作品タイトル不明
31-31 店巡り
「ふうん、これは絹かな?」
ベロニカに案内されて入った服飾店で、仁はデザインよりも素材が気になっていた。
「これは植物性の繊維だな……」
一方でエルザは、セルロア王国風のデザインに興味を惹かれていた。
「ショウロ皇国と似ているところもあるし、エゲレア王国風なところもある」
それぞれの国と隣接しているので、影響を受けることもあるのだろう。
「若奥様、こちらは最新のデザインでして……」
店員も流行の服を勧めてくる。
「もしよろしければご注文も承っております」
「あ、それは結構です。明日には移動しなければならないので」
等々、エルザはおよそ1時間を楽しんだようだ。
それからまた移動し、道具街めいた場所へとやって来た仁たち。
「このあたりが道具街です」
「ふうん」
日用品から護身用の武具まで、いろいろな店が建ち並んでいる。
こうして同じ系統の店を集めることで、買い物客には気に入ったものを選べるように、また店同士は切磋琢磨を、という意図があるようだ。
(ショッピングモールだと、いろいろな店が一堂に会しているから買い物に便利だけど……)
どちらかというとかっぱ橋の道具街や秋葉原の電気街的な発想か、と仁は考えていた。
(生活必需品でなければこうした専門街の方がいいのかもな)
そんなことを頭の中で考えつつ、仁は一つの店を覗き込んだ。魔導具屋である。
「お、冷蔵庫がある」
エゲレア王国ブルーランドでビーナと共に作った『冷蔵庫』。それがここセルロア王国でも売られている。
なんとなく嬉しくなる仁。
他には魔導ランプ等、変わり映えのしない品揃えであった。
隣の店も覗いてみると、こちらにはなんと『温水器』が売られていた。
同じ場所で作られている魔導具が別々の店にあるのはなぜだろう、と思う仁。結局、『冷蔵庫』とは仕入れルートが違うのかもしれないと自分を納得させる。
「ああ、『温水器』ですか。これは便利ですね!」
仁が『温水器』を眺めていたのを興味を持ったのかと考えたのだろう、ベロニカが発言してきた。
「今は夏ですが、冬の寒い日などに訓練で汗をかいた体を拭くのに水では寒いので、騎士団ではこれを数台備えてあるんですよ」
あくまでもお忍びなので小声であるが。
「そうなんですか」
自分たちが作った魔導具が広く使われ、役に立っているのを見るというのはいいものだ、と、仁は改めて思うのであった。
3つ目の店は護身用の武具を売っている店だった。
護身用、というのは、要はナイフ、短剣などの攻撃力の低い武器や、革鎧に代表される軽鎧類だ。
全身鎧やショートソードは護身用ではなく、 歴(れっき) とした兵装である。
そんな感じで店を見て回っていると時間はあっという間に過ぎていき、町のそこかしこに設けられている日時計では正午少し前だ。
「ジン様、そろそろ昼食になさいませんか?」
ベロニカの提案。仁は彼女お勧めの食堂があればそこに行ってみよう、と言った。
「わかりました。お任せ下さい」
ベロニカはそれからもう一つ質問をする。
「ええと、お食べになりたいものあるいは苦手な食材などはございますか?」
「そうだな、コカリスクの肉が苦手かな」
仁が代わってその一言を告げると、エルザはちょっと嬉しそうに頬を染め、目を伏せた。
「では、こちらにしましょう」
ベロニカに案内されたのは、アスール湖で獲れた魚料理がメインという店。
「あら、ベロニカじゃない」
「やあ。今日は非番?」
「ええ。そちらは?」
「仕事でお客様の案内」
同僚らしい女性と二言三言言葉を交わしたベロニカは仁たちに向き直り、
「失礼しました。非番の同僚です」
と、状況の説明をした。
相手の同僚もベロニカの状況は理解したらしく、仁たちに会釈をしてそれきり話しかけては来なかった。
「何にします?」
「ええと、メニューは?」
席に着き、テーブルを見渡す仁。
「あ、ここは種類が少ないので壁に書かれてます」
ベロニカが指差した壁に、用意できるメニューが書かれていた。
「あの『おまかせ』っていうのは?」
現代日本の定食屋みたいなメニューがあったのでつい聞いてみたくなった仁。
「その日に入った食材を使った、料理長推薦の献立ですね」
「じゃあそれにしてみよう」
「私も」
「それじゃあ3人前ですね」
この食堂は、大衆向けと貴族向けの中間的な所らしい。
城勤めの者がよく利用するようだ。
ちょうど仁の好みとも一致している。
「これ、おいしい」
「うん、程よく焼けてるな」
マスに似た白身の淡水魚の塩焼き。塩加減と焼き加減は料理長の腕前をうかがわせるものだった。
廉価でも手抜きをせず、誠実な仕事をする料理長。
城勤めの者たちに絶大な人気がある、とベロニカは食事を口に運ぶ合間に説明した。
仁も、正直な所、王城で饗される食事よりも好ましい、と思いながらその味を楽しんだのである。
* * *
食事を済ませたあとは、残り時間の関係で、回れる店も1〜2軒である。
これを最後にしよう、と仁たちが訪れたのは素材屋である。
セルロア王国は魔法工学を奨励しているので、市井の者にも特殊素材が手に入るような店があるのだそうだ。
「こちらがそうです」
その店はやや町外れに位置し、店の横手には広い資材置き場がある。
資材置き場には簡単な屋根が設けられており、材木やインゴットなどが雨ざらしにならないようになっていた。
そして盗難避けとして、ゴーレムが見張りを務めている。
「面白そうな店だな」
仁はまず資材置き場を見ることにした。
「ふむ、この青銅は質がいいな。不純物が少ない」
とか、
「この木材はよく乾燥させてあるな。木目もよく通っていて反りがない」
等と独り言を言いながら見て回っている。
そんな仁を、エルザはにこにこしながら見つめていたのである。結婚しても変わらないな、と思いながら。
「ふんふん、こっちの真鍮は銅と亜鉛の比率が6対4か……」
当の仁は、礼子をお伴に、マイペースで素材の間を歩き回っていた。