軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

31-10 悩める人々

「うん、いい出来だわ」

クズマ伯爵夫人、ビーナが独りごちた。

彼女の目の前には真っ白ドレスが。

トルソーと呼ばれる、人間の胴体を模した『型』に着せられたウェディングドレスは、ビーナお手製である。

幼い弟妹の面倒をみていた彼女は、裁縫も得意なのである。

「うむ、見事な出来だ。これなら、王城での披露宴に着てもらうに相応しいな」

ビーナの夫、ルイス・ウルツ・クズマ伯爵も太鼓判を押した。

「だといいんですけど」

このドレスを着るのはもちろんエルザである。

* * *

「なかなか難しいと料理長が言ってたけど、なんとか間に合いそうよ」

「それはよろしゅうございました」

「ラインハルトはジン君やエルザと一緒に食事してるから、2人の好みもよく知ってるわけよね」

「ええ、はい」

ショウロ皇国では、女皇帝自ら、披露宴に出す献立を指導していた。

「ジン君は好き嫌いないとはいえ、普段から美味しいもの食べてるでしょうからね、頑張らないと」

気合いの入った女皇帝陛下であった。

* * *

クライン王国では、リースヒェン王女とアーサー王子が兄妹で披露宴の手配をしていた。

「飾り付けは派手すぎず地味すぎず、だな。『崑崙君』は華美を好まないだろうから」

「兄上、献立はこれでいいでしょうか?」

「どれどれ? ……うん、いいだろう」

幼い頃の確執も薄れ、少なくとも外見上は仲のよい兄妹である。

「後は……ティアにも聞いてみてくれ」

「はい、兄上」

* * *

「器はこれでいいかしら?」

「母上、助かります」

フランツ王国では、新国王ロターロ・ド・ラファイエット1世が、生母カトリーヌ・ド・ラファイエットと共に、披露宴の準備を進めていた。

「前国王の使っていた器は趣味が悪すぎましたからね」

ほとんどが黄金製で金ぴかなのだ。

「『崑崙島』でのもてなしを思い出すと、これでいいのかという気になりますよ、母上」

「ふふ、私の印象では、『崑崙君』ジン・ニドー殿は、気持ちがこもっていれば喜んでくれる、そんな方だと思いますよ」

「そうでしょうか」

「ええ、『もてなす』というのはそういうことですよ」

* * *

「なかなか悩みますね……」

フィレンツィアーノ侯爵は形のよい眉を歪めた。

総務相として、今回の披露宴を取り仕切っているのだ。

国王ブリッツェン・スカラ・エリアス12世は病床にあって、寝たり起きたりのため、政務は宰相であるゴドファー侯爵がとっている。

そして『崑崙君』の接待関係はフィレンツィアーノ侯爵が取り仕切ることになっており、彼女の肩には国の名誉がかかっていた。

「やはりトポポ料理は欠かせませんね」

仁が教えてくれたトポポを、あれからどれだけ応用できたか見てもらいたいという気持ちもある。

「それにモフト村やフラットヘッド村の産物も加えましょうか」

かつて仁が滞在したとわかっている村の産物を加えることで、懐かしんでもらいたいと思っている。

「飲み物は厳選したクゥヘや、フルーツ系を多めに。それから厳選したワインですね」

仁だけでなくその伴侶、エルザの好みももちろん反映させていく。

「確かコカリスクが苦手だと聞いていますから、それは避けて、シトラン系のソースを使って……」

まだ日にちはあるとはいえ、実際の準備に掛かる時間を考えるとギリギリになってしまいそうだ、と、侯爵はほっと溜め息をついた。

* * *

セルロア王国でも国を挙げて歓迎式典の準備が進められている。

「派手にはするなよ? だが重厚さは失わないようにするのだぞ」

なかなか難しい注文である。

「無理をする必要はないが、手を抜くのは許さん」

「は、陛下」

無茶ぶりとは言えないものの、かなりハードな要求ではある。

実際に実行するのは総務省主席のバルフェーザ・ウォーカー。有能な彼も、ここ数日で大分疲れた顔になっていた。

* * *

「うーん、『 引出物(ひきでもの) 』をどうしようか……」

仁は仁で悩んでいた。

「ジン兄、『ひきでもの』って?」

「え、こっちにはそういう習慣はないのか?」

問いかけたエルザに向かって逆に問う仁であったが、思い返してみれば、出席した結婚式でそういったものをもらっていないことに気付く。

「ああ、そうなんだな……ええと、『 引出物(ひきでもの) 』っていうのは結婚式というか披露宴に来てくれた人に渡す御礼……と言えばいいのかな?」

「ジン兄の所にはそんな習慣があるの?」

「そうなんだ。もっとも、披露宴に来るお客も『ご祝儀』を持ってくるから、差し引きでプラスになるんだけどな」

「ふうん……なら、『崑崙君』として何か渡すのも、いいかもしれない」

エルザも賛成してくれたので、仁は改めて考え……。

「そうだ、小判にしよう」

「コバン?」

「そう、小判。俺のいた国で昔使われていた貨幣なんだ。今は縁起物としても扱われるからちょうどいいかと思って」

仁はエルザに説明をしていった。

「でも金で作るとすごいことになりそう」

「……だな」

蓬莱島には数十トンの在庫があるが、かといってそれで小判を作ってばらまくと、金の相場が崩れる恐れがある。

「難しいな……」

この世界の通貨はほとんど増減していない。

というのも、300年前から変わっていないのである。

人口が激減したため流通量が過剰になり、各国が備蓄・調整している。

そういった経済・貨幣の流れには疎い仁であるが、結果的に極端な物価の高騰や暴落がないということは、そういったシステムがうまく働いていることだけは理解できた。

それを破壊する様な真似はちょっとしたくない。

「じゃあ記念品という意味合いで金メッキにするか」

「ん、それが妥当」

こうして、『 引出物(ひきでもの) 』が決まった。

「少し多めに作っておかないと、足りなくなったら困るからな」

「ん、それも問題ない」

「あとはデザインか……」

考えた末、全体的には仁が覚えている『小判』のデザインとする。

それに加え表側には『招福』と漢字で入れ、裏側には『ジン・ニドー、エルザ・ランドル結婚記念 3458 8 11』とアルス文字で刻印することにしたのである。