軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

31-24 動力開発

明けて18日、仁とエルザは忙殺されていた。

何に、といえば、訪れる貴族や有力者とのやり取りに、である。

『崑崙君』との繋がりは蜘蛛の糸ほどの細さでもいいから欲しいらしく、朝から引きも切らない。

それで仁とエルザはトイレに立つふりをして非常用の『転送装置』で『コンロン3』へ、そして蓬莱島へ移動。『 分身人形(ドッペル) 』と入れ替わった。

「ふう、ほっとした」

「……同感」

蓬莱島でぐったりと椅子にもたれる2人。1時間ほどだったが、精神的にこの上ないほど疲れたようだ。

しかもまだ3分の1だという。

あと2時間ちょっとこんな時間が続いたら立ち直れそうもない。

「老君には悪いけど、任せておこう」

「……ん」

むしろ、各貴族の顔や 為人(ひととなり) を記録する上で、老君に任せた方がより今後の役に立ちそうである。

「お父さま、何かお飲みになりますか?」

ぐったりした2人を見て、礼子が声を掛けた。

「ああ、そうだな。緑茶がいいかな……」

「わかりました」

蓬莱島にもチャノキは植えてあるが、茶葉を収穫できるのは来年くらいからだろう。

ゆえに今はショウロ皇国から買い入れたお茶である。

「ああ、いい香りだ」

煎茶であるので、80℃くらいが適温である。

猫舌の仁はそれを少し冷ましながら飲んでいった。

「ジン兄、そういえば」

お茶を飲みながらエルザが話し出した。

「まったく 自由魔力素(エーテル) がなくなったらどうなるの?」

南方のことを考えていたのであろうか。

「魔導具は使えなくなるな。『エーテルジャマー』を使われたときと同じようなことになるはずだ」

「確かに」

「人間の方は、体内の 魔力素(マナ) がゼロになることはないから、多少息苦しい感じで済むと思う」

魔族が 自由魔力素(エーテル) の少ない地域に来たときのようなものといえる。

また、ショウロ皇国の 古代遺物(アーティファクト) 、巨大ゴーレムは 自由魔力素(エーテル) 濃度をゼロ近くまで下げた地下で封印されていた。

そこに人間が入っても、魔法が使えないだけだったことを鑑みても、人体への影響は軽いと思われた。

「……だったら、魔法を使わない動力の開発が必要じゃない?」

非常用として、である。

「確かにな。そうなると……」

思いつく動力は幾つかあるが、やはり『電力』が一番だろうか、と仁は考えた。

「バッテリーか……」

モーターの方は原理を知っているので作れるはずだが、バッテリーはどうだろうか。

「……原理がわからない」

せいぜいが異なる金属を電解液に浸けてできる初歩の電池しか仁には作れそうもなかった。

「……うーん……」

とりあえずモーターを作ってみようと仁は考えた。

一番大変そうなのは巻き線だ。銅線に耐熱・絶縁性のコーティングをしなければいけない。

「……やっぱり漆かな」

漆を塗り、高温で硬化、焼き付けした銅線を使うことにする仁。

「電機子は珪素鋼だったっけな」

そこまではよかったが。

「……強力磁石は難しいか……」

フェライト、ネオジム、サマリウムコバルト、という名前は知っていても、さすがの仁も製法までは知らなかったのである。

「意外な落とし穴だった」

自分で自分の抜けたところに気が付いて少し落ち込む仁。

「……ジ、ジン兄、なんか、ごめんなさい?」

エルザはエルザで、自分が変に焚きつけたせいで仁が落ち込んでしまい、少し慌てている。

「……だけど、魔法がないと、科学文明って本当に1から再出発しないとならないんだなあ」

本当に今更ではあるが、改めてこの世界における魔法の恩恵を思う仁であった。

「とりあえず、界磁も電磁石式にするか……」

モーターだけでも作ってみようとする仁であった。

* * *

そして2時間。エゲレア王国では『 分身人形(ドッペル) 』が対応を終え、寛いでいた。

そして仁は。

「よし、できた」

3台の試作を経て、実用モーター1号機を完成させたのである。

大きさは直径30センチ、長さ30センチの円筒状。軸径は10ミリ。

「……しかし電源がない」

苦笑する仁であった。

「雷属性の魔法は駄目?」

そんな仁にエルザが問いかける。

「うーん……電圧が高いのと長時間流せないのとで……なあ……」

魔導式(マギフォーミュラ) を弄って電圧がどのくらい下がるか試してみる仁。

問題は、あまり電圧を下げると放電しなくなるのだ。

「うーん……」

さっきから唸ってばかりの仁。しかしその顔は楽しそうだ。

「そうだ! 『 電磁誘導放射器(インダクションラジエータ) 』はどうだろう!」

電磁誘導の原理で、金属に誘導電力を発生させ、加熱する武器である。

「周波数を落とせば、放射はしないだろうけど電圧は発生するだろうから、発電機になるかもしれない」

「でもジン兄、それじゃ魔法に頼ってることにならない?」

「あ、そうか……」

なかなか悩ましい。

現実にも、『電気を蓄える』のは難しい。

乾電池や蓄電池は蓄えているのではなく、化学反応を利用して発電しているのだ。

キャパシタ、通称コンデンサは電気を蓄えているが、とても実用になる電力とはいえない。

「うーん……発想を変えてみるか」

悩んだ末、仁は一旦モーターから離れてみることにした。

作るまでは魔法を使うことはOK、しかし動作は純粋に科学的な動力をもう一度考えてみることにした。

「圧搾空気でタービン回すとか」

アダマンタイトのボンベなら数万気圧に圧縮できるから実用にはなりそうだ。CO2ボンベで動くエンジンもあるので作れるかも知れない。

「ああ、フライホイールもあるな」

重い円盤を高速回転させて運動エネルギーを蓄える方式である。これもアダマンタイトを使えば作れそうだ。

「単純にボイラーで蒸気を作ってタービン回すこともできるけど……今更だなあ」

魔法がなければ、地球の科学を再現することが如何に困難か、改めて認識し直す仁であった。

だが、そんなことをやっているうちに時が経ち、エゲレア王国では 宴(うたげ) が始まっていた。

それに気が付いた仁とエルザは、

「……あー……もう、いいか」

今日の所はこのまま『 分身人形(ドッペル) 』に任せることにしようとしたが、

「でもなあ……さすがに義理を欠くか」

「ん、そう、かも」

思い直し、『疲労』宴へと赴いたのであった。