作品タイトル不明
31-23 強度実験
前夜祭も終わり、王城内の国賓用スイートルームで寛ぐ仁とエルザ。
「……今日はまあまあ楽しかったな」
「ん」
そこにノックの音が。
「はい」
礼子がドアを開けると、立っていたのはアーネスト第3王子と侍女のライラ、ゴーレムのロッテ。
「これは殿下」
仁とエルザも席を立ってアーネストを出迎えた。
「ジン、少しでいいから話をしたかったんだ。今、いい?」
「ああ、いいよ」
「それじゃあ、おじゃましまーす」
あくまでもフランクなアーネスト第3王子。だが、その身長は仁と同じくらいまで伸び、顔つきも少し大人びてきていた。
「改めてジン、エルザ、結婚おめでとう」
「お父様、エルザ様、ご結婚おめでとうございます」
「ジ、ジン様、エルザ様、ご結婚おめでとうございましゅ」
アーネストたちからの祝福の言葉。若干一名噛んでいたが、それは聞かなかったことにする仁たち。
「ありがとう」
「ありがとう、ございます」
そして仁はロッテを観察する。
「……うん、ロッテも調子は落ちていないようだな」
「はい、おかげさまで」
仁の手による本気の整備がなされているので、通常の動作ではメンテナンスフリーなのだ。
立ち話もなんなので、椅子を勧める仁。
アーネストは腰を下ろし、ライラとロッテはその左右斜め後ろに立つ。
仁の正面に座ったアーネストは、ちょっと照れた顔をしてから口を開いた。
「この前もちょっと聞いたけどね、魔法工学について幾つか聞いておきたくて」
「どうぞ」
「この前……世界会議の時には『 制御核(コントロールコア) 』について聞いたけど、今日は骨格について聞きたいんだ」
「うん」
独学なのか、それとも城の 魔法工作士(マギクラフトマン) に聞いているのか、アーネスト王子は年齢のわりになかなか博識である。
「金属で作るのが一般的だと思うけど、それだと重いよね? 細くすると弱くなるし……確かロッテの骨格は、今は軽銀だけど以前は鉄だったと思うんだ。もしかしてあの時は中空だったのかな?」
以前、ゴーレム 園遊会(パーティー) での騒動後、壊れた箇所を直す際にそばで見ていたこともあり、他の一般的なゴーレムと違うことに気がついていたのである。
「そうだな……」
以前アーネスト本人からの希望もあって、公的な場以外では砕けた口調の仁。
「魔法工学からちょっと離れるけど」
前置きをして、
「棒の強さというものを考えてみたいと思う」
と、仁は切り出した。
「え……うん」
アーネストは今一つ意図が掴めないようで、怪訝そうな表情だ。
「まず……ああ、これがいい」
仁は、手荷物の中からメモ用木紙を取り出した。
それを長さ12センチ、幅7センチほどに切り分ける。
「さて、この紙で橋を作る。上にはコインを乗せて、どのくらいの重さに耐えられるか実験してみよう」
仁はまず、紙を縦に4回ほど折り重ねて見せる。
「こうして、と」
コイン……銅貨を10個ほど積んだ『橋脚』の上にその紙で作った橋を渡す。
「さあ、何枚乗るかな?」
結果から言うと、2枚乗せたところで紙の橋は折れ曲がってしまった。
「コイン2枚は無理だったわけだ。だけどこうすると」
別の紙を、今度はコの字に折り曲げ、下が開いた向きで『橋脚』の上に渡す。
今度は25枚乗せることができた。
「わあ、丈夫になるんだね」
「じゃあ、上下を逆にしたら?」
つまりコの字の開いた側を上にする置き方だ。
「……同じじゃないの?」
アーネストが言うが、仁は『そうかな?』と言ってコインを置いていく。
「あ」
9枚目で紙の橋は折れ曲がってしまった。
「……どうして?」
仁はにこりと笑い、説明を始めた。
「そう、その『どうして?』が大事なんだ。実験して結果を知り、それを応用する。その先にあるものが『どうして?』なんだよ」
「どういうこと?」
「つまり、『どうして?』という理由を知ることができれば、実験しなくてもこういった結果を予想することができるようになるからさ」
「あ、そうか」
「とはいえ、この橋の理屈は複雑で、俺にも説明できない」
構造力学は断面二次モーメントや積分を使うので、高卒の仁では残念ながらそこまでの説明ができなかった。
「ちょっと横道にそれたけど、こうした実験を繰り返すことで、丈夫で軽い構造というものを見つけることができる」
「うん」
「で、結論だ。ロッテの場合、骨格の大部分は中空構造をしているんだ」
「パイプってこと?」
「そう。この場合、『曲げ』に対する強さは、中が詰まっている時と、そう変わらないんだ。あ、断面が同じ直径をした円形としての話だな」
「ふうん……」
このあたりは仁もうろ覚えである。
「そこで魔法工学に戻るけど、この『中空パイプ』を加工できる 魔法工作士(マギクラフトマン) は少ないんじゃないかな」
「そうなの?」
「ああ。俺が見た限りでは、そういったゴーレムや 自動人形(オートマタ) はほとんどない」
かつて『 統一党(ユニファイラー) 』を率いていたエレナの骨格は中空であったが、それを引き合いには出せないので、
「リースのところにいる『ティア』くらいかな?」
あとはほとんどが中空ではなく中実構造であった、と仁は思い起こす。
「まあ、棒というか骨格の強度は曲げだけじゃなく、ねじれや引っ張り、圧縮、剪断、そしてその組み合わせがあるわけだけど」
曲げ以外の強度は、ほぼ断面積に比例すると考えてよかったと思う、と仁は結んだ。
その結論はちょっと違っているのだが、そこに言及できるものは誰もいない。
ここでアーネストから質問が出る。
「ジン、その『せんだん』って?」
「ああ、わかりにくかったかな? 剪断は……そう、ハサミで物を切るような力さ。剣で斬り付けられた時と考えればいいかな」
「あ、そうか。なるほどね」
「要は強度を落とさずにできるだけ軽く、というのが構造設計の基本だな」
これはゴーレムや 自動人形(オートマタ) に限らず、橋や建物、馬車や船なども同じ、と仁は付け加えた。
「なるほどね……面白かったよ、ジン! ありがとう」
長居もできないというアーネストは、仁にお礼を言うと立ち上がり、部屋を出ていった。
「ジン兄、今のは面白かった」
3人が出て行ってから、エルザが口を開いた。
「ああいう実験って、技術博覧会でやっても面白そう」
「ああ、確かに」
今年は世界会議があったので、秋以降に開催されるらしい技術博覧会。
「参加はどうするかなあ……」
すっかり明日のことを忘れている仁であった。