすマーサであった。
* * *
今日のところはあまりゆっくりもできないので、仁たちはカイナ村に戻って来た。
「今日はありがとうよ、ジン」
「いえ、どういたしまして」
「おにーちゃん、おねーちゃん、明日頑張ってね」
「ああ、うん」
ハンナにまで応援されるほど、嫌そうな顔をしていたのか、と仁は今更ながら気が付いて苦笑した。
「でもまあ、リースヒェン王女が何か気を配ってくれたらいいな、と思う」
「ああ、俺もそう思った」
そんなこんなでカイナ村の空は暮れていくのであった。