作品タイトル不明
31-22 前夜祭
「うわあ、空飛んでる……!」
「すごいな、やはりこれは」
初めて『コンロン3』に乗り、空を飛んだビーナとクズマ伯爵は驚きっぱなしであった。
今日は8月17日。エゲレア王国訪問ということで、まずはブルーランドに立ち寄り、クズマ伯爵夫妻と合流、共に首都アスントへと向かっているところだ。
「もうじき着くよ」
「速いのねえ。どのくらいの速度が出ているのかしら?」
仁の言葉にビーナは感心したように尋ねる。
「今回は時速100キロくらいかな。……馬だと40キロから60キロくらいと聞いたことがある」
ガラット山を回り込むように飛んだので直線ではないが、それでも1時間足らずで着いてしまう速さである。
「100キロ! 凄いわねえ……」
通常の乗り物で時速100キロは不可能だ。最も速い馬でも時速60キロくらい。しかもそれは短距離しか維持できない。
「あ、王城が見えたわ」
「警備の熱気球も上がってきたな」
アスントに近付いた『コンロン3』を出迎えに、2機の熱気球が上がってきた。
上昇速度といい、移動速度といい、かなりの熟練度が見て取れた。相当訓練された兵士なのだろう。
その熱気球の随伴で、『コンロン3』はエゲレア王国王城の中庭に着陸した。
「ようこそ、ジン!」
出迎えたのはアーネスト第3王子。
もちろん、王子付きの侍女ライラ・ソリュースと、お気に入りのゴーレムであるロッテも一緒。
そして、宰相ボイド・ノルス・ガルエリ侯爵、ケリヒドーレ魔法相と警護の騎士たちもいる。
「クズマ伯爵、それに夫人も、『崑崙君』のエスコート、ご苦労だった」
宰相はクズマ伯爵夫妻を 労(ねぎら) い、
「『崑崙君』、エゲレア王国にようこそ」
仁に対して国賓としての礼を行ったのである。
* * *
「本日は前夜祭ですな。明日が本番で、明後日が後夜祭」
予定を確認するように説明する宰相。
(……やっぱり3日間か)
もしかしたら2日で終わらないかな、という淡い期待は打ち合わせ開始1分で木っ端微塵に打ち砕かれた。
「 宴(うたげ) 自体はごく小規模なので、気疲れはしないと思いますぞ」
ゴーレム 園遊会(パーティー) よりは小規模になるという。
あの時は国外からの招待客もいたので、ある意味当然ではある。
「それでは、午後4時にお迎えに上がります。それまでお寛ぎ下さい」
そんな言葉を残し、宰相は忙しそうに席を立った。
残されたのは仁、エルザ、礼子、そしてクズマ伯爵とビーナの夫妻。
「……はあ」
気心の知れた顔ぶれになったので、遠慮なく仁はため息を漏らした。
「うふふ、ジンにも苦手があったのね」
そんな仁を見て、ビーナは苦笑している。
「そりゃな。俺は元々庶民だし。……そういう意味ではビーナ、凄いな。もう立派な伯爵夫人だ」
「……愛のなせる業」
珍しくエルザが突っ込んだ。
「え、ええと」
少し赤くなるビーナ。
そんな風に、和やかな時は流れ……
……午後4時となる。
* * *
「ここに、エゲレア王国は、『崑崙君』であり、『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』であるジン・ニドー卿とエルザ媛のご成婚を祝すものである」
エゲレア王国、ハロルド・ルアン・オートクレース国王が真っ先に祝福の辞を述べた。
続いてキャサリン・リイナ・スファレ王妃、宰相ボイド・ノルス・ガルエリ侯爵らも短い言葉で祝福していく。
(……これなら助かった)
長ったらしい演説を聞くのが苦手な仁は内心ほっとしていた。
そして、10人ほどからの祝辞が終わると、楽隊が音楽を奏で始めた。
(そういえば、この世界の音楽はまだまだみたいだな……)
あまり演奏に興味のない仁であったが、今更ながら楽器の種類が少ないと感じていた。
歌はそれなりに発達し、普及しているのだが、管楽器が少ないようなのだ。
ギターやハープに似た弦楽器はあるし、木琴、シンバル、ドラムといった打楽器もある。
が、ピッコロ、フルート、クラリネット、オーボエ、ホルン、トランペット、チューバ……などといった金管・木管楽器は貧弱である。
ラッパが発展したようなトランペットもどきと、リコーダーに似た縦笛があるくらいであった。
(とはいってもさすがに作れないしな……)
管楽器はさすがの仁にも作れそうもなかったのである。
そんなことを仁が考えていると、歌うゴーレム……ヤルイダーレの『ズィンゲル』に似たゴーレムが4体出て来て、歌を歌い始めた。
結婚を祝福するエゲレア王国伝統の歌らしい。
4体はそれぞれソプラノ、アルト、テノール、バスを担当しているようで、4重唱が美しいハーモニーを醸し出していた。
歌が終わると列席者は一斉に拍手する。仁とエルザも惜しみない拍手を行った。
「ただいまのは、ヤルイダーレ氏の『ズィンゲル』2号から5号による合唱でした」
司会の説明が響く。やはりヤルイダーレのゴーレムだったようだ。
それに続き、今度は2体のゴーレムが現れた。これは女性型で、ドレスを身に纏っている。
その2体はゆったりとした音楽に合わせて舞い踊る。
この時点で、仁とエルザは、これがゴーレムによる一連の余興だと気が付いた。
流れる曲がアップテンポとなると、今度は騎士風の格好をした2体のゴーレムが現れ、剣舞を披露する。
2体は、時にはバラバラに、時には2体揃って剣を振り回し、剣を合わせていく。
これもまた、なかなか目を楽しませてくれた。
それからも、音楽に合わせて行う軽業のような踊りや、ラインダンス風の踊りが披露されていった。
そして最後に、ゴーレムではなく人間が登場する。
8歳から12歳くらいまでの男の子と女の子が総勢20人ほど。
男の子は水色、女の子は桃色という点だけが異なるが、皆同じデザインの服を着ている。
彼等は整列すると、音楽に合わせて歌い出した。
ゴーレムの声はある意味完璧すぎて人間離れしたところがあるが、こちらは稚拙な点が残っている分、微笑ましい。
3曲ほど披露してくれた彼等は、歌が終わると一礼してまた去っていった。
これで前夜祭の催しは終わりのようだ。
大広間に拍手が鳴り響く。
「歌のうまい子たちを集めて、こうした催しで歌ってもらっているんだよ」
とはクズマ伯爵の説明。
「素敵な歌」
エルザは微笑みながら手を叩いていた。
仁も拍手しながら、頭の中で少年少女合唱団という単語を思い浮かべていたのであった。