軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

31-37 気づかい

「グロリアが、今も義兄さんのこと好きなのか確認しないとなあ……」

フリッツが2人に謝して帰った後、仁とエルザは相談を続けていた。

「なんか、あきらめているような発言もしていたしさ」

「その点は、次に行く国がクライン王国だから」

「ああ、そうだったな。多分会う機会もあるだろう。その時に確認しよう」

「ん」

それよりも今日は昼食会の日である。

せっかくのんびりしていたのになぜか疲れている2人。

「迎えが来るまであと1時間くらいか」

「お茶をどうぞ」

疲れた顔の2人の前に、礼子がお茶を差し出した。

「ああ、ありがとう」

香り高いほうじ茶である。

ゆっくりと飲んでいると、気持ちが落ちつく。

「昼食会は見知った人しか参加しないと言っていたので気が楽だと思いますよ」

「だといいな」

礼子の言葉に、少し安心した仁であった。

「ところで」

フリッツの訪問で仁がふと、気になったことがある。

「前にも聞いたと思うけど、エルザは実家に顔を出さなくていいのか?」

これである。

エルザの実家はトスモ湖の対岸、『コンロン3』ならひとっ飛びだ。

「うん、いいの」

だが、エルザは今回もそれを否定した。

「今は、各国を巡っている最中。だから、 私事(わたくしごと) は、それが済んでから、と決めている」

「そうなのか?」

「ん」

仁としては、そんなにかしこまって考えなくてもいいのに、とも思うが、これはエルザなりのけじめなのだろう、とも思う。

それで、この点についてはエルザの考えを尊重することにしたのである。

* * *

さて、時は過ぎ……迎えの『自動車』が『屋敷』前にやって来た。

10名ほど随行している護衛の中にはフリッツの姿もある。

「『崑崙君』、お迎えに上がりました」

ショウロ皇国近衛女性騎士のフローラ・ヘケラート・フォン・メランテが一行のリーダーらしい。

フローラ率いる女性騎士5名、フリッツ率いる軍人5名という内訳のようだ。

「出迎えありがとう」

仁は会釈すると、エルザの手を取って自動車に乗り込んだ。礼子もそれに続き、自動車は走り出した。

道路は、パレード時とは異なり人払いがなされていて、何の支障もなく 宮城(きゅうじょう) に到着した。

そのまま自動車で内宮に。

そこからはフローラとフリッツの2人が、仁とエルザ、礼子を先導していく。

そして一行がやって来たのは、 宮城(きゅうじょう) の奥まった一室。

そこは天井が高く、窓が広く取られていて明るい広間だった。

その一方の壁にはショウロ皇国の紋章である、図案化された3本の麦を刺繍した壁掛けが掛かっており、それを背に女皇帝が座っていた。

「ようこそ」

立ち上がって仁たちを迎えた女皇帝は、

「今日は本当に内輪だけの軽いお茶会にしたいから、できるだけ普段どおりにしてちょうだい」

と言い放った。

「だから私もジン君、エルザ、と呼ばせてもらいたいの。いいかしら?」

仁もその方が肩が凝らなくていいと思い、快諾した。

「ええ、ではそのように」

仁も、『崑崙君』としてどんな態度をとればいいのか迷っていたので、この申し出は正直有り難かった。

今のところ、この部屋にいるのは女皇帝、仁、エルザ、礼子。フリッツとフローラは部屋の外だ。

「あと1人、ゲストが来るはずよ」

女皇帝がそういって数十秒後、その人物が到着した。

「元気そうね、エルザ。結婚おめでとう」

「……お母さま」

そのゲストとは、エルザの育ての母、マルレーヌ・ランドル・フォン・ネフラであった。

「エルザはきっと、各国を回り終えるまで実家に帰らないでしょうから、ということで陛下が私を呼んでくださったのよ。お父さんはまだ身体が優れないから向こうに残っているけどね」

にこやかに告げるマルレーヌ。

最初は驚いた顔をしていたエルザであるが、次第に泣き笑いの顔になっていく。

「お、母、さま……」

「エルザ」

母と娘は手を取り合った。

仁も礼子も女皇帝も、しばらく2人をそのままに、温かく見守ったのである。

* * *

昼食会は、和やかに進んでいった。

献立はお粥を中心とした、あっさりめとなっており、鰹節の出汁が使われたマルネギ(タマネギ)の味噌汁もある。

これまでの 宮城(きゅうじょう) の料理人達の苦心をうかがわせる出来であった。

お茶も香り高いほうじ茶と味わい深い煎茶のどちらかが選べる。

仁とエルザはほうじ茶、女皇帝とマルレーヌは煎茶を選んだ。

「幸せそうね、エルザ」

「……はい」

柔らかな笑みを浮かべたマルレーヌは、目を細めてエルザと仁を見つめた。

「あなたは、以前私が教えたことを守っているみたいだから、陛下がこの場を設けてくださったのよ」

その言葉を聞いた仁の顔に疑問符が浮かんだのであろうか、マルレーヌは仁に向けて説明するように語り出した。

「ショウロ皇国貴族の女性はね、嫁ぎ先を優先しなさい、と教えられているのよ」

つまり、嫁いだなら、自分の感情や都合ではなく、嫁ぎ先の事情を優先しなさいということ、と、補足してくれる。

「だからきっと、実家へ来るのは公的な行事が終わってからになるだろうな、と思っていたの」

女皇帝も、

「2人の様子を見ていると、ランドル家へ帰る様子がないのでね。ちょうどいい機会だから、マルレーヌをこっちに呼んだのよ。護衛はフリッツに頼んだから」

実の息子の護衛なら気疲れもせず安心である。

「そうでしたか、ありがとうございました」

座ったままだが、深く頭を下げるエルザ。

「いいのよ。エルザには幸せになってもらいたいしね」

女皇帝はふわりと微笑んだ。

「この機会に、2人へ、特にエルザには伝えておきたいことがあるの」

今度は女皇帝が話を始めた。

「我が国の紋章は3本の麦なんだけど」

ちょっと振り返り、背後の壁の壁掛けを指差す。

「由来は、この国の初代皇帝にあるのよ」