軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

31-18 国王の治療

カイナ村での披露宴のあと、1日休んで8月14日、仁とエルザは『コンロン3』でエリアス王国首都ボルジアへ飛んだ。

「ようこそいらっしゃいました、『崑崙君』」

総務相、フィレンツィアーノ侯爵がにこやかに出迎えた。

随臣5名、警護の騎士10名と、人数は少なめ。

侯爵は、仁との付き合いもそれなりに長いので、彼が派手な式典を好まないのを知っていて、出迎えも国賓を迎える最小限度に抑えていた。

「エルザ媛とのご成婚、お祝い申し上げます」

「ありがとうございます」

この時点では『本人』である仁とエルザが返礼をする。従騎士として随行している礼子も黙礼を行った。

「まずは奥へどうぞ」

案内されたのは王城に隣接する第一迎賓館。第一級の国賓をもてなす場所だ。

時刻は午後2時。

大して持って来ていない手荷物をスイートルームに置いて、仁とエルザはフィレンツィアーノ侯爵と宴の打ち合わせをするべく、応接室へと出向いた。

そこではエリアス王国特産のクゥヘとトポポチップスが出された。

トポポチップスを摘んでみると、先日ポトロックの露店で買ったものより数段美味しい。

芋も厳選しているのだろうが、塩が美味しいのだ。しかも薄塩味なのであとを引く。

「これ、美味しいですね」

素直な感想を仁が述べると侯爵は嬉しそうに微笑んだ。

「ありがとうございます。『崑崙君』にそう言ってもらえると嬉しいですわ」

クゥヘを飲んで一息付いた後、宴の打ち合わせが行われた。

といっても、エリアス王国側で段取りした内容を仁とエルザに説明し、細かな修正を入れる程度のものだ。

それによると、

14日はこの後午後5時から夕食会。国王はじめ国の重鎮達との顔合わせ。

15日が本命の披露宴で、午前中に王都を馬車で一巡りするパレード(もちろん主役は仁とエルザ)を行い、昼から夜にかけて王城の大広間で宴が行われる。

16日は後夜祭ともいえるもので、王城の中庭で静かな昼食会が行われる。出席者は王族と一部貴族のみ。

となっていた。

パレードを除き、予想していた内容どおり、いやむしろ小規模だったので仁はほっとしていたのである。

* * *

「ジン・ニドー卿、エルザ・ニドー媛、レーコ媛、ようこそおいで下された」

謁見の間……ではなく、レセプションルームでエリアス王国国王、ブリッツェン・スカラ・エリアス12世が仁とエルザ、そして礼子を出迎えた。

年齢は60そこそこ、白髪、グレイの目。病み上がりということで顔色はよくない。

座っているのも玉座ではなくソファベッドのようなゆったりした椅子だ。

その隣には第一王子アルフォンスが付いて補佐をしている。

こちらは壮年で溌剌とした雰囲気を纏っていた。

その左右には国の重鎮たち。

仁が見知っているのは宰相のゴドファー・ド・トヴェス・ロッシ侯爵くらいである。

お定まりの挨拶を行った後、重鎮たちは出ていき、残ったのは仁たちの他には国王、王子、宰相、そしてフィレンツィアーノ侯爵。

肩肘張らない夕食会となり、仁は内心ほっとしていた。

とはいえ、ほとんど面識のない国王と王子がいるので少々緊張気味。

そんな中、食後のクゥヘタイムで、エルザがまず切り出した。

「……陛下におかれましては、お身体の方はよろしいのでしょうか?」

これに答えたのはアルフォンス王子。

「よくなったりぶり返したりといったところなのですよ、エルザ媛。 国選治癒師(ライヒスアルツト) でもある貴公に1度見ていただけたらと思わなくもないですが、今回は……」

王子は、そのあと『ご結婚された直後ですし、またいずれ……』と続けるはずだった言葉を飲み込んだ。

「……ええ、診察させて下さい」

エルザが即答したのである。

というのは、エルザには国王の病気が見当ついており、また、至急治療する必要がありそうだったからである。

「よろしいのですか?」

「もちろんです」

「……『崑崙君』、奥方にお縋りしてよろしいか?」

最後に仁に尋ねるアルフォンス王子。

「ええ、もちろんです。エルザ、頼む」

「はい」

エルザは席を立ち、国王のそばへ歩いて行った。そして、

「失礼します」

と断ってその胸部に手を当て、

「『 診察(ディアグノーゼ) 』」

魔法を使った。

「……」

その顔が 顰(しか) められる。

「どうなのです?」

「『 診察(ディアグノーゼ) 』」

それには答えず、もう一度診断を行うエルザ。

「……肺結核」

エルザの診断結果が出た。

「結核か……」

「そう。でも、病巣は大きくない」

地球でも、ストレプトマイシンなどの治療薬が登場する前は、患者を空気の綺麗な静養地で療養させることで自然治癒力を助長し、それを妨害するものを防ぐという大気、安静、栄養療法が行われていた。

エリアス国王はその段階から少し進んだ症状を有していたのだ。

おそらく治りかけると激しい政務を行い、再び症状が悪化、静養に入る、の繰り返しだったのではないだろうか。

エルザがそれを告げると、王子と宰相は項垂れた。

「……仰る通りです」

「完全に治りきる前に再発させているので、かなり根治が難しい状態になっています。これは完全に周りの人々に責任があります」

「……面目ない」

エルザの苦言に、王子は更に項垂れ、宰相はばつの悪い顔をした。

「ですが」

苦言のあとは安心させる言葉を紡ぐエルザ。

「今の段階なら治ります」

本当はもっと酷くても治せるが、そんなことは言わない。

「ほ、本当ですか!」

「本当です」

エルザは国王の胸部に手を当て、治癒魔法を使った。

「『 治療措置(ハイルフェルファーレン) 』」

この段階であれば、患者自身の治癒力を向上させれば治るのだ。

「『 診察(ディアグノーゼ) 』」

もう一度診察し、患部がなくなっているのを確認した。

「これで大丈夫です。ですが、治ったからといって、無理をなさってはいけません」

「も、もちろんです」

王に変わって王子が返事をした。

『結核』とは、『結核菌』によって引き起こされる病気だ。

結核菌が肺に入ると、生体の免疫が働いて結核菌をとり囲み、小さな『核』を作る。それで『結核』という名がついたのである。

『結核菌』は人体のいろいろな臓器にも病気を起こしうる。そういった結核は『肺外結核』と呼ばれている。

エルザの治癒魔法は患者の治癒力を大幅に向上させるだけでなく、身体の様々な機能を一時的に超活性化させる。

同時に、エルザが工夫した治癒魔法『 滅菌(ステリリジールング) 』により、臓器に転移しかけていた菌も全て死滅させたのである。

「……あとは陛下に身近な人に伝染している可能性があります」

「な、なんですと!」

エルザの予想は正しかった。

王子と宰相、それに侍女数名が感染していたのである。

彼等もエルザによって治療されたのは言うまでもない。

エルザに対するエリアス王家の感謝は大きく、この後、王妃や第二王子、王女たちまでお礼にやって来たのであった。