軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

31-21 リフレッシュ

8月16日、仁とエルザは蓬莱島でのんびりしていた。

「ああ、ここはいいなあ」

「同感」

「明日からまた披露宴か」

「エゲレア王国なら少しはましかも」

「ビーナとルイスが接待役らしいからな」

「そういうこと」

そんな2人の所へ、礼子が冷えたペルシカジュースを持ってやって来る。

「お2人とも。これを飲んで元気出してください」

「お、ありがとうな、礼子」

今の2人は傍目にもぐったりして見えたのである。

「うん、美味い」

「美味しい」

蓬莱島謹製のペルシカジュースが一番口に合う、と思う仁たちであった。

「ところでお父さま」

仁の気分が少し上向いたと見た礼子は、一つの提案を行うことにした。

「各国巡りのあとに新婚旅行でお使いになる船の整備を始めたらいかがでしょう? 具体的には構想と段取りなどを」

仁の顔が輝いた。

「おお! そうだな!」

やはり仁は工作バカであった。

「まずは 魔力貯蔵庫(マナタンク) として 魔結晶(マギクリスタル) を大量に用意することだろう、それに 自由魔力素(エーテル) が希薄になってもなんとかできるように 魔力反応炉(マギリアクター) を増設すること……」

先日、ステアリーナの誕生会の時に話した内容を反芻する仁。

「ジン兄、生き生きしてる……」

微笑ましいものを見るような笑顔で、エルザは仁を見つめた。

因みに『ジン兄』は既にエルザが仁を呼ぶときの固有名詞化しているので当分直りそうもない。

一旦 魔結晶(マギクリスタル) に取り込まれた 自由魔力素(エーテル) は、励起させる魔力(精神波)が加わらない限り、通常状態では放出されることはない。

「手持ちを使うだけではなく、少し買いあさるか……」

仁手持ちのお金は最早とんでもないことになっているので、少しでも使うことが経済のためになると仁は考えている。

元々、今現在の3倍以上の人口がいた時の通貨量が維持されているので、破綻することがない……らしい。

らしい、というのは、仁はそもそも経済に疎いからなのだ。

閑話休題。

貯まる一方のお金を使い、素材をいろいろと買い込んでいる仁である。

そこへ、更に 魔結晶(マギクリスタル) を買い付けるよう老君に指示を出した。

これにより、 魔結晶(マギクリスタル) の市場取引価格が若干高騰し、各国の鉱山は好景気となるのであるがそれはまた別の話。

「あとは生活空間の充実だな」

何せ新婚旅行である。

何かあったら蓬莱島に戻って、という無粋なことは『なるべく』したくない仁であった。

「ジン兄、そういえば誰と誰が同行するの?」

「ああ……老君、どうなってたっけ?」

『はい、 御主人様(マイロード) 。当時参加表明したサキさん、トアさん、ステアリーナさん、マルシアさん、ミーネさん、ヴィヴィアンさんは通しで参加ですね』

「ああ、そう言ってたな」

『そしてラインハルトさん、ベルチェさん、ロドリゴさん、ビーナさん、ルイスさんは 転移門(ワープゲート) を使ってのスポット参加です』

「わかった。……となると、残るはグース、ハンナ、リシア、ミロウィーナさんだな」

『そういうことになります』

なんとなく、断るとも思えない4人である。難しいとしたらリシアであろうか。

だがそれも、『 分身人形(ドッペル) 』を用意するなどの手はあるわけで。

「つまり全員参加というわけだな。……よし、具体的な話を少ししよう。まず使う船だが、巡洋艦でいいだろう。建造状況はどうなっている?」

巡洋艦は10隻建造する予定で、今現在は「梓」「桂」「湊」「関」「犀」「宮」「鴨」の7隻が完成している。いずれも川の名前だ。

『今現在、2隻が竣工間近です』

「よし、それを改造しよう」

『わかりました。名前はどうしますか?』

「そうだな……」

巡洋艦は一文字の川の名前、としていた。今回は特殊巡洋艦扱いにするつもりだ。

「よし、二文字の川の名前にしよう。……うーんと……隅田川……利根川……釜無川……片品川……多摩川……北上川……吾妻川……鬼怒川……江戸川……」

思いつくままに川の名前を羅列する仁。

「『吾妻』はいいな。それに『江戸』なんか面白そうだ」

『わかりました。『吾妻』と『江戸』ですね』

「ジン兄、『吾妻』がなぜ、いいの?」

当然の質問かも知れない。

「えっとな、由来が『我が妻』、という意味だからさ」

日本武尊(やまとたけるのみこと) が亡き妻、 弟橘媛(おとたちばなひめ) を 偲(しの) んで『吾妻はや』と言ったことから日本の東のことを吾妻と呼ぶ、と言う伝説がある。

「新婚旅行に使うにはいいじゃないか」

「なら『江戸』は?」

「長らく日本の首都……というか、政治の中心だった町の名前なんだ」

「なら、いいかも」

エルザも納得し、特殊巡洋艦『吾妻』と『江戸』が正式に竣工することになる。

豪華客室、高級食堂、大広間など、大型客船によるクルージングツアーとはどんなものだったか、仁は思い出しながら設定していく。

「うーん……プール……はいらないな……カジノ……もいらない。あと何が……」

シャワーやトイレについてはデフォルトで設けられている。

「大浴場はあったほうがいいな。それから展望室」

最悪、蓬莱島に移動すれば不便さは解消されるが、やはりそこは『新婚旅行』。できればずっと船の上で過ごすことに拘る仁であった。

* * *

そんなことを検討していると、時間はあっという間に過ぎていく。

いつしか空は茜色、夕闇が迫っていた。

「あー……明日はエゲレア王国か」

「少しはリフレッシュできましたか、お父さま?」

「そうだな。好きなことを考えていたら少しは気分転換になったかな」

「それはよろしゅうございました」

『明日は現地時間午前10時にブルーランドへ行き、クズマ伯爵邸で昼食後、夫妻を乗せて共にエゲレア王国首都アスントへ行くことになります』

老君が予定を確認してくれた。

「わかった。まあ仕方ないな」

正直気が進まないが、『仁ファミリー』のクズマ伯爵夫妻が一緒だし、王城にはアーネスト王子やライラ、それに仁が作ったゴーレムのロッテもいる。

知り合いが多いというだけでも大分気が楽だ。

『エゲレア王国は国家予算が逼迫していますから無理に華美なこともしないでしょう』

「そう聞くと行かない方がいいのかなという気になるな……」

「でも、それでは国家としての面子が立たない。見栄も時には必要」

エルザが取りなすように言った。

「そうかもしれないが……面倒臭いな、政治の世界は」

ぼやく仁であった。